した圧力はバブル崩壊後の長期にわたった平成不況の過程で一層厳しいものとなった。「住専問題」で焦点となった金融産業はその象徴的な一例である。金融セクターには農協を含め約100万人の労働者が働いているが、グローバル化の中で、この部門が必要とされる効率化を達成するにはおそらく20万ないし30万人の雇用削減が必要だろう。情報化の波に乗って莫大な利益を上げている巨大企業のNTTですら今後数年間に雇用者数の一割に相当する2万人程度の雇用削減を計画中である。総計約3000万人を雇用している派遣サービス産業でどれだけの雇用削減が必要とされているかは容易に想像されよう。
日本経済の再活性化と完全雇用の達成のために従って経済産業構造の高度化に伴う大規模な雇用の再編成が必要とされていることが判るだろう。このような経済の産業構造と就業構造の本格的な自己改革を実現できれば日本経済は活力と完全雇用を新たな時代環境の下で両立できるであろうし、それができなければミスマッチによる失業が増大し、日本経済は急速に衰退の道を辿ることになるだろう。
こうした経済構造の改革の基本は、市場の自由な競争機能のメリットを生かして資源が市場を通じて効率的に配分されることを促進することである。
しかしそれは常に市場を開放し、規制を緩和するだけで達成されるとは考え難い。市場の自律的な調節機能は理論的には正しくとも現実の経済構造のダイナミズムはそれほど単純ではない。
経済構造転換の過程で発生する摩擦を通じて失業の増大は避けられないであろうし、それは適切にコントロールされなければ政治のチャンネルを通じて構造転換や改革そのものを阻止する力に転化する恐れもある。
こうした複雑なプロセスを適切にコントロールするためには常に市場の力に委ねるだけではなく、政府の総合的な注意深い誘導政策が必要である。
私はかねてよりそうした総合的な政策パッケージとして「新産業の雇用創出計画」を唱えてきた。日本の政策関係者の中ではこうした考え方への理解も深まっているが、それは次の6つの柱から成る。
(1)政府の総合計画による指針
(2)機動的なマクロ経済政策運営
(3)基本的なインフラの整備・拡充
(4)戦略的な規制緩和
(5)労働者の自己啓発支援政策
(6)R&Dの政策的支援
この内容のうちとりわけ、労働政策に直接かかわるものについて付言しておきたい。第4番目の戦略的規制緩和の一環として職業紹介事業の自由化を進めるべきである。ドイツでは1987年に民営職業紹介事業を禁止しているIL096号条約を破棄したが、総合的な構造変化に直面している日本も職業情報の提供を自由化してミスマッチの解消に役立てるべ