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 この過程は、貿易面における2国間、あるいは多国間の調整で、直接投資が重要な手段として組み込まれる過程だった。それにより、貿易と直接投資の連関性が飛躍的に高まった。米国の高齢の経営専門家、P・F・ドラッカーが次のように「投資の時代」に注目したのは1989年のことである(「新しい現実」:NewRealities)。
 「世界経済は国際経済からグローバル経済に変わった、グローバル経済が各国の国内経済を大きく左右することになった。グローバル経済を動かすものは、財、サービスの貿易ではない。それは主として資本の移動である。今後、ますます貿易が投資に従う、実に、貿易が投資の関数になる。世界経済の主役は貿易から投資に変わった。投資が貿易に従っていたこれまでとは逆になった。」
 1996年9月に発表された国連の世界投資報告(United Nations, “World Investment Report”)は次のように、ドラッカーの8年前の指摘の正しさを立証している。

  • 企業の国際化のテンポは劇的に加速した。技術進歩と競争の激化に伴い、先進国の企業と並んで、ますます多くの発展途上国の企業が活発に国際化を進めている。これら多国籍企業の海外子会祉および関連会社の年間売上が優に6兆ドルを超している。 
  • 貿易と投資の関係に新しい動きが起こりつつある。歴史的に見ると、製造業は投資をする前に先ず貿易を行った。しかし、今では貿易と投資の関係はもっと複雑になっている。そしてこの新しい関係が新しい機会を提供している、1993年までの25年間に、先進15カ国に本社を有する多国籍企業の数は3倍以上増えて2万3000社となった。更に重要なことは、新しい経済環境(モノ、サービス、資本、企業活動等の動きに対する物理的、技術的、政策的な障害の減少、技術進歩による生産要素移動の大幅な容易化など)の実現によって、今や企業が外国市場でモノを売る場合、自国で生産して輸出するか、現地生産しその国で販売するのか、または第三国で生産し、それを自国に輸出するか、などについて選択の自由度が高まった。
  • 企業にとって今や問題は、どの国で付加価値を生み出す企業活動を行うかという問題に移っている。どこの国を選定するかは、とりもなおさず、どこの国に投資し、どこの国に輸出するかの決定である。すなわち、場所が選定できると、投資と貿易の流れが同時に決定される。

 貿易を中心としたGATTの時代における自由化は、貿易財に対する関税、および輸入の数量制限や取引慣行といった非課税障壁を引き下げることが中心テーマだった。各国で関税は大幅に引き下げられ、非課税障壁も低下した。とりわけ関税という価格面のボーダー調整は、1973年以降の為替の変動相場制のもとで、その実質的な経済効果を限界的なものにした。

 

 

 

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