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セッション II

経済分野における多国間枠組みと日独協力

日本経済新聞社論説主幹  小島 明



I. 歴史の加速

 冷戦の終焉後の世界は、「歴史の終わり」の到来ではなく、Z・プレジンスキーが指摘した通り「歴史の加速」である。政治の面でも経済の面でも、変化はグローバルなスケールで加速している。グローバリゼーションという言葉で示される世界経済の統合のモメンタムが強まる一方で地域主義、更には民族主義、ナショナリズムが高まる傾向が同時に見られる。方向の違ったこの二つのモメンタムをどう調和させるかが、21世紀へ向けての日独はじめ世界の課題であり、挑戦なのだろう。
 冷戦後に幾つもの期待と認識のバブルが生まれ、そして消えた。今は、一時のバブル崩壊後の、現実的な調整の時期である。期待と認識のバブルは、例えば(1)ロシアが速やかに先進国並みの民主主義国家になる、(2)冷戦という第3次世界大戦が終わり、国際信義が世界に行き渡る真の平和な世界が到来する、(3)その結果、歴史は発展の最終点まで到達し「歴史の終わり」に至った、(4)単一欧州が実現し、21世紀は欧州の時代になる、(5)最強に経済力を持った日本が世界の脅威となる一一といった認識であり、そうした認識はまさにバブルの如く短期間で崩壊した。欧州には新たなペシミズムが生まれ、ロシアの民主化と安定はまだまだ遠く、地域的な紛争はむしろ多発している。東西対立に代わって「資本主義間冷戦」の時代になったとする指摘もある。経済の分野ではアジアの大勃興、とりわけ中国の台頭があり、将来の超大国・中国への脅威論や警戒論が生まれている。日本の経済バブルは1991年であっけなく崩壊した。米国には経済・産業の将来への自信が蘇り、R・サマーズ財務副長官は「20世紀はアメリカの世紀だったが、21世紀も間違いなくアメリカの世紀になる」と断言しているほどだ。
 再び新しい認識と期待のバブルが悲観論、楽観論の双方で生まれているのだろうか。「歴史の変化の加速」だけは現実であり、真実のようだ。


II.WTOの機能

 「歴史の変化の加速」の中で、幾つかの新しいトレンドが生まれている。経済の分野ではアジアの勃興はすでに歴史の現実である。勃興するアジア、その中でも中国を世界がどう受け止めるか、あるいはどういう形で受け入れるのか。それはアジア太平洋地域だけの

 

 

 

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