3)項も地震観測機器の未発達であった当時における充分合理的な工学的仮定であるといえる。今日のモーダル解析では実地震に対する架構の時刻歴応答はスペクトルを用いて評価することが可能であるが、真島博土の理論にはすでに地震動の卓越周期を変えることも想定されており、すでにスペクトルの概念が構想されていた可能性も指摘される。
●真島博士の単位架構について
真島博士の耐震鉄骨の構造計画の最大の特色は既に図(4−3−14)に示したように、剛接単スパンの矩形単位架構とこれら架構群を相互にピン接続するという構法である。
このような構法を採用した最大の理由として、大型計算機のなかった1920年頃には、真島博士の動的理論で要求されるような精度の高い架構の応力解析の手法が完成していなかったことが指摘される。すなわち、撓み角法の基礎理論は1914年にWilsonによって提唱されたばかりであり、我々がよく利用する固定モーメント法は漸く1925年にHardy Crossが発表したもので、大震災当時はまだ知られていなかった。また、Wilson&Maneyの方法にしても理論的には厳密であるが、節点数と層数の和の次元を有する連立方程式を解く必要があり、その意味で多層多スパン架構の実用解析にはほど遠いものであった。一方、当時の目本では内藤多仲博士の近似解法が関東大震災直前に発表されたが、この解法も真島博士の理論を実現するには精度的な制約があった。なお、真島博士は昭和5年に出版された坂静雄著「構想架構論」(文啓社書房)に到って初めて目的に沿いうる架構解析手法が実現出来そうだと述べている。
このため、博士は厳密な理論解が容易に求まる架構として、図(4−3−14)のようなユニット架構システムを考案したことが次の記述から分かる。
”…近似の方法が之等の値に如何なる影響あるや實物實験の困難なる未だ照査修正の好い方法もないのみならず、之等の適否は直に最後の結果に重大なる影響があって耐震構造上の生命であるから、なるべく不安のない仮定の加わらない、理論の正度の高い構造を選ぶべきである。幸いに単梁間の重層架構では解法も簡単で、正確の程度も高く実用にも多くの不便を伴わない。且つ其最も都合のよいことは単梁間重層架構の並設が多梁間の連続剛接架構よりも震力の上から却って有利である。…単位架構とは四柱を一単位としたる方形または矩形の塔状架構であって、之等を要所の間取りに配列して各単位架構間は両端滑節或いは之に近い簡易の構造を有する床梁で連結する。又全架棚は各層毎に一体の鋤筋混凝土床版で結束したものである。”
すなわち、博士の単位架構とは図(4−3−15)に示すように、水平力を受けて逆対称変形する架構を解析する場合、これを梁の反曲点で切断して、不静定力として各層1つの梁箭断力Viを考えれば、図の最下段の式で示すように各層梁の反曲点位置での鉛直変位がOとなる事を条件に、総数に等しいViを未知数とする方程式を解けばよいことになる。このようなTree structure(樹状構造)が厳密に成り立つ構造として、単位架構が当時最も実用的であったためである。
図(4−3−16)は2層架構の解析例である。大正時代すでに右下に示すような1次・2次モードに対する架構の曲げモーメントや箭断カを完全に解析して、鉄骨架構の設計を行っていたことを証明している。
●真島博士の鉄骨煉瓦の考え方
博士は煉瓦壁に対して下記の設計方針をもっていた。(199頁)