しかし、その結果、生産性の高い西側市場からの圧力により、旧東独経済の大部分は破綻した、旧東独計画経済の非現実的な価格設定が一掃されたのである。統一後、既に1兆マルク以上の資金援助が旧東独地域である新連邦州に行われているが、統一から6年たった現在も、新連邦州は自前の経済復興とは程遠い状態にある。最新のテレコミュニケーション設備など、新連邦州の生産性向上のための投資、インフラ整備は進んでいる。成長のチャンスは技術革新的産業、サービス産業にあり、引き統き、成長能力ある企業の参入を促すような条件整備を進めることが政府の課題である。
経済のグローバル化の中で、ドイツの欧州との結合は単に政治的目標ではなく経済的必然である。欧州域内市場統合の導入は、共通政策形成のための行動能力を加盟各国に付与するものである。欧州経済通貨同盟(EMU)は、欧州域内市場統合の論理的帰結である。これは、金融サービス・保険市場の成長を刺激する。加えて、金融市場のグローバル化で失われた金融・通貨政策の政策能力の回復を図るものであり、長期的にはドルの優位をも相対化するものである。但し、欧州経済通貨同盟により、欧州経済の産業立地問題は解決されるわけではない。欧州経済安定と成長のための必要条件であって十分条件ではないのである。
ドイツの失業問題の大部分は構造的に生じている。失業問題の一因は、連邦政府の経済政策のまずさにある。すなわち、労働市場の柔軟性に制約を加え、市場価格メカニズムを補助金により破壊し、ドイツ総生産の50%に国家が関与している。この結果、企業や個人の活動領域を縮小し、意欲を減退させ、長期的に経済ダイナミズムを失わせた。国家の関与を減らし、歳出原則を厳格にすることが将来の政策目標である。政治は持続的雇用を生み出すことは出来ず、国家の役割は、より良い経済的発展のために必要な枠組みを作り出すことであることを確認しなければならない。
産業立地の危機は、社会福祉国家の危機でもある。社会保険料が雇用コストの40%に達しており、高齢化によりさらに上昇することが予想される。投資の国外流出も当然である。国際競争力を再生し、かつ社会保障の水準を維持するためには、変革を受け入れなければならない。しかも、統一に伴う経済復興のプロセスの中で行わなければならない。今問われているのは、必要な構造改革の能力をドイツは持っているのか、ということである。経済界と労働界、連邦・州・地方、政治と経済といった全てが協力していく必要がある。構造変化を雇用促進に利用できるチャンスは大きい。サービス業や情報技術、バイオテクノロジーなどの技術革新に向けての構造変化がもたらす経済成長と雇用促進効果を利用しなければならない。そのためには、開かれた市場での競争促進と国による規制の撤廃が必要である。