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択上場所は異なり、季節によっても多少は場の移動を行う種類が存在する。このような観点から河川における魚類の生息域をみると、広範囲な移動を行うものと比較的狭い範囲に定住するものなどがあり、それらは成長段階や季節により多様な場の選択が行われていると考えられる。
 河川形態のなかで瀬と淵に見る魚類の生息場所としての嗜好性は、一般的には淵場のほうが優位であるように思える。変化に富んだ水深があることと、多様な隠れ場所があるという点では各種類や各成長段階での利用条件を多く満足させることができる。また瀬においても、浮き石などが多くある場所には多くの種類が見られ、淵場と同様に隠れ場所や繁殖場所としての利用が行われている。
 伝統的河川改修工法のひとつである蛇篭工法にみる河岸の整備形態は、水生生物にとって単一な生活環境と思える平面ブロック工法に比較すると極めて複雑な生活環境を提供しているので、多くの水生生物にとって場の有効利用ができる機会を与えていると考えられる。ウナギ科、ナマズ科、コイ科などの魚類をはじめとして、モクズガニやテナガエビに代表される甲殻類などの主たる生活場所、また増水時などの自然災害や外敵捕食からの避難場所としても利用される。しかし、いくつかの河川形態や河川規模からみた蛇篭設置場所の適否、利用する石材の質や法量などと利用生物群との関係などについてはまだ充分な観察、調査結果が出されていない。近年では魚巣ブロックの設置が改修後の各河川でみられるが、義務的に設置されているだけと思えるような取付場所の選定不備が目立つものが多い。これらの点をふまえて蛇篭や魚巣ブロック工法と水生生物の利用形態を明確にするために、今後はモデル河川などを使った実験的な経年調査も必要かと思われる。河川改修後における淡水魚類の再生や誘致については、積極的に考えられるようになってきたが、本来は改修前にその河川特性と生息している水生生物の場の利用形態が精査されてなければならない。多自然型河川改修の基本は、多くの水生生物を他の場所から移動させたり誘致することではなく、その河川にもともと完成していた生態系を復元させるための環境整備に重点が置かれなければならない。
 多自然型の河川整備については、在来の画一的な河川整備に比較すると環境保全上の観点からは優れた整備方法といえる。コンクリート護岸法による陸水生物への影響は、第一にさまざまな生活空間の消失があげられる。ここでいう生活空間とは、水生生物の生活の場としての水環境だけでなく、水辺の自然植生により完成される生活空間も含まれる。多くの水生生物は水環境にだけ頼っているわけではなく、生活史のある場面で陸環境と関わりをもちながら生活している場合が普通である。ここで考えられる多自然型とは生態系として均衡のとれた環境づくりを目指すことで、さまざまな水環境を選択している多種多様な生物群の生活空間を設定できるような水辺設計が、環境保全Lも重要で意義のあるものと考えられる。

 

 

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