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 このほか、カワラサイコの毛深い葉、カワラハハコやカワラヨモギの針状の葉などは丸石河原に生える植物の乾燥に対する適応と考えられる。

(3)原野の植物

 河川の中・下流域に特徴的なのは、低湿地である。もともと、平野を流れる川の下流域は広い氾濫原で主に低湿地であった。今日、下流域の水辺に低湿地があるのは、堤防によって河川とそれ以外の地域が人為的に区画され、河川区域以外が開発されて低湿地がなくなったにすぎない。とくに大きな沖積平野を流れる河川の下流域に広大な低湿地が広がっていたことは、古地図などから容易に読みとれる。最近では、下流域の河川敷も人為的に改変され、低湿地の残されている河川は多くないが、関東の利根川流域、濃尾平野を流れる木曽三川、大阪平野を貫流する淀川の中・下流域などには、部分的に保存のよい低湿地が残されている。
 こうした低湿地の優占種はヨシ、オギ、マコモ、ウギヤガラ、ガマ種など、大型の多年草だが、これらは前述のように湖辺・池辺など、水湿地ならどこにでもみられる植物である。しかし、優占種のように目立たないが、氾濫原の低湿地に分布が限られる植物がある。河辺以外の低湿地がほとんど失われた今日・低地氾濫原に特徴的な在来種は、河川敷にしか残されていないといってもよい。
 河川の中・上流と同様・下流域でも増水時には水浸しになり、地形が変わるほどの撹乱を受ける。撹乱跡地には土壌、水分条件や撹乱頻度に応じて、規模も質も違うさまざまな草地ができる。撹乱直後は植被もまばらで、優占種が明瞭でない場所も多い、沖積低地の氾濫原のさまざまな草地のモザイクに対して、古くは沖積層叢野という名があったが、最近は原野という呼び名が定着している。
 原野の植物に一般の注意が向けられるようになったのは、全国版のレッドデータブックに、保護を必要とする種の生育地が集中している地域の一つとして、利根川水系の河岸原野がとりあげられて以後である。代表的なのは小貝川沿岸、渡良瀬遊水池などで、トネハナヤスリ、タチスミレ、エキサイゼリ、シムラニンジン、ハナムグラなど、関東地方に固有、もしくは準固有な植物のほか、ヒキノカサ、ノウルシ、チョウジソウ、ミゾコウジュ、フジバカマ、ヤガミスゲ・ミコシガヤなど・原野の植物が集中して分布することが知られている。また、天然記念物に指定されている埼玉県浦

 

 

 

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