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付近には上部の床(鋼板床の可能性あり)と結合するリペット列が認められる。また、図(4−3−11.b)は廊下の天井であるが、図(4−3−9)の梁状通りに各ユニット架構ごとに3列の小梁が割りつけられていることなど、汲川氏のスケッチと整合している。
 また、鉄骨断面と接合部に関し、汲川氏は図(4−3−12)のような庁舎のスケッチを示している。柱は断面成12”=300mm、幅6”=150mmのI形鋼、大梁も桂と同寸で、小梁は成8”=200mm、幅3”=75mmである。桂梁の接合はウェブをビン接合として、梁の下端にブラケットを設けている。図中庁舎2階柱梁取付け詳細にはスブリングブレート(5/8”)が描いてあるが、ここに”庁舎以外は取り止めにした”との注記がある。何れにせよ、この接合詳細は博士の著書の図とほぼ同じであるが、柱については山形鋼を利用した箱型断面ではなく、成が一まわり小さいロールI形鋼(I−3/8”×12”x6”)になっている点が異なる。
 機関学校の他にこの様な組立箱形断面柱を使用したものがあるのかどうかは不明だが、汲川氏は”甚目所長より機関学校の諸施設は「軽微なものを除き、全て鉄骨造とする。その引当鋼材は八八艦隊の建造用引当鋼材がワシントン条約の軍縮協定によって剰余となり、目下呉海軍工廠に保管一中である。この鋼材を機関学校建設用として極力活用せよ」と鋼材リストの交付を受け、先に貸与されたイギリスのドルマンロング社のカタログと照合してみたところ寸法、形状が全く同じであった。”(53頁)
 と述べたあと、山形鋼のリストを示していることから、舞鶴では箱形断面ではなくI形鋼が引当てられたためこれを、柱や梁に利用するように設計したようである。 なお、氏は躯体鉄骨に利用した材料が軍艦建造用引当鋼材であったので肉厚のものが多く、構造計算上余力が有り過ぎたのを記憶している(75頁)”とも記している。

●真島理論の解析仮定

 ここでは機関学校の設計を考えるのに必要な真島博士の柔構造の耐震設計の考え方を簡単に要約する。真島理論は以下の3点を前提とした数学的な設計手法と言える。

1)架橘を弾性体に近似して、外力を受ける場合の振動をモード解析により正確に理論計算して、一次と二次正規関数と周期を求めること。

 これは図(4−3−13)の下段の様な骨組架構の振動を上段の連続体の振動と同様のモード形に分解して撓み形と周期を求めることを基本としている。一次と二次モードについてのみ考慮すれば、3次以上に高次振動の影響は小さいことを証明した上の実用的な手法である。

2)想定した地震の地動変位から導かれる等価的な外力加速度に対する架構の応力(曲げモーメント・剪断力)や変形量を弾性撓み理論に基づいて正確に算定し、許容応力度設計を行うこと。

3)想定地震動として周期1.O秒・振幅12cm程度の調和関数を仮定する。  これは大森房吉博士の本郷での関東大震災時の観測記録から解析結果、最大振幅88.3mm、周期1.35秒に基づいている可能性がある。

1)、2)項は現在の高層建築などの設計で用いられる手法と異ならない。このような設計法が始まるのは米国では1960年代始め、我が国では60年半ば以降である。しかしながら今でも一般建築ではまだ殆ど実用されていない。世界に先駆けること半世紀、すでに日本海軍ではこのような優れた耐震設計手法が確立され、これによって舞鶴機関学校が建設されていた事実は将に驚嘆に値する。

 

 

 

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