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かびあがる。労使が折半して担う社会保険料は、1950年には労働者1人当たりにかかる雇用コストの20%だったのが、今日では40%に倍増している。このコスト上昇はまだ今後も続くだろう。というのも、社会保険の4つの柱の何れもが、支出上昇傾向に歯止めがかからない状況を抱えているからである。人口動態から見た長期的試算に基づくと、おそらくは失業率については改善されるであろうものの、それでもなおかつ社会保険料は、現在の枠組み条件が変わらない限り、西暦2040年には雇用コストの5割を超すと見られている。
 社会総生産の中に占める社会福祉予算の割合を示す福祉支出率は、全ドイツで約34%を超えるものとなっている。1人当たりの社会保険に対する出費は1993年度で13,000マルクの壁を超え、その上昇に歯止めがかかる気配は見られない。1970年と比較しても、これは340%の増加を意味している。
 産業分野における社会保険費の雇用者側負担分は現在、直接報酬額の84%にのぼっており、被用者1人当たりの年間コストは平均36,950マルクというものである。ドイツ雇用者連盟のデータによると、1980年代半ば以来続いているこのコストの上昇はひとり立法者の責に帰すべきものであり、雇用者側負担分社会保険料の55,8%は法的に生じたものだとされている。雇用者側負担分社会保険料は、経済学的に見れば、生産要素である労働の価格を上昇させ、労働倹約型の投資を伴う資本集約型生産を促進するものである。経営学的に見れば、たとえばドイツの手工業見習い職人(Geselle)は、同僚のあらゆる社会公課分を合んだ1時間分の雇用コストを自分の手取り収入によってまかなおうとするなら5時間も働かなくてはならない、ということを意味している。こうした数字を見るなら、闇市場(無届け)労働や投資資本の国外移転が増加するのも驚くに値しない。
 社会福祉国家に対して必要かつ根本的な修正を加えるということは、しかし決して、「福祉国家など全く機能しないのであって自由経済秩序とは相容れない」と宣告したり、また原理的な批判によってその終焉を宣告したりすることを意味するものではない。むしろ、自由主義的経済秩序と社会的市場経済のアイロニカルな精神の双方に適うような有効な改革の歩みを始めるためには、いったい社会福祉国家のどの箇所が改革されねばならないのかが問われなければならないのである。
 ドイツの経済立地を確保し、国際競争力を維持ないし再生し、なおかつ社会保障の水準を維持するために、われわれは変革を受け入れる用意と新たなるものを目指す勇気を持たなくてはならない。雇用者側と被用者側、経済界と労働諸団体、連邦・州・地方公共団体、政治と経済といったすべてがともに力を合わせることが必要である。最終的にここで問われているのは、ドイツが東西いずれにおいても必要な構造変革の能力を持っているか、ドイツがダイナミックな世界経済の変革プロセスについていけるのか、そして同時に社会福祉国家を維持できるのか、という問いなのだ。新連邦州ではこれに加えて、このような困難な条件下で西に追いつくプロセスをいかに先へ進められるかという問いが加わるのである。
 われわれの社会福祉国家という組織に緊張が生じているのは見紛う方もない。人は皆が知っている、「変革がなされなくてはならない、古い遺物は改めて検査し直さなくてはなら

 

 

 

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