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きの緊密化なしには、ありえなかったであろう。EUに代表されるヨーロッパの地域協力が、ヨーロッパの経済的後退に対する危機感を一つの有力な動因として形成されてきたのに対して、東アジアの地域協力は、経済成長の結果としてもたらされたものなのである。ローマ帝国以来長期間にわたって歴史と文化を共有し、経済発展の水準も大差のないヨーロッパの地域協力と比較すれば、東アジアの地域協力は、まだ揺藍期にあり、制度化があまりすすんではいないことは否定できない。しかし歴史的経験も文化的背景も、また経済発展の水準も大きく異なる東アジア諸国の間に、地域的まとまりの意識が生じたことの画期的意義は、決して無視できないのである。
 第五に、しかし東アジアにおける産業化の発展は、地域的結びつきと協力とを促進するだけでなく、自信とナショナリズムの台頭をもたらしている。この関連で、地域の国際関係に与える変化という観点から特に重要なのは、世界最大の人口と広大な領土とを持つ中国が、強大な国家として再び現れ始めていることである。清帝国末期以来中国は弱体化と内部的混乱を続け、それが列強の対中侵略を招いたり、地域の国際関係を不安定化することはあっても、中国自体が地域の各国に脅威を与える存在ではなかった。しかし急速な経済成長と軍事力の拡大とにより、過去2世紀で始めて、中国は軍事・経済大国として、国際社会に再登場しようとしている。ナショナリズムに燃える新興大国の出現は、かつてのドイツや日本やロシアがそうであったように、国際秩序の大きな(そして危険な)変動要因となりやすい。したがって新興大国中国の存在は、他の地域には見られない東アジアの国際関係の重要な特色なのである。


日・独の特色と役割

 日本とドイツは、アメリカに次ぐ経済大国であり、それぞれ東アジアとヨーロッパで、経済的に指導的役割を果たしてきた。またこの両国は核を持たない大国という点でも共通している。
 日独両国の役割として、第一に重要なことは、アメリカ(U.S.A.)と協力し、アメリカが唯一の軍事超大国として、また技術革新の最先進国として、世界の平和の維持と持統的繁栄とに、特別の指導的役割を果たし続けることに協力するということが挙げられる。特に東アジアでは、アメリカはその軍事的プレゼンスが大部分の国から歓迎される唯一の大国であり、したがって「誠実な仲介者(HonestBroker)」としての役割を果たすことのできる唯一の国家である。もしアメリカがこの地域から完全に引き上げるならば、多くの国は不安に駆られて軍事力の増強に努め、軍拡競争と国際緊張の悪化の悪循環が生ずるであろう。世界経済に大きな意味を持っている中東や西欧の安全保障の上で無視できない東南ヨーロッパでも、程度の差はあったとしても、事情は基本的に類似していると思われる。
 しかしアメリカの経済的優位は、第二次大戦直後と比較して、当然ながら相対的に後退

 

 

 

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