国・台湾間の緊張という、東西対立の下で生じた深刻な国際紛争が、依然として存続している。しかも単に対立が続いているというだけではなく、近年、韓国と台湾で民主化が進んだ結果、自由主義的民主主義と共産主義との体制的対立という色彩がむしろ強まってきた。朝鮮半島の場合は、北朝鮮の国際的孤立化と経済的危機とにより、北朝鮮の体制が崩壊する可能性が高まっているが、その崩壊過程が平和的であるという保障はない。中・台関係では、経済関係は密接になってきているにもかかわらず、台湾の経済発展と民主化とにより、台湾の国際的地位が向上し、台湾の自立化が事実として進行していることに対して、中国側は強い危機感を抱いている。
第三に、ヨーロッパでは、共産主義体制の崩壊は、ソ連とユーゴスラヴィアという二つの多民族国家の解体をもたらし、その結果ボスニア・ヘルツェゴヴィナやチェチェン・タジキスタン・アゼルバイジャン・グルジアなどにおける深刻な対立に示されるように、これまで抑えられていた民族対立が各地で激発するようになった。これに対して東アジアには、ソ連の領土に編入された非ロシア民族共和国はそもそも存在せず、したがってソ連帝国が解体しても新しい国家は出現せず、旧ソ連領はそのままロシア領となった。また清帝国の版図を基本的に継承した中国は「最後の帝国」といえ、少数民族と漢民族との対立は存在するものの、中国がソ連のように解体する兆しは、少なくともこれまでは見られない。したがって冷戦の終結が、帝国的秩序解体の引金となり、新しい民族的対立を生み出すという事態は、東アジアでは起こっていない。それだけでなくすぐ後で説明するような経済発展により、東アジア諸国の政治的安定度は高まり、内乱やゲリラ活動はほぼ平定されるようになった。その結果、東アジアでは、過去数世紀で初めて戦火が基本的に収まったのである。その意味では、第二に挙げた冷戦期の対立の存続にもかかわらず、東アジアはかってなく平和になったと言えるであろう。
東アジアの国際関係における最近の顕著な特色として、第四に、目ざましい経済発展とそれにともなう地域内の結びつきの緊密化を挙げることができる。1970年代初頭までは、この地域で経済的に先進国化していたのは日本だけであり、他の東アジア諸国は途上国の状態にあった。しかし70年代を通じて、東アジアの「四つの竜」(韓国・台湾・香港・シンガポール)が急速な経済成長を実現し、80年代に入ると、他のアセアン諸国、さらに中国の沿海部も、それに続くようになった。ヴェトナムやラオスの共産政権も、中国にならって市場経済の導入と対外開放政策の採用に踏み切っており、60年代から鎖国政策を取ってきたミャンマーの軍事政権も同じ方向に進みはじめている。その結果、東アジアは世界経済の成長センターとなるにいたったのである。
経済発展の普及と関連して、特に注目すべき国際関係の変化は、地域内の貿易・投資が急速に拡大し、これまでまとまりに欠けていた東アジアが、歴史上初めて一つの地域としての実体を具えるようになったことである。アジア太平洋協力(Asia Pacific Economic Cooperation,APEC)やアセアン地域フォーラム(ASEAN Regional Form,ARF)のような。地域的国際協力の枠組みも、このような地域全体の経済成長による地域内の経済的結びつ