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講義11 デートDVって何?〜若者のデートに潜む「力と支配」
講師:山口のり子さん
アウェア代表
DV行動改革プログラムファシリテーター
1. DV取り組み先進国アメリカ
 アメリカはDVは大きな社会問題であると位置づけ、全米で取り組んだ歴史が長い国です。サポータートレーニングが充実していて、仕事でやる人はもちろんボランティアでかかわる人も、40時間のトレーニングを受けなければならないことが、州法で決まっています。なぜかというと間違った思い込みに気付かず被害者に対応すると二次的被害を起こしてしまうからです。
■加害者プログラム
 アメリカは加害者対策を含んだ法律があるので、逮捕・起訴してひどい人は実刑だけれども、逮捕された人は執行猶予の代わりに更生のための教育を一年間毎週2時間受けさせる。それを実施するのがプログラムファシリテーターです。暴力の責任の所在は、暴力を振るう方にある。いくら振るわれる方をかくまったり逃がしたりサポートしても、暴力を振るう人が変わらなければ追いかける。あるいはほかの人を捕まえて親密な関係をつくり再犯するので、問題解決に繋がらない。そこで私はさらに加害者プログラムファシリテーターのトレーニングを受け、日本でも実施したいと帰国しました。
2. アウェアのスタート
(1)加害者プログラムの内容
 2002年にアウェア(英語で「気付く」の意味)をスタート。加害者プログラムを、同年4月から始めました。今30人ほどの男性が2つのグループに分かれて、土曜日の夜と日曜日の午後、毎週受けに来ます。途中でやめる人もいますが、ずっと続けて変化を見せる人もいます。プログラムはカリフォルニア州のものを応用し、1年間毎週2時間、いろんなテーマで話し合っていきます。ロールプレイやビデオを見たりもします。
 その中のテーマのひとつが若いころどうだったかと振り返ること。すると幾人も若いころもやっていた、妻にだけじゃなかったと。前に付き合っていた彼女にも実はやっていたと気が付く。これは若い人たちへの防止教育も必要だと気が付き、03年に「デートDV防止プログラム実施者向けワークブック」「防止教育ガイドブック」を出版しました。大きな反応があり、全国から1000件のメールやファクスが届きました。
 一番多かったのは、デートDVを見聞きする最前線にいる高校の養護の先生です。デートDVが高校生カップルの中で起きており、被害者が養護の先生に相談しに来る。何かが起きている。それに名付ける名前、デートDVという言葉すら、概念もなかった。だから新聞記事を目にして、あの子たちに起きているのはデートDVで、だから別れなさいと言っても簡単に別れない。きちんと理解した人が介入していかなければならないことに気が付いた、というお便りをいただいたわけです。翌年若い人向けに「愛する愛される」を書きました。まんがで事例を紹介しています。
(2)DVに対する誤認識、誤った社会通念
 以下の項目はすべて誤った認識です。
 
1. 家の中で起こっている暴力は家庭内で解決すべきであり、犯罪とはいえない。
2. DVはそんなに起こっていない。わずかな人たちの間で起こっていることだ。
3. DVはその場かぎりの怒りで、たまたま平手打ちをしたり押したりするだけのことだ。
4. DVは貧しくて学歴も低い人たちの間にしか起こらない。
5. 男性には扶養している家族をコントロールしている権利がある。
6. 被害者はいつでも関係から抜け出すことができるはずだ。
7. DVは加害者と被害者の共依存だ。
8. DVはアルコール依存症や薬物依存症のような依存症のひとつとして治療するべきだ。
9. もし加害者が心から反省し、もうしないと約束するなら暴力はやむはずだ。
10. 暴力を振るうことがひん繁に起きないのであれば、事態はあまり深刻ではないはずだ。
11. 相手をおとしめるようなことを言ったりばかにしたりどなったりすることは、暴力のうちに入らない。
12. 被害者は暴力を振るわれやすい牲格をもっている。
13. 女性だって暴力を振るう人はいる。お互い様ではないか。
14. 加害者は特殊な人たちだ。
15. DVはアルコールを飲む人の問題だ。
16. 男性が攻撃的・暴力的なのは男らしいことだ。
17. DVなんて結婚している大人にしか起こらない。
18. 暴力は付き合っているふたりがお互いに嫌いになって別れそうになったとき起きる。
19. 付き合っている相手に暴力を振るうのは相手を好きじゃないからだ。
20. うんと親しくなれば女性が嫌がっても男性がセックスしたがるのは仕方がない。
 
 これらは全部間違った認識です。家の中で起こる夫から妻への暴力は、犯罪であり人権侵害である。これはもちろん交際している間柄であっても、親密な関係での暴力というのは犯罪であり人権侵害であると認識してください。
3. グループワークで探る
 デートDV−若者のデートに潜む力と支配がいったいどんなものか、グループワークで学ぶ。付き合っている若者同士のA子さんとB男さんのありそうな会話を読み、その後グループで話し合う。
 
B男「なんだよ、その格好は!そんなミニスカートはくなよ!
A子「えー!?だって前は似合うって言ったじゃん」
B男「言ったけど、俺といっしょのときはいやなんだよ!そういうの着てると、ほかの男がお前をじろじろ見るだろ。着替えて来いよ!」
A子「えぇ〜、そんな・・・」
B男「おい!お前は俺の女だろ・・・。早く着替えてこいよ!」
A子「・・・じゃあそうするよ」
 
 若い人たちにありそうな会話です。さて、グループで、
1. 二人の言い方でよくないところはどこか。
2. 二人はそれぞれどんな考えを持ち、どういう気持ちだと思うか。
3. こういうことが続くと、二人の気持ちや関係はどうなっていくか。
 以上の3点についてお互いに意見を交換し合ってください。
■デートDVは、好きになった相手を深く傷つける行為
 この二人がいい関係になっていけるかどうか難しいですね。ファッションチェックって、若い人たちは結構やっている。実はそういうことを彼からされてました、という女の子がいました。その時は何にもおかしいと思わず何年後に気が付いて、何で私あんなことしたんだろう、と。そこにはまってしまうと、おかしさにも気付かなくなってしまう。それが彼のため、彼が愛してるからそうしてくるんだとか、私は彼を愛しているから彼の言う通りするんだと思い込んで疑わない、そういう恐い状況に陥いる。
 食べること、一緒にやること、彼女がどんな仕事や人生を歩むとか、その前にセックスのことなどに対して、彼女が本当は「ノー」と言いたいのに言えない、という状況はいくらでも起こり得ます。彼女はB男の顔色をうかがうようになり、彼の価値観とか彼の好みに合わせて自分が動くようになってくる。彼のほうはどうなっていくか。自分の思い通りに彼女が動くので、ますますエスカレートしさらに束縛していく。デートDVは、好きになった相手を深く傷つける行為です。
■力と支配
 DVは力と支配です。思い通りに相手を動かす。身体への暴力、命令口調で言う、怒りを表わすすべて入ります。経済力から、社会的地位から全部、あらゆるものです。身体への暴力が目的ではなく、支配です。手段として暴力を選ぶ。あらゆる力のうち効果のあるものを選んで使う。支配することで相手から行動の自由、人生について決める権利も奪う。決める力、思考力、判断力も奪う。自信や自尊心、その人らしさを奪う。人間としての尊厳まで奪う恐ろしい行為です。
4. 事例から〜DVは相手への最悪の依存形態
(1)暴力の言い訳
 19歳の青年が女性に暴力を振い、振られたショックでアウェアに来ました。彼女に前の彼氏のことで問い詰めたことから、暴力を振るった。思い出を片付けると言ってきたので、彼女は元彼の写真を捨てたと思い込んだ。ところが彼女の家で、彼の写真その他を目にして口論になり手が出てしまった。そのことでかなり酔って暴力を2回振るいました。彼は、自分勝手な期待でしたと振り返っています。思い出の片付け方は、その人それそれが決めること。ところが彼は、彼女は前からのものを全部捨てるに違いない、捨てるべきだと期待して思い込んだ。その通り動かなかったから罰した。嫉妬心とアルコールを暴力の言い訳にしています。わがままで自己中心的な期待。彼女はセックスまでしている親密な関係、僕のあらゆる欲求を満たす、満たさなければならない、満たしてくれるはずの人と彼は考えている。その通りやらなかったから、蹴って罰したわけです。駄々っ子です。DVは相手への最悪の形の依存です。
(2)相手を独占することが愛ではない
 DVもデートDVもまったく変わりません。若者の間ではセックスすることで暴力行為が始まったり、本格的になったりすることが実は多い。一度セックスしたことで、相手を自分の所有物のように考えるところから相手への束縛が始まる。束縛は支配の始まりです。相手を独占することが愛することだと思っている。
 また、暴力を振るうと泣いて謝ったりすることがある。彼を支えてあげないとと、暴力のある関係からなかなか離れられない。あまりに辛くて別れ話を切り出すと、今度はすごい暴力が始まり激しくなることが多い。
■調査結果から
 女子高生の10人に1人がDV経験あり、女子大生の6人に1人がDV体験や被害体験があり、女の子のほうが圧倒的に多い。カップルでは3組のうち1組に何らかのデートDVが起きている。起きているその3分の1には身体への暴力と性的な強要まで起きてしまっている。
5. 防止教育〜学び落とす
 デートDVはなぜ起きるか。アウェアではビデオ「デートDV」を制作しました。高校などに行ってこれを見た後にプログラムをやります。DVはなぜ起きるか、力と支配という、世の中には力と支配の人間関係がいっぱいある、残念ながら起きているんだと。
 日本人の7、8割は暴力を容認しています。ジェンダーバイアスとは社会的に作られた性別のことで、「男らしさ、女らしさ」だと私たちが普段当たり前のように思っていることが、実は危険であって、DVに繋がってしまう、だからそういうものを学び落としましょうと。英語learnの前に、unを付けると反対の意味になる。間違ったことを生きている間に一杯学んで自分の中に取り込み、自分の価値観や思考パターンになってしまった。そこに気が付いて学び落とす。次に力と支配をやめる。暴力を容認しない。ジェンダーバイアスの性別による「らしさ」ではなくて、一人ひとりの「自分らしさ」を大事にする。相手を尊重する。人は自分のことは自分で決める権利、自己決定権がある、それを奪われてしまうのがDVです。さらに相手に共感することも学びましょう。これらをプログラムはテーマとしてやっています。


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