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卒業生インタビュー
 今年3期目を迎える「手話教室」だが、過去の卒業生たちは、手話教室でどんなことを学び、何を感じてもらえたのだろうか?
 毎回、多数の受講生を送り出して頂いている「京阪電気鉄道(株)」と「大阪市交通局」のご協力をいただいて、お二人の卒業生にインタビューしてみました。
 
 かつては、鴨川の堤防沿いの桜並木に囲まれ「三条京阪」の愛称で親しまれた京阪の終点「三条」駅も、今は京阪電車が出町柳まで延伸(鴨東線)され地下駅となって、「京都市営地下鉄」とも接続し、その機能が広がって駅の雰囲気も一変した。
 そんな「三条」駅に、第2期手話教室卒業生の「富田実沙子」さんをお訪ねしてお話を伺った。
 
 
― 富田さんの会社での業務はどんな内容のお仕事ですか?
 主には案内業務と改札業務です。
 
― 教室に参加しようと思われたきっかけは何ですか?
 会社のほうから教えてもらったのと、前回(第1期)に参加された方からのお話もありました。もともと福祉に興味があったものですから・・・
 
― 参加しての印象はどうでした?
 初日はまず自己紹介と、言葉を使わずにクイズみたいなのがあって、大変でした。クイズはカードに書かれた動物等を表現して当ててもらうんですけど・・・
 
― それは、手話を使うとかではなくて・・・
 はい、まさにゼスチャーゲームみたいなものです。私は「セミ」の問題だったんですけど、なかなか解答してもらえませんでした。言葉なしで伝えるのは大変なんだというのを実感しました。
 
― 手話をそれなりに理解できるようになるまでにはどれくらいかかりました?
 最初、挨拶から始めて最後は文章にするスピーチまでやったんですけど、手話には(人それそれに)いろんな表現があって、確実に理解するところまでは行きませんでした。でも、最後のほうになってくると手話の単語を部分的に読み取って、こんなことを言っているのかなと想像することはできるようになりました。
 
― 手話教室を経験して何か変わりましたか
 手話はできなくても身振り手振りや口話を交えることで、耳の不自由な方ともコミュニケーションは取れるんだということも分かりました。まずコミュニケーションをとることが大切だと気づかされたのが、一番大きいですね。
 
― 終了後は、手話のほうはどうですか?
 もう、だいぶ忘れてしまいましたが、時々、当時の教室の仲間と連絡しあって集まる機会があるんですが、そんな時は、挨拶なんかを含めて手話で会話したりします。ほかの会社の方で中級を学んでいる方もあると聞いていますんで、やりたいとも思うんですが、初級でも難しかったんで大変かなと・・・
 
― いま公共交通機関のバリアフリーの取り組みがいろいろ行われていますが、富田さんがいま職場で心がけていることはどんなことですか?
 会社でもヒューマンサポート研修があったんですが、その中で、私たちが良かれと思ってお手伝いしていることが、障害者の方にとっては逆に良くなかったりする場合もあることを知って、如何に相手の立場に立って考えることが大事かを教えられました。
 
― 先ほど言われたコミュニケーションをとることが大切だと?
 そうですね。そのための環境づくりも必要だと思います。障害者の方々がインフォメーションを利用されるに当たって、抵抗感を無くすることが大切だと思います。ハードの面でも課題はあるとは思いますが、私にできるソフトの面での工夫をいろいろ考えてみたいと思っています。
 基本的には、健常者、障害者を問わず、お客さまに平等に接することが大事だと思います。お客さまが求めておられることに応えられるように頑張っていきたいと思います。
―ありがとうございました。
 
 天王寺といえば、大阪の南の玄関口。大阪市営地下鉄「天王寺駅」は、谷町線、御堂筋線が入り込むとともに、JR線、近鉄線との接続駅として毎日大勢の利用客でにぎわう大夕ーミナルだ。
 第1期手話教室卒業生の「山本勝之」さんは、そんな「天王寺」駅に勤務しておられる。職場にお邪魔をしてお話を伺った。
 
 
― 地下鉄天王寺駅の利用者は、どのくらいあるんですか。
 御堂筋線だけで、1日19万5千人の方が利用されています。
 
― 現在、山本さんが携わっておられる業務は、どんな内容のお仕事ですか?
 いまは、駅構内の案内などの接客業務をやっています。
 
― 手話教室へ行ってみようというきっかけはなんだったんですか?
 自分でも何か特技を身につけたいと思っていましたし、周りからも、こんなん有るから行ってみたらどうと言われて参加しました。
 
― 実際行ってみて手話教室はどうでした?
 最初は、何かぎくしゃくしたものを感じてましたけど、だんだん他の会社の人たちとも交流ができるようになってスムーズになってきました。
 初日は自己紹介でしたが、指で名前の文字を書いたりして伝えました、また、渡された紙に書いてある動物を皆に当ててもらうクイズでは、「ペンギン」の問題だったんですが、これは動きに特徴があってパントマイムでどうにか分かってもらえました。
 
― 教室を終了して、ある程度は手話を理解できるようになりましたか?
 半年間の勉強の結果、部分々々をつないでいけばどうにか理解できるようにはなりました。
 日常の業務でも、何回か手話を使用する経験をしましたが、「どこへ行って、何をしたいか」程度はどうにか理解できました。少しできるようになると、自分もより深いものへと要求が多くなります。お客さまの要求も多くなりますが・・・
 
― 手話教室を経験して仕事のうえで何か変わりましたか?
 以前は、障害者や外国人の方との接客では、できれば自分に当たってほしくないという避ける気持ちがあったのですが、コミュニケーションをとることについてある程度の自信ができました。そういった意味では、接客する上で大きな成果を得られたと思います。
 
― 終了後も手話の勉強はやっておられますか?
 組合でも手話サークルがありますので、そこでも勉強できますが、当時の教室の仲間たちのつながりが今でもあって、時々交流の機会を持ちます。そんなときに手話の会話なんかをやって復習したりしています。
 
― 山本さんが、現在接客業務の上で心がけておられることは何ですか?
 接客業務の上で最もつらいのは、特に障害者や外国人の方のときが多いのですが、コミュニケーションが取れないことです。またこれは、健常者の方に対してもそうなんですが、まず困っている方の存在に気づいてあげられることだと思います。お客さまの求めに応えるよう、まさに、一歩踏み込んだサービスができるように心がけています。
 
― 最後に仕事に対する抱負を聞かせてください。
 現在の仕事を一生懸命頑張りながら、憧れの車掌職の試験に合格し、ゆくゆくは運転士になりたいと思っています。
―ありがとうございました。
 
 お二人とも日常のお仕事は接客業務。
 「手話教室」を経験していただいたことで、コミュニケーションの大切さをあらためて学んで頂けたようだ。
 
 何よりも大きな発見は、「言葉」という手段に頼らなくても互いに意思を通じ合うことは可能だという事の発見。
 
 それには、ほんのちょっとした勇気が有ればいいのだと・・・


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