
の持続性を確保するために実施しなければならない。様々な維持管理作業の必要性についての認識が薄い点である。ミティゲーションが行われた生態系の多くは、その規模と複雑性(=完成度)からも十分とはいえず定期的な維持管理が必要となる。湿地では、定期的な木本類の除去、ヨシなどの刈り取りや俊渫も必要となる。しかし、ミティゲーションによって確保された生態系は、周辺も含めて公園として地方公共団体に移管される場合が多い。そのため、現状では維持管理手法の伝達が行き渡らずにその後の管理が不十分となる事例が見られている(経費の問題も多いが)第4に、個々の開発に対してのミティゲーションが行われたとしても、複数の開発が行われた時の影響がどうなるか、広域移動する動物・鳥類の生息の場は、複数の開発によって影響が深刻となる。この点は、生態系の保護・保全に対する目標・区域指定を中心とする行政サイドの問題との関係が深い。 第5に、代替・代償する場所が確保できない場合に、ミティゲーション・バック、ファンド・トラストなど金銭的代償を認めるかどうかである。金銭的な代償措置は、他の措置が不可能な場合の回避的な措置ではあるが、ディベロッパーにとって金銭的対応のメリットも少なくないために安易な導入は避けなければならない。また、この点は日本での自然保護関係の基金とその活用法が十分に成熟していないことによって生じる問題でもある。第6に、公共的性格を有する自然・生態系の保護・保全を(開発)事業者の責任に限定して良いのかという点である。ミティゲーションは、それなりに経費負担を伴う場合が多いと予測され、ひいては開発事業の遅れをもたらしかねない。
考察
現在行われているわが国の環境アセスメントが、制度として優れているにも係わらず、問題を含んでいるとすれば、自然環境の本質的な価値valueと貴重さscarcityに関する議論がなされてこなかったことではなかろうか。ミティゲーションの検討に当たっても常に出てくる問題である。すなわち 「なぜ湿地(この自然)を守るのか?」 「人間にとっての価値は?」 「いかに貴重であるのか?」 などの問いかけとその回答である。わが国では行政も科学者もナチュラリストも十分な検討・PRを怠ってきている。この種の議論が欠如している原因は、日本人の文化的・歴史的特性であるとの意見もあろうが、短期的かつローカル至上主義的な昭和40代以降の価値観である(この点に関する議論は、別稿に譲る)。しかし、地球環境問題との関連で、環境保全に対する望ましい問いかけとの解答の一部が最近出てきている。
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