
川の流路を固定するほうが土地利用上は有利である。古く、人間が堤防を築き以前、氾濫原を洪水のたびに勝手気ままに流路を変えて流れていた川は、堤防に囲まれた狭い幅だけを流れざるをえなくなった。また、流域の土地開発が進んだため、昔は川沿いに広くあった河原や低湿地は、堤防に狭まれて川と決められた範囲にしかみられなくなった。この時点で河川の植物、とくに下流の低湿地の植物は大きな打撃を受けたが、もともと撹乱される環境に適応的な生活様式をもつ植物ゆえに人工的な撹乱にも耐え、二次的に回復したりもした。 しかしその後、事態はより深刻になりつつある。それは、治水の方法が変わり、河道を複断面にし、常時水の流れる低水路と、洪水時にのみ冠水する高水敷を分離したうえ、高水敷を公園など、人工色の強い施設に整備したためである。こうした整備は河川の植物が生えた立地そのものを奪ってしまった。ここでは河川の植物の保護上の課題をあげ、保護の考え方を述べる。
1)保護上重要な種とは
(1)保護上重要な種の定義
何が保護上重要かは、何に価値を認めるかで決まる。大事さの基準にはさまざまなものがあるが、植物群落の評価にあたって採用された土着性原理を、植物種の場合にも採用したい、それは、その地域に最も古くから住みついている種、土着の種が最も重要と考える。つまり我々にとっての自然の価値とは、地域ごとの多様性であると考えるのである。 例えば、滋賀県の犬上川や野州川の丸石河原では、カワラハハコ・カワラヨモギ・カワラナデシコなどが土着の種である。近年、ここにはムシトリナデシコが帰化し、初夏には河原を一面のピンクに染める。この景観を美しいと評価する人は多い。しかし、ムシトリナデシコを保護上重要な種とはしないのがここでの立場である。ムシトリナデシコの保護は・地中海沿岸の故郷で考えてもらえばよい。同じピンクの花なら、土着の種にはカワラナデシコがある。カワラナデシコはムシトリナデシコのようにまとまって咲くことは稀で、遠方から目立つ存在ではない。しかし、これが日本の河原の本来の植生景観なのである。 もっとも、土着の種であっても、その種が本来の生育立地と違った場所に生えた場合は注意が必要である。例えば、前述の玉石河原が増水によって洗われることが少なくなり、細粒の土砂がたまってヨモギが密にはびこりだした場合を想定する。ヨモギ自体は土着の種だが、本来、玉石河原では大きな勢力をもち得ない種である。これがはびこるのは、河原が河原でなくなりつつある証拠である。地域に土着に加え、よりミクロな環境にも土着な種こそ保護上重要と考えるのが適当である。 土着の種の中でもとくに保護上重要なのは、絶滅に瀕している植物である。生存基盤が脆弱な絶滅危惧種の生存条件を確保することによって、同一の生育環境を共有する植物の生育条件も確保さ
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