大問題ではなく、欧州も合む世界全体の大問題である。その点、WTOへの中国の加盟問題が重要であろう。WTOは冷戦終焉後に生まれた本格的な国際経済機関の第1号である。WTOがポスト冷戦の世界でどれだけ有効な機能を発揮できるかは、中国をWTOがどう扱うかにかかっている。基本的に重要なのは、中国はWTOに加盟しようと加盟しまいとに関わらず、すでにグローバル経済へ参加しているという現実である。それが現実である以上、中国がWTOのメンバーになってWTOのルールに徐々にではあっても従うように誘導する方が得策ではないか。日独はWTOの主要メンバーとして、この問題において指導力を発揮できるのではないか。ただ、その前提として、両国が中国の加盟問題についての共通認識を得ることが必要である。
1995年に発足したWTOは、冷戦時代をともに歩いたGATTと比べて、「21世紀の国際貿易のルール」として幾つかの長所がある。第一は紛争処理メカニズムが強化され、現実にもこのメカニズムを活用する国が増えたことである。世界経済にはグローバル化のモメンタムと地域主義のモメンタムが同時に働いているとすれば、前者のモメンタムを強化し、後者の地域主義についてはそれが排他的でなくオープンなものになるようにしなければならない。そのためにもWTOの紛争処理機構が機能することが望ましい。また、多国間主義に逆らって二国間主義、更にはユニラテラリズムの動きもあり、WTOはそれへの歯止めとしても有益である。日独両国は、世界貿易の主要な担い手として、ルールに基づいた貿易が広く行われるよう、WTOプロセスを支援して行かねばならない。
また、WTOが世界貿易のフロンティアを重視し、サービス、投資などの新分野を取り扱っていることにも意義がある。アジアの諸国は、従来に伝統的な経済発展段階説の発展段階を順次踏んで一段毎に高い段階に移行する形をとっていない。蛙飛び論が示す通り、ある発展段階をスキップして一気にハイテクの段階に移行しているケースもある。その結果、こうした新分野は、ひとり先進工業国だけでなく新興の工業国にとっても重要な分野となりつつある。
III. 直接投資の時代と投資ルールの確立
1980年代後半以降の世界経済のメガトレンドの一つは、国境を越えた直接投資の流れが飛躍的に大きくなったことである。各国間、あるいは地域間の経済的な相互依存が投資を媒介して急速に深まっている。この過程は以下の諸要素が重なる中で進展した。
- 欧州においてEU(欧州連合)による統合進展が加速した。
- 各国、とりわけアジア諸国が経済制度を改革し対外開放政策を採用し、直接投資を自国の経済発展のために戦略的に活用しだした。
- 冷戦がソ連の統制・指令経済システムが自己崩壊する形で劇的に終焉したため、旧「東側」諸国においても経済の分野では市場経済を志向する「市場経済化ドミノ」が発生した。中国もその流れに乗り、経済の本格的な発展過程に入っている。
- 1985年の先進5ヵ国(G5)による「ブラザ合意」を起点とした為替レートの大調整により、貿易の調整ゲームの中で直接投資という手段が企業の経営戦略として決定的に重要になった。