I. はじめに
20世紀の末を迎え、先進諸国の経済社会はいずれもおおむね共通の症状もしくは課題を抱えるに至っている。それは、過去の経済発展の成果として豊かな成熟社会となったこと、それと同時に、人口増加が停滞もしくは減少に向かい、人工構造の高齢化が進展していること、その結果、社会保障負担の増大と財政上の困難が顕著になっていることなどである。
日独両国は、こうした先進国に特徴的な問題を典型的に抱えているといえるが、両国の現状と経験を比較し検討することを通じて、21世紀に向けてこうした先進国経済社会を再構築するための何らかの建設的示唆を得ることができるかもしれない。本稿ではそうした問題意識から議論のための若干の素材を提示したいと思う。
II. 日独の共通課題そして先進国の共通課題
日独の経済社会が共通に抱えている症状と課題は、同時に現代の先進国に共通の問題でもある。本節では、まずそれらの問題群のうち主要なものを指摘し、それらの問題の解決のために取り組むべき課題の方向性をも合わせて指摘することとしたい。
第一は、人口の問題である。日本もドイツも人口動態は出生率の低下によって低迷しており、長期的には減少の傾向にある、ドイツでは出生率が比較的高かった旧東ドイツの統合によって長期的な人口の減少傾剛にはやや歯止めがかかったが、日本は近年著しく低下した出生率のおかげで21世紀に入ると総人口は確実に減少してゆくと見込まれている。人口減少は、同時に、人口の高齢化と、少子化による生産年齢人口の減少を招く。
このような人口構造の変化は、国民経済の貯蓄率を著しく減退させることになるだろう。貯蓄率の高い働き盛りの年齢層が減り、貯蓄を消費する高齢の従属人口が増えるからである。
一方、高齢化に伴って、社会保障の費用は確実に増大してゆく。日本では高齢化のぺ一スがとりわけ速いだけに社会保障給付費とその負担の増加も急速である。社会保障費の負担は、年金、医療、介護のいずれについても一定の国庫負担があるので、高齢化の進展に