日本財団 図書館


支援の実際−サポーターの心構え
電話相談と面接相談
NPO法人 女性の安全と健康のための支援教育センター運営委員
池田 ひかり
 
 母子生活支援施設(当時母子寮)、東京の民間シェルター・AKKシェルター・(その後改名:AWSシェルター)、東京ウィメンズプラザなど、民間と東京都の公的施設でDV被害者とかかわってきました。そういう中で私自身が学んできたことを話したいと思います。
 
支援を必要とするとき
 支援が必要な時というのは、自分の力だけでは解決ができない問題が起こっているときです。問題が起きているときではなく、自分の力で解決できない時、支援が必要になるのだと思います。自分のやり方だけではどうにもならないときに初めて何らかの支援にアクセスする。ここで大事なのは、風邪を治すのは医師や薬ではない、どんなに優秀な医師や薬があっても、私たちに治癒力がなく弱りきっているときは恐らく治らないだろうと思います。医師や薬の力を借りて、私たちの治す力が治す。支援も同じで、支援者が問題を解決するのではなく、制度などを利用して相談者が自分の力で解決する。支援者が解決してあげるわけではなく、支援者の力やさまざまなサービスを利用してその人が自分の力で解決する、ここが支援を考える時にとても大事なところです。
 必要がなくなったにもかかわらず、必要のないものがずっと提供されていたとしたら、どういうことが起こるでしょうか。もう健康であるのに薬をずっと飲んでいたら、今度は違うところが具合が悪くなってきます。その人が本来持っている力が弱くなり奪われていく。支援者がいないと生きていけない、支援者に聞かないと決断ができないということが起こってくる。これを起こらないようにすることが大事です。その人が自分の力で生きていけるようになることが支援です。親切にやりすぎてしまうと、結果としてはその人の力を弱めてしまうこともあるということを考えてください。どこまで境界線を踏み越えていくのか行かないのか、自分で生きていくことを取り戻すことが支援です。
 
DV被害者支援とは
 暴力を受けるとどういうことが起きるか、ジュディス・ハーマンが著書「心的外傷と回復」の中で、「無力化」「他者からの離断」、周囲との人間関係が切れていくことが起こるといっています。回復する時は、この無力化が有力化、周囲との人間関係が結び直されるといっています。この二つが大きなキーワードだと思っています。DV相談をすると離婚や家を出ることを勧められるから怖くて相談ができないという声をよく聞きます。DV相談は本当は何をするところなのかということを押さえておかないと、離婚や家を出させることだということになってしまう。これらは悪くはないが、有効な方法の一つでこの方法を取る人も多く、結果として安全が守られることはたくさんあります。しかし、これを勧めることがDV相談なのではありません。
 
心的能力とは
 どんな力が奪われていくか、個人差があるが、例えば、「基本的信頼を創り出す能力」などが奪われるということがあります。それはたび重なる被害により、人を信頼できなくなったということもあるかもしれません。また、「自己決定能力」とか「新しいことを始める能力」が奪われていきます。一番大きいことは、「安全感・安心感が損なわれ奪われる」ことだと思っています。DV被害者支援は、これらを取り戻していくプロセスです。電話でいきなり、それは家を出るしかない離婚だと言われたら、安全安心感は感じられない。それらが感じられる関係の中で初めて人とかかわってもいい、信頼できる、人とかかわっているといいなと思えて人とかかわることが復活し、自分の力が取り戻されていくのだと思います。そういう関係性の中で、結果として家を出たり離婚をするという方法をとるかもしれません。しかしそれは結果としてです。DV被害者支援は、安全感安心感やその人の力を取り戻すプロセスです。
 
相談を受けるときに心がけること
 (1)ひとりにしない (2)安全感安心感を感じてもらう (3)エンパワーメント−の3つをいつも挙げています。何年相談を受けていても、どうやったら解決でき支援できるか、こんな大変な状況でこの人の支援ができるだろうかと思うことは恐らくずっとある、どんなに制度が整っていってもあると思います。窓口は増えたが、今はまだ本当の意味で支援が提供されている状況にはなっていないと思います。
 (1)ひとりにしない どうしていいかわからない相談を受けたときに、「ごめんなさいできません」と言ってしまうのではなく、その人と一緒に考える存在になることを念頭に置いてほしいと思います。解決方法を持っていなくても、一緒に考えて何か方法が見つかるかも知れないし、一緒に考えてもらっているということだけで相談者が少し落ち着き、余裕が生まれることがあるかもしれません。そのことだけでも十分に大きな意味があると思います。
 しかし、ほかにいい支援をしてくれる所がある場合には、無理して抱え込む必要はないが、どこにもお願いする先はないということは多くある。そのような時にとにかく一緒に考えてあげる。私が民間シェルターにかかわっていた時は、DV防止法も本もほとんどありませんでした。その時の私たちの合言葉は「3人寄れば文殊の智恵」でした。一緒に考えるだけでも十分意味があり、役割が果たせると思ってもらいたいと思います。ただ自分たちにできること、できないことを明らかにしておく、それを相手に伝えておくことが必要です。とにかく一緒にやるからねといって、何でもできるかのように相談者が感じてしまい頼ってきた場合に、できないといわれると、その方が相談者にとっては迷惑な話です。
 相談が手馴れていくと、いわゆる「相談員」になってしまうということがありますが、そうならないように相談があった時にその人に対して、自分が大事に思っている人と同じ重みを持っている人なのだ、同じだけの重さを歩んでいる人だということをイメージとして頭に入れておくといいと思います。
 (2)安全感、安心感を感じてもらう 暴力の被害に遭うということは、力による支配の被害体験です。支援者と相談者の関係に支配関係をつくるとしたら、それは絶対に安全安心感には繋がりません。どうしても支援者の方が力を持っているので、自覚し、相談者を支配しないコントロールしないことが大事です。
 ではどうしたら支配しない関係、安心安全な関係なのか。まずひとつは相談者が感じ考えていることを最大限尊重する。その人が今どう考えどう感じているかに沿う。客観的にすごく危険だと感じられる状況でも、その人が自分で考えて行動することが大事です。最初からすべてを話さないかもしれない。それでもあなたが感じ考えていることに沿って私たちは支援をしますよ、何度でもあなたはどう思う、どう考えるかと聴いていくことが大事です。すべて正直に話してくれないと支援はできないというのは違うと思います。何を語るのか語らないのか、いつ語るのか、それはすべて相談者が決めていいことです。例えば同じ支援団体内でこの人には語れるけれどあの人とは語りたくない、それもOKです。だからといってA支援者の悪口をB支援者が聞き続けるというのは別な問題が起こりますが、でも相談者が誰に何をいつ話すのかは相談者が決めていいことで、そのことを待つ、認めるということも大事であると思います。
 あとは、プライバシーの保持も大事です。公的なところだと、プライバシーが守られないような所での聞き取りがありますが、そのような中では話されないと思います。
 記録の管理ですが、保管はどのようにされているか、誰がその記録を見るのか、残された記録が先々どうなるかがきちんと相談機関で決められていて、記録の目的を話し了解を得ることは、安全安心感に繋がります。
 (3)エンパワーメント 「何とかなる」と思ってもらうこと、だといえます。相談をしたがその時は解決できなかった。でも少しほっとできた、何かが少し動いたというような感じを持ってもらう、次の相談につながるような相談をするということです。もう二度と相談したくないと思われるような相談をしない。すぐ次に繋がらなくともまたどこかで相談をと思ってもらえるような相談をすることです。
 何とかなると思ってもらえるような相談とは、相談員のほうが、暴力の加害に関しては100%加害者の責任だと思っておくことだと思います。「あなたは悪くありませんよと言いましょう」というのはいいのですが、問題なのはそう思っていない人がそう言う時です。本当はこの人に問題があって叩かれてもしようがないと内心思いながらあなたは悪くないと言っても、相談ではそれは相手に伝わります。その人に性格上の欠点があるとかは別で、暴力の加害に関しては100%加害者の責任であることを理解しておくこと。どこかで叩かれる側にも問題があると、もし思っているとしたら、その段階では相談員をするべきではないと思います。
 それから、相談者が持っている力を信じることです。長年ひどい暴力を受けていると、弱々しくひとりでは何もできないのではと思われるような人もいます。でもその人は力がないわけではなく、もともとは持っている、この人はやれる力を持っているということを信じていることだと思います。やりとりの中でその感じが出てくると思います。この人だめな人よね、私がいないと何もできないわともし思っていれば、その人を価値下げするようなやりとりになり、上からものを言うということが起こります。被害者にはこういう言葉遣いをということを学ぶより、きちんと理解をすることの方がずっと大事だと思っています。相談者は敏感なので読み取ります。
 また、その人が持っている力を評価して言語化して返してあげることが大事です。暴力被害の中にいると自分はだめな人だ、何もできない人だと思わせられていくので、そうではないこれができていると返してあげることが大事です。するとその人は自分の生活の中でやれていないことばかりにスポットを当てていた自分の見方が変わり、元気になる。それは力です。相談をしてくれたこと、暴力の中でお子さんをよく育ててきたこと、すごく大変なことで、それはあなたがやっぱりやってきたことだと思いますよ、と。
 
支援者が支えられること
 支援者の健康保持は大切です。トラウマになるような出来事に遭った人たちの支援で話を聞くことで、同じPTSD症状が起こります。これを自覚していないと影響が出、支援者自身に周囲への不信感、いろいろな力が奪われるというようなことが起こってきます。相談者との関係での不信、話が聴けなくなると関係が変化し、その支援者が所属する機関や組織、親しい関係での人間関係が壊れます。
 
支援者二次受傷の発生要因
 起こりやすい発生要因としては、
 (1)支援者にかかわること:過去のトラウマ体験や、現在の生活に過度のストレスがある。支援のための適切な訓練を受けていない。
 (2)利用者にかかわること:自傷行為が頻繁(自殺願望、自殺企図)。安全の確保不可。利用できる資源に限りがある。深刻なトラウマ体験。
 (3)支援環境:トラウマ体験とその影響に無理解な社会。被害者を責める根強い社会通念。資源の不足。人権を尊重しない支援団体。
 
二次的外傷ストレスに遭わないために
 (1)支援者は十分な休息と休養を取ることができる (2)場合によっては、支援者が担当する利用者の数を対応可能な範囲内に抑える (3)支援者は有資格者、有経験者からの十分なスーパービジョンが受けられる (4)支援団体は利用者のトラウマ体験の深刻さと影響を理解し、支援者に無理をさせないようバックアップする (5)支援団体は支援者に二次受傷のサインが見られないか常に気を配っている (6)支援者は定期的な継続研修を行う (7)支援者は長期休暇を取ることができる。
 常に自分の心の健康に気をつけながら相談をしていくことは、いい支援を長く続けていくためには大事なことであると思っています。
 
電話相談と面接相談
相談を始める前に
 (1)相談者が本人以外の場合にどうするか 本人以外から相談を受けたときにはまず状況を聞き、本人が直接相談できる状況にあれば本人から相談を受けるのが一番いいと思います。周囲と本人の感じ方にずれがあることが多いからで、周囲は危険だから早く逃げろと思っているけれど、本人はもっと頑張りたいということもあるので、今本人がそのどこにいるのかが分からないと支援の展開ができません。
 本人が電話に出ない、訪ねても会わせてもらえないなど安全の確認が全くできていない場合は、民間の団体での対応は難しい。とても危険な状態もありえ、場合によっては死亡も予想されるので、警察やDVセンターに通報・連絡をして危機管理を急いでもらう必要があります。被害者の名前住所を聞き、相談内容と併せて提供する必要があります。基本的には本人の意思の確認をしながら進めるのが原則です。
 (2)安全の確認
 〈電話相談の場合〉 どんな場合にも安全かどうかの確認ですが、電話相談の場合は、どんな状況から電話をしているのか見えない。隣に加害者が座って聴いていますということも。わざわざ相談していることを相手に聞かせるためにそこで相談しているとか、説得してと言って受話器を渡されてしまうこともあるかと思います。今2階で寝ているので、こっそり1階から電話をしている場合なども。なるべく安全な中から相談をしてもらうのがいいのですが、このチャンスしかないという場合や、きょうやっと繋がって今度いつ掛けられるかわからないという場合は、最大のチャンスと思って相談をする必要があります。加害者が在宅の場合はいつ電話が切れるかわからないので、必要な情報は早めに。人通りの多いところや公衆電話もあまり安全ではない。それを聴いて付け込み新たな犯罪被害に巻き込まれることがある。どうしてもそこで話すしかない場合は、被害の詳細はあまり話させない、周囲に聞かれても問題のないようなやり取りにします。
 〈面接相談の場合〉 付き添いの方と一緒の場合、肉親やどんなに親しい人であってもとりあえずご本人から話を聞く。どんなに善意で協力的な人であっても、その人の前で意に反することが言えない。支援者は同席でも構わないということであれば、その時改めて同席で一緒に話を聞くようにしたほうがいい。直接駆け込んでくる場合は追跡の可能性もあり、確認し可能性がある場合にはすぐ別の場所に移す。電話相談も面接相談も、まずは今相談しているその環境が安全な状況にあるかを確認します。
 
 
アセスメント 〜見立て〜
 どんな問題が生じていて、どの程度なのか、今すぐの解決か、ゆっくり解決してもいいのか、情報を聞き取る中から整理。それによって支援の進め方が違う。それを見立てます。
 (1)安全性の評価 DV相談の2つ大きな柱、「安全性の評価」「緊急性度」をきちんと評価する。相談者にあなたは危険ですかと聴いても危険性の評価はできない。大したことないですと、すごく大変な状況なのに言われる方や本当に大したことないと思っている場合もある。
 暴力をずっと受け続けていると、大変だと思うと生活していくことが辛い、だからどこかであまり大変じゃないと大変さを感じないようになり鈍くなっていく。本人からの聞き取りだけでは安全性の評価はできず、具体的な事実の聞き取りから判断する必要があります。
 (2)限界設定 今相談を受けている支援者や支援機関がどこまで何をやれるのか、この人に対して何がやれてやれないのか、やれない部分はどうしようかを考えることが必要です。やれないことがわかっていると、その部分はやってもらえる機関や人を探せるので、適切な支援になっていきます。
 (3)相談の主訴を聞く 何を求めて相談をしてきたか、まず相談者の主訴を聞く。その人の求めているところからが支援のスタートなので、まずその人が何を期待して相談したかを聞くことです。どうしたいですかと聞いても、理路整然と話せる人もいるが、すごく悩み始めての相談だという人はきちんとは話せない。長い暴力を受けていると、混乱し、言うことがちぐはぐになっていく。そういう中からこの人が何を求めているのかを聞き取っていくのが私たちの技術です。
 ちゃんと話せてないから相談を受けられませんではなく、それを聞き取っていくのが私たちの役割です。時系列の混乱はよくあり、さらに暴力を受け混乱しているので、嘘をついているなとか信頼できないというのではなく、ゆっくり話していいですよ、混乱は当然です、など言葉かけをし、落ち着いて話せるようにします。
 〈DV以外の主訴が語られるとき〉 暴力の被害を受けていて何とかしたいとはっきり言う人も、そうではない人もいます。他の相談の主訴が語られても、背景にDVがあると想像して聞くことが大事です。例えば、何もやる気が起きない、最近家事もできず家の中めちゃくちゃですというような言い方をするかもしれないし、子どもの問題として語られるということがあるかも知れません。女性相談の窓口ではDV以外の相談内容としてかかってきて、よく聞き取っていくと背景にDVがある。それはこちらが想像力を働かせて聴いていくということです。問題がDVであると名前をつけることも大事です。ただDVだと思いたくない人は問題に直面せざるを得なく辛いので、その気持ちを配慮しながら伝えます。
 〈暴力を直す方法を教えてほしい〉 加害者プログラムや加害者治療については、今日本の中ではそのようなプログラムはほとんどされていない、また、プログラムそのものが成熟していて治るという結果が出ている段階ではない、日本の法律ではプログラムを受ける強制力がなく、治療に繋がることが難しい。治るという確率はあまり高くない、現状では治らないものというふうに考えてあなたがどうするのかを決めていかれるといいと思います、とお話をしています。
 〈暴力があるがどうしていいか分からない〉 こういう相談が一番多く、まず状況、どんな暴力が起こっているのかを聞いていきます。それから相談者がどうしたいと思っているのか、どうしたいか分からないから相談しているのだけれども、イメージとしてどんなことを望んでいるのかというのはわりと持っています。
 10年後どんな生活をしていたいですかと聞く。例えば笑って暮らしていたい、子どもと3人かなあとか。じゃあ、どんなだったら笑えると思う、と話をしながら、少しずつ具体的に膨らませていく。それから、今一番困っていることは何か。その声によってその方が今一番望んでいることがわかってくる。どこかに何かその人の意図というのはある。その解答を引き出していき、具体的に形にしていくのが相談の役割です。
 〈家を出たい、離婚したい〉 具体的に、相談者がどう考えや計画をしているのかを聞く。実家に戻って夫と離婚したいという場合、それが本当に安全なのか一緒に考えます。今まで実家に帰った時に加害者が追跡してきたことはなかったか、そこで暴れたことはなかったか、その可能性について聞きます。子どもが連れ去られる危険性とか、計画が安全に遂行できるものなのかどうかを一緒に検討します。話し合いで離婚をしたいという人は、今まで離婚の話し合いをした時にどんなことが起こったかを具体的に聞きながら、可能かどうか考えます。
 (4)暴力状況の把握 見誤ると危険につながるので、慎重にやったほうがいいのですが、事情聴取のように尋問的に聞くのではなく少しずつ聞き取っていく。時間的に余裕がなく、すぐに危険かどうか判断しなければならない時は別です。この時間で今こういうことを判断したいからと断るべきだと思います。被害のことについては、話すことだけでも苦痛であったり、また恐怖感が甦ってくることもあるので、話しにくい。聞かないと本当に危険かどうかわからないけれど、話せないことも尊重する。しかしこの部分で安全なのかどうか判断ができないから、できれば話してほしいと言ってみる。それでも話せなければ、話したくなったらでいいと思います。
 
どのように危険かどうかを判断するか
 暴力がどれくらいの割合で起こっているのか、暴力が起こっている期間、その内容、けがで入院や手術をしたことがあるか、凶器を持ち出していないか。加害者が社会生活を営んでいるか。犯罪歴がある人は保護命令など痛くも痒くもないので、より危険です。社会的な地位がある人はその地位を失うようなことまではしないと判断ができる。
 次に大けがをして電話をくれていることもあるので、それを確認。けががあれば証拠の確保を説明、できれば病院で診断書をとっておく。写真はけがの部分と自分の顔を入れて。ひとりの時は鏡に映して撮ることを進めます。
 精神的なことはどうかをみることも大事です。ひどくなると、自分で判断する、避難することなどができなくなるので、そこに行く前に何らかの行動を起す必要があります。今どの段階にあるのかを知る。電話でちゃんと会話が成り立っているか、面接であれば、身なりに違和感がある状態だとかなりダメージがあると判断ができます。
 あとは家事や育児がどれくらいできているか、ごはんが作れなく子どもに買ってきてもらっている状態だと、精神的健康度が落ちていると分かります。病院で服薬しているかどうかから精神状態を把握しておくことが必要です。精神的ダメージの対応は難しいですが、落ちない前に相談ベースに乗せることも大事で、かといってあまり踏み込んでいくとかなりうつ症状が重い場合には、怖くなって相談が途絶えてしまうこともあり、精神状態の把握は、支援をしていくときに判断材料としては大事です。悪化すれば、寝たきり状態や自殺、相談にかけてこられなくなる状況もありえます。
 
子どもへの被害の状況
 DV家庭にいる子どもはほぼ暴力の目撃ということも含めて被虐待の状況にあり、中でも特に直接暴力の被害を受けている場合、被害女性から受けている場合も少なくはないです。そういう暴力が起こっているかどうかの確認は必要です。今は虐待を発見したら通報をしなければならないので、このことに関してだけは、本人の感じ方の尊重に反してやらなければならないことがあります。相談者が児童相談所には言わないでほしいと言っても、子どもが危険な状況にある場合には通報せざるをえない。児童相談所や福祉事務所への通報も必要です。
 (5)複合的な問題を抱えている相談者 いろいろな問題を持っているとDVの解決が先なのか、それ以外の問題が先か、両方一緒になのか判断に迷います。そういう時は限界を見極め、自分のところでできないことは諸機関と相談し協力しながら進めます。
 
エンパワーメント
〜何とかなると思ってもらうこと
 その人の力を引き出すこと、大きくしていくことですが、どんなことでその人の力が引き出していけるのか。
 (1)暴力の構造を知らせる ひとつは知識をえること、暴力の構造をきちんと知らせることだと思います。今自分が生きている現状を加害者から知らされて理解をしている。そうではないともう一度把握し直し違う角度から見てもらうということです。
 〈暴力は100%加害者責任〉 あなたが悪いからといって暴力を受けているかもしれない。あなたにも性格上の欠点はあるかもしれない。でもそのことと暴力を受けることは別のことですよ、あなたが悪いから暴力になるわけではないということをまず判ってもらうということです。
 〈暴力は被害者を支配するための方法〉 聞き取っていく中で、いろいろなエピソードが語られると思うがそれを持ちながら、そこはこうこうでしょうというふうに、具体的に返しながら、その人の日常を切り取りながら説明をしていく。
 〈暴力は加害者の問題〉 暴力はあなたが変えることによって変わることではない、加害者の問題だから暴力を変化させることは加害者が思わなければ変わらないということを伝える。
 〈暴力のサイクル・繰り返すことの危険性〉 やさしいときもあるよねという話をされたときに、続けていって治まるものではないと通常は考えられている、続けていくと段々ひどくなるということを伝えていく。
 〈身体的な暴力以外もDV〉 身体的な暴力以外も暴力と考えられていて、お金を渡されない、ひどいことを言われるとか、どれもあなたが自分に次第に自信を失っていく、自分はダメな人だと思うことに繋がっていないかということを伺います。そういうことで加害者は被害者を自分の思い通りにしやすくしていると話をしています。身体的な暴力を使わなくても人を支配できるし、あなたを思い通りにできるのだからそれも暴力だと説明します。
 (2)暴力を受け続けることのリスク・精神的なダメージ けがをしていないから大丈夫と思っていると精神的なダメージは見えにくい。ある日気が付いたらすごく重度のうつになっている、PTSDになっていて何にもできなくなってしまったということが起こりうる。
 (3)相談者の持っている力を積極的に評価 本当にその人がやってきたこと、やれていること、これやってきたよね、これやれているよね、と積極的に伝えて行きます。
 (4)解決方法を一緒に考える ゆっくり進めていって大丈夫という安全性の評価ができたうえで、相談者のペースに合わせてやっていくということです。短期にやれたから成功で、長期になったからこの人は能力がないということではない。それぞれに必要な時間というのがある。出たり戻ったりを何度も繰り返す人もいるかもしれません。出て戻ったことは失敗じゃない、練習だと、何回も練習を重ねてラストになればいいとおっしゃっている相談者もいる、それぞれにとって必要なプロセスと期間があるんだと思います。どうしても支援者はあせるが、その人のペースに合わせていくということが、結果的にいいのかと思います。


前ページ 目次へ 次ページ





日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION