多くの旅行目的地国において旅行客が宿泊、飲食、国内交通、娯楽、ショッピング等に支出する費用は、雇用や開発機会を創出するための経済の重要な柱となっている。2005年の国際観光によって、約70ヶ国で10億米ドル以上の収入が得られた。2005年の国際観光収入は全世界で6,800億米ドル（5,470億ユーロ）と推定される。額としては470億米ドルの増加となり、これは世界第2位の観光収入大国スペインの観光収入額、もしくはカリブ海、中央アメリカ、南アメリカ、南アジアの観光収入の合計に匹敵する額である。

　全ての地域および小地域区分とも共通して前年比増となった。ヨーロッパは200億米ドル増で、2005年の観光収入は3,480億米ドルを超えた（世界合計の51%）。米州は130億米ドル増の1,450億米ドル（同21%）、アジア・太平洋地域は110億米ドル増の1,390億米ドル（同20%）となった。以下は限られたデータしか入手できていないが、それに基づく推定値では、アフリカが20億米ドル増の210億米ドル、中東が20億米ドル増の280億米ドルで、それぞれ世界合計の3%、4%を占めている。国際観光収入を現地通貨で算定し、インフレ率分を差し引いた前年比では、2004年の9.3%という大成長に続いて、2005年の前年比は3.3%増であった。

　

　

　地域別では、最も高い増加率を記録したのはアフリカ（8.5%増）で、アジア・太平洋地域（4.3%増）、米州（3.8%増）、ヨーロッパ（2.4%増）、中東（1.5%増）と続いている。いずれの地域においても、国際観光収入の増加率が国際観光客到着数の増加率を下回っている。原因はいろいろ考えられるが、高収益のビジネス旅行の回復がいくぶん弱いこと、比較的伸びているのは短期間の旅行であること、低コスト航空会社による格安運賃の影響が大きいこと、貨幣価値のよい旅行目的地国へ移行していることなどが挙げられる。

　国際観光収入は、旅行目的地国にとって輸出と見なされ、宿泊、日帰りを問わず旅行客による取引すべてが含まれる。しかし、旅行者の居住国外の組織団体で契約された国際旅客輸送収入はここには含まれず、国際線運賃収入という別項目に計上される。比較可能な国際的なデータの入手は限られているが、ここ数年間の国際線運賃収入による輸出額は国際観光ならびに国際線運賃収入合計の約16%になると推定され、2005年は約1,300億米ドルに相当する。

　

　

　よって、国際線運賃収入を含めた国際観光収入の合計は、8,000億米ドルを超えている。言いかえれば、国際観光による収入は1日当たり20億米ドル以上となっているということである。輸出部門としては、これは世界の物品・サービス輸出総額の約6%に相当し、燃料、化学製品、自動車製品に次いで第4位である。その上、多くの旅行目的地国、特に開発途上国や島嶼国にとっては、観光は輸出収益の最重要部門となっている。

　

　国際観光の旅行目的地上位国・地域について論じる場合、複数の指標について見ていかなければならない。「国際観光客到着数」と「国際観光収入」という観光の二大指標によって旅行目的地上位10ヶ国のランク付けをすると、順位に入れ替わりはあるもののどちらのリストにも登場する国が9ヶ国ある。上位3位はアメリカ合衆国、スペイン、フランスで占められている。アメリカ合衆国は観光収入で1位だが到着者数は3位、フランスは到着者数で1位だが観光収入は3位、スペインはいずれも2位である。イタリアは観光収入4位、到着者数5位で、中国は到着者数4位、観光収入6位である。イギリス、ドイツ、トルコ、オーストリアは観光収入で5位、7位、8位、9位を占め、到着者数では各々1ランクずつ下がった順位となっている。メキシコは到着者数のみ、オーストラリアは観光収入のみで、それぞれ旅行目的地国・地域トップ10にランクインしている。

　この二つのランキングの相違は、滞在期間、旅行客のプロフィール、支出レベル、生活費、日帰り旅行客やクルーズ乗船客による支出がどれだけあるか等について、旅行目的地国ごとに相違があることに起因する。例えば、ヨーロッパの大送客市場に囲まれた旅行目的地国であるフランスヘの観光客は、相対的に短期滞在型となるのに対し、国土の広い米国へ赴く旅行客の平均滞在期間は比較的長くなる傾向にある。

　

　

　2005年のトップ10ランキングは2004年からほとんど変わっていない。観光収入ランキングにおける唯一の変化は、ドイツが6%増というすばらしい結果を出したにもかかわらず、中国が14%の増加を見せて、ドイツを抜いて6位の座を占めたことである。国際観光客到着数の大きな変化は、トルコが2004年の26%増に続いてさらに2005年、21%の増加を見せて9位にランクインしたことである。中国、トルコとも、この10年で非常に大きな伸びを見せている旅行目的地国の代表選手である。中国は大差でアジア・太平洋地域の先頭を進んでおり、世界のランキングを着実に登りつつあり、到着者数でアメリカ合衆国、観光収入でイギリスに迫りつつある。トルコは地中海地域で第4位、また、観光大国フランス、スペイン、イタリア、イギリス、ドイツに続くヨーロッパ第6位として、近年その地位を固めてきている。