政治・安全保障分野における多国間枠組みにおける日独の新たな役割と協力関係
世界平和研究所研究主幹
佐藤 誠三郎
現在の世界には、190もの国家があるが、それらは大別して、三つに区分できる。第一は、市場経済を基礎とした産業化に成功し、豊かさを基本的に実現し、そして安定した自由民主主義(Liberal Democracy)の政治体制を確立させることに成功した国々である。OECD加盟国の多くはここに属する。日独両国もこの第一のタイプの国家であることは、いうまでもない。以下ではこのタイプの国々を先進民主主義国(Advanced Democracies)と呼ぶ。第二のタイプは国家的統合は保持されているが民主化は不十分であるという国家で、経済的にも豊かさを未だ達成していないのが通例である。権威主義体制(Authoritarian Regime)の下にある途上国や旧共産主義国の大部分はこのタイプに属する。現在第一類型に属する国でも、比較的最近までは第二のタイプに属していたものが少なくない。第三は、帝国的秩序崩壊の後、複雑な民族・宗教紛争により国家形成に成功せず、無秩序状態が広がっている国であり、主としてサブ・サハラや旧ソ連・ユーゴスラヴィアにみられる。これらの三タイプはあくまで大雑把な分類であり、現実にはこれらの中間にある国々が少なくない。
I. 先進民主主義国の重要性
以上の三タイプの国家のなかで、第一の先進民主主義国は、次のような理由により、これからの世界の平和と安定のためにとりわけ重要な役割・地位を占めている。産業化とナショナリズムの世界的普及という現実を考えれば、軍事力と経済力の双方において、一つの国が長期にわたって圧倒的な優位を占め続けることは不可能であり、したがって特定の覇権国(具体制にはアメリカ)による平和と繁栄(覇権安定[Hegemonic Stability])は今後に期待できず、それに替わる安定と繁栄の国際システムは、少なくとも当分は、先進民主主義諸国の協力を基礎とする以外に在りえないであろう。
先進民主主義国が特に重要である第一の理由は、それらの国々が基本的に安定していることである。自由民主主義は「良い統治」を必ずしも保証しない。それどころか多くの先進民主主義国において、民主主義の「統治不能性(ungovernability)がしばしば問題とされているのが現実である。しかし自由主義的民主主義が、産業社会では最も安定した政治システム(とくに指導者の選出方法の制度化の点で)であることも否定できない。自由民主主義体制が25年間以上続いた国でそれが崩壊した例は、事実としてこれまで皆無といっ