
河川の植物
環境設計株式会社 梅原 徹
河川とその周辺には上流から下流まで、それぞれに特徴的な植物が生育しているが、植物の生育環境としての河川の特質は、水流によって生育立地が頻繁に破壊されることにある。また、生育立地が岩か土かといった基質の違いや、洪水の頻度や強度に応じて、河川には多様な植物が生育している。 河川の植物の大多数は草本植物である。木本はヤナギ類を除けば数少ない。その理由は前述のように、増水による生育立地の撹乱が頻繁に起こることにある。こうした立地では寿命の長い木本植物は生育が難しい、撹乱の間をぬって、短期間に生活環を完結できる短年生の草本植物や、立地が撹乱を受け、植物体が倒伏したり土砂に埋まっても、不定芽が出したり、萌芽して再生できる多年生の草本や、一部の木本植物だけが河川沿いで生育できる。 とはいうものの、河辺の環境は一様ではない。一般に上流域はわずかな降雨でも水位が急に上昇し、日本では急峻な山地域の場合がほとんどであるから、河床勾配が大きく流速も速い。河辺の植物は頻繁に冠水する。これに比し、下流域では川幅も広く、少々の降雨では冠水する範囲も限られている。したがって、河辺の植物も立地に応じて多様な種類がすみわけている。
1河川に多い植物と固有な植物
河川の植物といっても、そのすべてが他の立地と異なった種類というわけではない。河川の水辺環境は、上流と下流で大きく異なるが、それぞれの立地に適応した河川に固有な種類のほかに、水辺なら河川に限らず、どこにでも生育する植物もみられる。むしろ量的に多いのはそうした種類で、とくに中・下流域で優占群落を形成する種類には、湖、池など、止水域の水辺との共通種が多い。 表1に、日本に自生する植物のうち、“カワ”、“カワラ”など、河川をイメージさせる形容詞が和名につけられている種類をあげた。“タニガワ”、“サワ”、“ダニ”、“ミギワ”といった形容詞のついた植物は、主に河川の上流域の渓谷や渓流辺、“カワラ”は主に中流域、“カワ”は中・上流域に分布することが多い。もちろんあてはまらない例も多く、サワヒヨドリ、サワシロギクなどは川より湿地に分布する種であるし、河辺に分布が限られる種でも、形態や地名が冠されている場合も多い。 興味深いのは、ヨシ、オギなど、下流域の湿地と共通の種に、川をイメージさせる形容詞がついている例がないことである。川の川らしい特徴は中・上流域にあることが、古くから認識されてい
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