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ない。連帯や社会保障といった自己理解、また連帯と補完性の関係も改めて問い直されなければならない」と。
 社会保険料の値上がり、個々の家庭にとっても企業にとっても高い公租公課負担、テクノロジーや進歩に対する阻害、また法的・事務手統きの複雑さ、これらについて、根本的な変革が必要なのだ。賃金協定の法的位置づけについても、近代化と柔軟化が必要である。
 ドイツの社会保障の枠組みの財政は就労労働に密接にむすびついているため、われわれは悪循環から抜け出せない。つまり、失業率が増加すると社会保障関連の収入が減少し、しかし同時にその支出は増加するのである。その結果保険料は値上げされ、それがますます失業率を押し上げてしまうのである。この悪循環の結果、ドイツ経済の競争力は低下し、産業立地ドイツにおける投資は滞り、その結果ますます失業率が低下する。つまり、使用者側負担分の社会保険料は、無関係な給付から解放されることによって減額されねばならないのである。そうすれば、さらなる雇用促進も期待できるだろう。
 これに加えて、ドイツ人はますます高齢になりつつある。これは嘆くべきことではなく、喜ぶべきことではあるが、人口動態の劇的な変化が起こることは計算に入れておかなくてはならない。いかに喜ばしい現象のせいだといっても、これは、社会保険制度にとってはさらに大きな難問を突きつけるものだ。というのも、賦課方式で財源を確保しているのは年金保険だけではなく、公的介護保険もまた世代間契約によっているからである。今日では年金受給者1人あたり3人の労働者が支えている勘定であるが、30年後にはその数は2人を割ることだろう。したがって、年金水準の引き下げは長期的には不可避だろうし、民間老齢保険もますます必要となるだろう。今日既に、貯蓄型生命保険と特約年金保険をめぐる保険業界は大盛況である。
 にもかかわらず、もし責任ある地位にある人々が事態の深刻さを認識し、山積する課題を市場経済的手法によって共同歩調をとりつつ解決してゆくなら、構造変化を雇用促進に利用できるチャンスは大きい。成長産業分野の雇用ポテンシャルが競争の中で育ち得なければならないのである。今日既に、就労者の6割以上がサービス業分野で働いている。1960年にはそれはまだ4割に満たなかった。サービス業や新しい情報テクノロジー、また遺伝子工学・バイオテクノロジーなどの技術革新に向けての構造変化のもたらす、経済成長と雇用を促進する効果を十分利用できるよう、われわれは開かれた市場での競争を促進し、国による規制を撤廃していかなければならない。
 既に多くのことがなされては来ているが、もっと多くのことを実行していかなければならない。私の連邦州テューリンゲンについて言えば、次のようになる。競争力のある経済と、旧連邦州と比肩しうる生活水準の実現を確保できるよう、われわれはさらに前向きに建設を続けてゆくであろう。私は、新連邦州における事態打開が、ドイツ全体の立地再活性化の模範となるであろうことを確信している。われわれの前にはまだ多くの解決すべき難題が山積しており、ここに至るまでの道のりの困難に比べても楽なものだとはいえないだろう。しかしながら、新連邦州における経済とインフラの整備は、多くの悲観論者が考えるよりもずっと先に進んでいる。コップは半ばまで満たされているのであって、半ば空っぽなのではない。

 

 

 

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