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 一方、社会保障費の増大は必然的に政府の財政に大きな影響を及ぼす。1996年会計年度の日本の中央政府の一般会計予算は75.1兆円であるが、国債利払費16.3兆円、地方交付税13.6兆円などを差し引いた政府の歳出予算は43.1兆円である。これに対して社会保障関連予算は総額14.2兆円に上り、歳出総額の33%を占める。ちなみに1972年には1.6兆円で歳出の18%に過ぎなかった。高齢化の進展に伴い社会保障給付が増えるにつれて国庫負担額もこのように増加するから、高齢化のさらなる進展は国家財政に重い負担を課することになる。
 現在(1996年度)でもすでに政府の累積債務は中央政府で241兆円、地方政府で136兆円に上っており、これにいわゆる隠れ借金(約64兆円)を加えれば、政府の累積債務はすでに国民総生産の9割(490兆円)に匹敵する額に達していると推察される。

 高齢化はこのように、社会保障支出の増大を通じて国の財政に益々大きな負担を課すことになるが、現在のしくみのままで負担が増大してゆけば将来の経済の活力を大きく減殺することになりかねない。高齢化に伴うこのような重い負担を軽くしてゆく手だてはないものだろうが、そのためには二つの側面が考えられる。

 一つは社会保障負担などを担う力を強化することである。それは基本的には国民の所得総額を増やすことだ。それは単純化していえば、労働力を増やす、もしくはその減少を防ぐこと、そしてその生産性を高めることである。
 労働力の減少を防ぐには、これまで充分に活用されてこなかった女子や高齢者などの人的資源をこれまで以上に活用することが求められる。労働時間の短縮も抑制すべきかもしれない。外国人労働者の導入は短期的には有用だが、長期的には社会保障の負荷を増やすから問題の先送りに過ぎない。
 生産性を高めるには技術革新が鍵となる。技術革新を促進するにはR&D投資や設備投資が必要だが、そのためには投資の原資となる貯蓄が必要だ。貯蓄は人口高齢化に伴って減退すると見込まれるから、この面での楽観は許されない。経済構造改革によって資源の有効活用をはかることが重要な戦略となる。
 高齢化に伴う負担を担う力を強化する戦略は重要だが、以上に見たように、労働力や貯蓄の面で、そこには自ずから大きな制約がある。
 いま一つの側面は社会保障費用を節約することである。社会保障サービスの質を落とせば費用は節約できるだろうが、質を落としてしまっては後退である。質を落とさずに費用を節約する方途を考え出す必要がある。
 社会保障には周知のように三つの大きな部門がある。それは医療、年金そして介護などの福祉だ。給付総額で見ると1993年時点で、医療、年金、介護はそれぞれ29兆、22兆、6兆であり、また1996年度政府予算では総額14兆の内訳は各々6.4兆、4.1兆、3.7兆で

 

 

 

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