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る。国境が開かれ、技術、通信、輸送が著しい発展をなし、経済関係が緊密化し、資源と自然環境に共に依存している現状が、ただ一つの世界の中で、我々をますます密接に結びつけている。世界の問題は複雑になり、現在の我々の世界秩序は安定という言葉を知らないかのようである。
 不安定というのはもはや軍事面、戦略面が中心ではない。西洋のニュースにざっと目を通せば、人間が共に生きる中で、社会、エコロジー、文化の問題が増加していることは一目瞭然と言ってよい。これらの問題に共通しているのは、国や大陸の境を越えて見られる現象であって、自国から遠く離れた他人事として片付けられないことである。その意味で、我々は、我々全てに降り掛かる、新たな質の安全保障上のリスクに直面している。経済的な相互依存やグローバルな環境リスク、そして国際安全保障の新たな脅威が国際社会を、望むと望まざるとにかかわらず、一つの利益共同体にするのである。いかなる国と言えども、自らの利益を他国の犠牲の上に追及することはできない。さもなくば、結局は自らが苦しむことになる。


III.

 開発援助はこうしたグローバルなリスクに対処しようとする。従って、一国内に留まらず世界全体に係る分野を課題とする。例えば貧困、際限のない人口増加、森林の消減、土壌の侵食と砂漠化、水不足と大気汚染、資源浪費、気侯変動、廃棄物処理、疾病、伝染病、麻薬生産などが主な分野として挙げられる。これらの問題を先進国と途上国が協力して解決することを目指して、援助政策は「世界的に責任を共有する共同体」、「開発におけるパートナーシップ」のビジョンを追及する。なぜなら、いかに強大であろうとも、今日、独力でこれらの問題を解決する能力を持つ国はないからである。
 先進国の開発援助構想は、国際政治環境の根底的な変化、とりわけ1989年/90年の変化を契機として、新しい重点を取り入れた。今日の開発援助は10年前とは異なる内容を持っている。
 今日我々は、持続的な発展の鍵が、相手国の潜在力を引き出し、さらには民間投資へのインセンティブが高まるような枠組み条件を整備するところにあることを知っている。発展とは即ち、人間が自らの生活の改善と、延いては社会全体の幸せのために自らの創造力を発揮できるように、新たな選択肢と余裕を作りだすことである。人間の努力と社会資源が・全体の発展に資することを保証する政治制度と経済秩序の存在するところでのみ、発展は可能である。国内の政治、行政、法制度が、個人の生産活動や、国民が成長の恩恵に与ることを妨げていると、発展には成功しない。この基本的な認識を基にドイツ政府の援助政策が策定されている。
 まず第一に、我々は協力に際して政治面を重視する。つまり相手国側の開発のための国

 

 

 

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