日本財団 図書館


 1995年1月17日は神戸大震災の日であるが、この日総理大臣の諮問を受けていた21世紀地球環境懇族会(近鰍即座長)が『新しい文明の創造に向けて』という提言をまとめ、総理大臣に答申を提出している。答申の骨子は地球環境問題の解決には、現在の文明思想の基礎となっている価値観や価値体系を根源的に問い直した新しい文明思想=地球環境倫理の必要性を求めたものであり、自然との共生と調和を意図する「生態系保全の思想」と発生の抑制とリサイクルを意図する「循環の思想」がうたわれている。開発や地域環境計画との関連で注目されているミティゲーションは、正にこの地球環境倫理を基本理念としなければならない。
 生態学は、今更論じるまでもないが、一般的認識では生き物とその環境との相互関係を扱う学問分野であり、古代の”博物学”の流れを持ち、自然、生き物を対象とする総合科学でもある。この点に対して異論は少ないであろう。したがって、自然の開発と保護、保全に関する議論の場では、自然科学、生物学を基礎に置いた学問背景ではあるが、地理学、地形学、動物学、植物学、気象学、水分学、土壌学、人類学、土木工学、建築学、文化論、政治学、行政学、経営学、経済学など様々な分野での評価を総括する総合化の立場が生態学ではなかろうか。しかし、多くの生態学の専門家は、社会科学や他の自然科学への配慮(知見のなさ?)あるいは開発行為の様々の影響や自然保全の方法に対する完壁な解答を求めすぎているからか、その立場と役割を回避してきている。そのため、日本は諸外国に比べて生態学に対する社会の評価が低い。
 生態学の専門家は、自然保護に凝り固まらずに、開発行為の影響や自然保全に関する解答を出すための調整役、議長に積極的に立候補する必要があるのではなかろうか。

おわりに

 国、地域や対象となる事業によってミティゲーションの概念や方法が異なっているが現状であり、わが国でも実質的にミティゲーションが実施された事例をあげることもできる。しかし、開発サイドの表現を使えば「必要不可欠な開発、整備」が様々な規模で推進されていることによって、複合的な環境劣化が起こっている現状に少しでも釘をさし、持続的、広域的に環境の保全と回復をもたらす行動を義務づける為には環境アセスメントにおいてミティゲージョンの概念と手法の本格的な導入が早急に必要であると思えてならない。そして、そのたには生態学の役割が重要に思えてならない。
 追記 平成4、5年度に環境庁の委託により(株)日本総合研究所が中心となってミティゲージョン導入の検討を行った。検討委員会のメンバーに加わった関係から「ミティゲーション」に少なからず関心をいだいた。したがって、本報で取り上げた事例やデータの多くは、委員会の報告書からの引用である。

 

 

 

前ページ   目次へ   次ページ

 






日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION