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てよい。これは共産主義体制が相次いで崩壊している現状と、まことに対蹠的である。
 第二は、先進民主主義国こそが産業化・豊富化を達成できていることである。社会の管理が比較的容易な小規模都市国家(例えばシンガポール)かエネルギー資源輸出能力が高く人口の少ない国(例えばブルネイ)を除いて、一人当たりGDPで2万ドルを超える「豊かな社会」を実現した国は、先進民主主義国以外には存在しない。産業化の動力である技術革新をリードし、また途上国援助に積極的役割を果たしているのも、事実として先進民主主義国のみである。指令経済を基礎とする共産主義の挫折が明白となった現在、産業化のモデルとして残されたのは、市場経済のみであり、市場経済を基礎として産業化をなしとげた先進民主主義国の影響力は、冷戦終結後一層高まっているのである。
 第三は、平和への貢献である。先進民主主義国の間での戦争は、事実としてこれまで一度も生じていない。また先進民主主義国は基本的に現状維持国家(Status−quo States)であり、その意味で国際秩序維持的である。とりわけ第一次大戦以後、「国際紛争解決の手段として」武力を行使することへの批判が、先進民主主義国に高まり、戦争の非正統化に貢献した、NATOや日米同盟に代表される第二次大戦後の西側同盟が、主権国家体制成立後のもっとも安定した友好・同盟関係であるのは、決して偶然ではない。先進民主主義国の間にも、対立が生じないわけではないが、その対立を軍事的手段で解決することは、すでに考えられなくなっており、その意味で先進民主主義国間の関係は、基本的に平和的である。今後も、世界の平和は、西側同盟の結束に決定的に依存しているのである。


東アジアの特色  一 ヨーロッパとの対比 一

 現在の世界における経済活動においては、北米、西欧そして東アジアという三つの地域が中心的役割をはたしている。しかしこの中で、東アジアは特に政治・安全保障の面で、西欧・北米と異なっている。
 第一に冷戦終結により、東アジアでも緊張緩和が進んだが、ヨーロッパではロシア・東欧の共産主義政権が全て崩壊したのに対して、東アジアでは、中国・ヴェトナム・北朝鮮・ラオスで共産主義政権が依然として続いており、脱共産化したのはモンゴルとカンボジアだけである。もっとも北朝鮮を例外として、東アジアの他の共産主義国はいずれも市場経済の導入と対外開放政策に踏み切り、経済体制の面では脱共産化がかなりの程度進んでいる。そして市場経済の発展とともに、それらの諸国でマルクス・レーニン主義が魅力を失ってきていることは否定できない。しかしロシアや東欧諸国のように複数政党制が正統化されているわけではない。安全保障の問題についてこの相違は特に重要である。したがって共産主義政権の存続は、冷戦後の東アジアの国際関係の特色として無視できない重要性を持っているのである。
 これと密接に関連して、第二に、東アジアでは、朝鮮半島における南北の対立と大陸中

 

 

 

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