
壊地と同様、ヤシャブシ類やヤマハンノキの優占する群落ができることもある。これも流水による、立地のつくりかえという点では河辺植生に含めて考えることもできるが、ここでは触れないことにした。
(1)上流域
植物の生育立地という観点からは、河川の上流と下流はまったく異なっている。上流域では侵食作用が卓越する。そこには細粒土砂の堆積地が広がることは稀で・急流にさらされる河床の岩上や岩隙、角のある礫の堆積地などが植物の生育立地となる。こうした環境は通常の陸上植物が成育するには不適当で、強固な根茎をもち、速い流れに対する抵抗性をそなえたり、しなやかな枝をもったり、流れに逆らわない流線型で全縁の葉をもった低木や多年生草本が優占種となった群落が形成される。河川上流域の群落は調査が十分でなく、全体像は明らかでないが、以下のような種が群落を形成する。 最も特徴的なのは、カワゴケソウ科の植物である。カワゴケソウ科は主に熱帯〜亜熱帯地域の急流の岩上に固着して群落を形成する特異な被子植物で、日本には鹿児島県と宮崎県に2属8種(そのうち1種は正式には記録されていない)がある。たいてい1河川に1種で、2種が確実に分布するのは大隅半島の雄川だけである。どこでも1種だけで流水に洗われる岩上にマット状の群落を形成し、2種が混生することはない。8種のいずれもが形態の変異や生態の調査が十分でなく、分類学的な再検討が必要とされており、研究が進めば比較的少数の種にまとめられる可能性もあるが、生育地の多くが危機的状況にある。 上流域の水辺の岩隙には、低木のネコヤナギや、セキショウ・ナルコスゲ・タニガワスケ・フサナキリスケなど、強固な根茎と線形でしなやかな葉をもち、急流に適応した多年生草本が群落をつくる。キシツツジ、サツキ、ユキヤナギ、シチョウゲなどは、流路より少し高い岩上に群落を形成する低木で、ミギワトダシバも類似の立地に群落を形成する多年生草本である。 こうした群落の後背地で、大きな岩の堆積地には、カワラハンノキが優占する。九州南部から奄美大島に分布するタニワクリノキの群落立地も、カワラハンノキの立地に類似している。 上流域でも流量の少ない細流辺では、イワボタン、ツルネコノメソウ、コチャルメルソウ、モミジチャルメルソウといったネコノメソウ属、チャルメルソウ属の一部の種や、ヒメレンゲ・ミズタビラコなどがセン苔類とともに群落を形成する。 これら上流域の優占種が面的広がりの大きな群落を形成する例は稀である。たいていは斑紋状・線状の群落を岩上や流水辺に形成する。
(2)中流域
中流域では川幅が広がり、運搬、堆積作用が主となる。丸みを増した礫や砂による州・砂礫堆が
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