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手話教室
 財団法人関西交通経済研究センターでは、二〇〇四年度から交通エコロジー・モビリティー財団の委託を受けて「手話教室」を開催しています。
 この手話教室は、公共交通機関のバリアフリー化が求められている中、聴覚障害者の方々に、より安心・快適に公共交通機関を利用していただくための取り組みとして交通事業者を対象に行われているものです。
 今回、この手話教室の取り組みについて皆さんにお伝えしようと思います。
 
ちょっとした勇気が心のバリアを解いてくれる
 全25回の予定で開催されている今年度の手話教室もいよいよ後半へとさしかかり、去る8月23日には、特別講義として講師に社団法人大阪聴力障害者協会理事の「古瀬百合子」氏をお迎えし、「講演会」を開催しました。
 約70分間にわたって「障害者の暮らし〜聴覚障害者が公共交通機関を利用したとき〜」と題して講演をいただいたのでその概要をご紹介します。
 
 1期2期の卒業生を交えて講演が始まった。講演が始まったといっても会場内はまったくの無声である。講師の古瀬先生は、聴講者一人一人に自己紹介を求める。指名された各々が立ち上がり、覚えたての手話を駆使して自己紹介と格闘する。実は、自己紹介は、手話教室の初期段階(第2回〜第9回)のメニューでもあるのだ。通常は講師の先生が熱弁をふるって汗を流すのだが、ここでは聴講者が汗を流す。
 
 
 
 どうしてもという時のために、手話教室の清岡先生に講師の正面に座っていただいて補助者として通訳していただくことになっているものの、基本的に聴講者は講師の手話から読み取らなければならない。大概の講演会といえば、船を漕ぐ聴衆が会場の中に何人かいるものだが、今回の講演会はそうは問屋がおろさない。講師の先生の手の動きを見ていない限り、一切何も分からないのだから・・・。
 次に、古瀬先生は「聴力障害者が困るだろうと思われる事柄」を挙げるように聴講者に求めた。
 
聴講者から「困るだろう事例」を出してもらって・・・
 
 聴講生の皆さんは、困るだろうという事例は想像できるもののそれをどう伝えればいいのかが分からない。額に汗しながら必死に表現し、補助者の清岡先生の助けを借りながらどうにか古瀬先生の元へ情報が届いた。
 古瀬先生は、まさにこうしたやり取りを通じて、自分の意思が思うように伝わらないことの大変さ、相手の意思を汲み取ることの大変さを聴講生に実感させているのだろう。
 こうした事例一つ一つに対して、聴力障害者の実際の生活ぶりや、失敗経験を解説していかれる。駅など公共施設での電光掲示板が如何に助かるか。ファックスや携帯メールが如何に便利な機械であるか。夜泣きが聴こえない母親の子育ての苦労、急病など緊急時に状況を伝えられないことの不安等々
 昔は、手話で喋っていると、周囲のもの珍しそうな視線を感じてついつい手話が小さくなったものだったが、最近は手話に対する理解も広まって、そうしたこともずいぶん少なくなったそうだ。そういえば、電車内でも楽しそうに手話で会話をしている人たちを見かけることがよくある。
 
 
 
 古瀬先生は「自分が聴力障害であることについて、不便だと感じることはあるが、不幸だと思ったことはない。」とおっしゃる一方、社会の中で聴力障害が極めて軽い障害だと思われていることの問題を指摘された。確かに聴力障害者の場合、外見上は健常者と見分けがつかない。それだけに、周囲の人たちのフォローはいきおい弱くなる。
 しかし、社会生活をするときに一人情報から取り残されることの不安は計り知れないものがあるようだ。これは、外国旅行で言葉が通じなくて意思疎通できないときの不安感を思えば容易に想像できるだろう。
 聴力障害者が社会の中で置かれている状況を正しく理解することが大切だと力説される。
 たとえ、完全に手話で会話できなくても、挨拶の手話ひとつだけでも聴力障害者と会話をしようとする人だと分かる。そんな人が一人でもいるというだけで、ずいぶんと安心ができる。
 手話通訳者がもっと増えて、聴力障害者が必要とするときに気軽にお願いできるほどになってほしいとの願いを話されて講演は修了した。
 講演後、講師の古瀬先生、清岡先生を囲んでの懇談会が開催され、時間の過ぎるのを忘れるほどに会話が弾んでいた。(・・・当然手話を交えて・・・)
 


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