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経済は一国内規模の領域をこえて、ますます地球規模の関連の中で動くようになってきているのである。
 こうした傾向の中、経済政策は取り残されてしまった。今日企業はしばしば国際的な場で活動しており、生産拠点を世界中のどこにでも移すことができ、また実際そうしているわけだが、経済政策の側は未だに国民国家の枠の中で対応しようとしているのである。こうした背景からすると、ドイツが西ヨーロッパとしっかり結束することは、単に政治的目標にとどまらず、経済的必然でもある。すなわちヨーロッパ域内市場の導入は、ヨーロッパ国民経済に3,000万ドル規模の成長利益、つまりヨーロッパ域内の総社会生産の2%増をもたらしただけではないのだ。それは、加盟各国に、共通の外交政策形成のための行動能力をも与えのである。むろんその際、だからといって、しばしば言われてきたような「要塞ヨーロッパ」の危険が現実のものとなるようなことはなかった。
 ヨーロッパの経済・通貨同盟には、経済的に健全なヨーロッパ各国がおそらく2年足らずのうちに参加することになるであろうが、これはヨーロッパ域内市場によって進められてきた統合政策の一つの論理的帰結なのである。これによって、今日ではまだ通貨交換レート保証のため、また両替に際して発生している域内市場での通貨交換コストを削減するであろうし、また共通通貨の登場によって初めて遂に一つのものへと育ってゆくことができるであろう市場に、さらなる成長のための刺激をもたらすことだろう。すなわち、金融サービスと保険という、きわめて生産性の高い、未来を担う市場のことである。1998年始めには、ヨーロッパ連合のどの国が必要な経済収赦基準を満たし通貨同盟に加入できるかについて決定が下されることになっている。この収斂基準という必要な基準を満たすのに現在まだ困難をかかえている国が幾つかあるとはいえ、私は、1999年1月には8ヵ国から10ヵ国のグループがこの共通通貨に向けてスタートを切れるものと確信している。
 通貨統合によってヨーロッパは、金融市場のグローバル化によって失われてしまっていた金融・通貨政策の政策能力も取り戻すこととなろう。共通中央銀行は、もはや事前に各国中央銀行の合意をとりつけるというやっかいな手統きの必要なしに、為替市場に介入して投機に立ち向かうことができる。長期的に見てユー口は世界市場におけるドルの優位をも相対化し、結果として、貿易に依拠するあらゆる国にメリットをもたらすことだろう。
 とはいえ、あまりに楽観的な考えは戒めておかねばならない。ヨーロッパ通貨統合だけで西ヨーロッパ経済の産業立地(拠点)問題解決に寄与することはできないからである。共通通貨が導入されても、それだけでドイツに雇用が創出されるわけではない。それはヨーロッパの将来的安定と成長にとっての必要条件ではあるだろうが、十分条件ではないのだ。そのためにはわれわれの国民経済の再建作業がさまざまに必要となる。それについて、この発表の最後に触れることとしたい。

 

 

 

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