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スウェーデンにみるDV被害者への取り組み
DVの特質と子どもへの影響
東北大学ジェンダー法・政策研究センター研究員 矢野 恵美
 
 大学などでDVの講義をするとき、必ず聞かれることがあります。「どうして男性から女性への暴力だけが問題になるのですか。女性だって夫に暴力を振るう人がいるでしょう」という質問です。そこには、親しい関係にある男性から女性に対して振るわれる暴力と、女性から男性に対して振るわれる暴力−たまに怒って夫をぶつ・殴るという暴力−を、同じにとらえようという考えが働いています。
 DVの本質を、「ジェンダーに基づく暴力である」ととらえる認識は、現在、国連をはじめ世界中に広がりつつありますが、残念ながら一般の常識とはなっていません。「女のくせに生意気だ。おとなしくしていろ」と言って暴力を振るう男性を容認する社会はあっても、逆に妻が夫を殴った場合、「夫なのだからおとなしくしていろ」という人はいません。同じ暴力であっても、その裏に男性優位の社会構造や、「支配する者」と「支配される者」という関係があります。
 スウェーデンは、男女共同参画(Gender Equality)の先進国と言われています。国会議員に女性が占める割合はほぼ5割。女性の労働参加率も日本に比べて大変高く、いわゆる「専業主婦のいない国」と言われています。男女の賃金差について見ると、日本では男性の賃金に対して女性の賃金が7割弱であるのに対して、スウェーデンは8割強に至っています。男女平等が進んでいる国において、DV問題がどう扱われて、どのような対策が講じられているのか。そして、DVの裏に潜むジェンダーの問題を克服していけば、DV問題は同時に解決するのか。そうした視点からDVを見ていくことは、日本のDV施策を考えていく上で意義のあることだと考えています。
 
「強姦規定」に見るジェンダー問題
 スウェーデンのDV対策を見る場合、「女性に対する暴力」という全体的な流れの中で、DVがどうとらえられてきたか、を考える必要があります。スウェーデンでも、最初から今のように対策が進んでいたわけではありません。その国の「女性に対する暴力」やDVに対する考え方を知るために、その国の刑法における「強姦規定」を見るという方法があります。強姦の中でも、特に「夫婦間強姦」はDVと深くかかわっているわけですが、「夫婦間強姦」に限らず、刑法の中で「強姦罪」というものがどうとらえられているかを見ることは、DV対策の全体的な位置付けを知るための1つの手がかりとなります。
 日本の現行刑法は、1908年(明治41年)に施行されたもので、刑法第177条に強姦罪の規定があります。この条文をみると、「暴行又は脅迫を用いて13歳以上の女子を姦淫した者は、強姦の罪とし、3年以上の有期懲役に処する。13歳未満の女子を姦淫した者も、同様とする」と書かれています。つまり、明治41年に作られたものが、今もそのまま使用されている、すなわち、明治41年の段階で考えられていた性犯罪の概念や価値観が、そのまま利用されている、ということです。殴ったり脅したりして、13歳以上の女性に対して性行為をすることが強姦である、と今の日本では規定されています。つまり強姦を、男性が男性器を女性器に挿入することに限定しており、女性器に性器でないものを入れることや、女性の肛門に男性器を挿入すること、さらには男性から男性への行為は除かれています。これらは第176条の「強制わいせつ罪」に入ることになります。
 それではなぜ、こういう条文が作られたのでしょうか。明治時代、「女性は男性の所有物である」という考えがあったので、「他人のものを侵害する」、またその行為によって子どもができてしまうと「家」の問題となるということで、このような条文ができあがったという部分があります。さらに、第177条の強姦規定には「夫婦間を除く」とは書かれていません。これは、夫婦間でも強姦であるから書いていないのではなく、「妻は夫の持ち物なので強姦には当たらない」「妻は夫の性的欲求に当然応えるべきだ」といった考えがあったからなのです。「夫婦間強姦」が実際の判例で認められた例には、1986年12月17日の鳥取地裁の判決(判タ624号250頁)があります。このケースは、夫の暴力が原因で、妻が実家に逃げ帰り別居状態であったところに、夫が友人を連れて車で乗り込んできて無理やり妻を連れ出し、山の中で友人と共に強姦した、という事例で、「婚姻関係が破綻しているから」ということで認められたのです。第177条の文言については、今のところ「これでよし」とされており、「憲法第14条の平等原則に違反している」といった意見は、刑法の主流派にはほとんど取り上げられることもなく、刑法の条文におけるジェンダー問題は、ほとんど議論されないまま現在に至っているのです。
 一方、スウェーデンにおける強姦規定はどうなっているのでしょうか。現在の刑法は、約40年前、1965年に施行されたものが基本になっています。1965年の段階で、「強姦罪」は、「暴行・脅迫を用いた男性から女性への無理やりの性交(日本の姦淫と同じ)」とされ、今の日本とほぼ同じようにとらえられていました。異なる点は、夫婦間強姦の場合を、強姦より軽い罪として処罰を明記していたことです。1965年に、それまで処罰していなかった夫婦間強姦を、軽くではあっても処罰する場合もある、と条文に入れたことに大きな意味があります。
 その約20年後、1984年に、性犯罪に関する条文が全て改正されました。そこでは性別にかかわらず、暴行・脅迫を用いた性交または性的関係は、姦淫(男性器の女性器への挿入)に限らず、強姦であるとされました。つまり、「ジェンダー・ニュートラル化」が行われたのです。また、夫婦間強姦に関する減軽規定もなくなり、他の強姦と同じ扱いになりました。
 現在の条文だけを見ると、日本にもスウェーデンにも夫婦間強姦に関する除外規定はありません。しかし、このことがほとんど議論されなかった日本と、議論を経て不処罰から処罰へと変化した結果、現在は条文に書かれていないスウェーデンでは、全く状況が異なります。
 さらに2005年にも、性犯罪に関する条文が全て改正され、「強姦」の概念がさらに広がりました。ここでは性別を問わず意に反する性的関係(性器以外の挿入も含む)は全て強姦であるとされました。性犯罪の規定やジェンダーの問題をほとんど議論せず今に至っている日本とでは、女性に対する暴力やDVに対する人々の関心や認知が違うのは当然だと言えるでしょう。
 
DVに対する立法の動き
 DVに対するスウェーデンの法律として、主に2つのものを挙げることができます。
 その1つ、訪問禁止法は、現在または以前のパートナーによる暴行や脅迫から、女性を保護することを目的として1988年に作られた法律です。1984年のジェンダー・ニュートラル化の影響により、条文上は性別による限定もなく、パートナーでなければいけない、という表現もありません。また、つきまといの理由にも制限がなく、つきまとう人に対して接近禁止命令が出せる、とだけ書かれています。「元」の関係を意識して作られたので、最初は、同居するパートナーへの退去命令がありませんでしたが、2003年に追加されています。
 日本の保護命令と異なるのは、訪問禁止命令の範囲が、被害者の住所地はもちろん、それ以外の人の住所や職場周辺、また、被害者が立ち寄る場所まで拡大されている点です。期間は最長1年、1回につき1年の延長が可能です。退去命令だけは30日間と短くなっています。命令違反に対しては罰金または1年以下の拘禁が科されます。
 スウェーデンと日本のDVに関する法律で決定的な違いとなるのは、1999年、刑法にDV罪が盛り込まれたことでしょう。刑法第4章第4条a第1項には、「親密な関係にある、またはあった者が、その相手に対して、繰り返し侵害を行った場合(暴行・脅迫・強要・住居の安全の侵害・強制猥褻・虐待等)、6か月以上6年以下の拘禁」と定め、第2項には、「女性の安全に対する侵害の加重犯」としてDV罪を設け、「婚姻している、または婚姻していた、婚姻し同居している、または婚姻し同居していた、男性が女性に対して、繰り返し侵害を行った場合、6か月以上6年以下の拘禁」と記されています。
 
「女性の安全法」の成立
 1984年に条文のジェンダー・ニュートラル化を行ったにもかかわらず、1999年、あえて条文に「男性から女性へ」と性別を入れた背景には、1995年の北京女性会議の影響があります。1999年に「女性の安全法」という総合的な法律が成立し、これに伴い刑法が改正になりました。調査によって、DVは繰り返されエスカレートしていく特徴があり、警察に通報した女性のうち、25〜30%が1年以内に再び通報している、といった実態も明らかになり、「女性に対する暴力」という問題がクローズアップされるようになったのです。
 スウェーデンでも、以前、性犯罪は「道徳に対する罪」と考えられ、女性は男性の所有物であると考えられてきました。そうした中、女性も男性も平等であるということで、刑法の条文でも「ジェンダー・ニュートラル化」が80年代に行われたのです。それが、今度は「女性に対する暴力」という形でジェンダーにかかわる問題が浮上してきました。しかしこれはここ10年ぐらいであり、年数的にみると日本とほとんど変わりません。しかし、男女平等や、ジェンダーの問題に長い歳月をかけて取り組んできたスウェーデンと比べると、日本は、同じ10年でも、随分と質の違う10年を過ごしてきたと言えるでしょう。
 
 
先進的なDV対策
 ここで、具体的なスウェーデンの取り組みを見ていきたいと思います。
 警察の中には、児童に対する性犯罪及びDVに関する専門ユニット(部署)があり、地域によって格差はあるものの、積極的に対応をしています。証拠集めが不十分だったり、二次被害を及ぼしたりしないように、家に行った場合の対応や被害者の事情聴取の方法などがルーチン化され、警察のホームページでも公開されています。警察官、検察官、社会福祉関係者が1つのチームになって、定期的に扱っている事件に関するミーティングをしています。こうした取り組みも、「DVは犯罪である」とするDV罪があるから可能となっていると言えるでしょう。
 また、スウェーデンには被害者弁護人制度という制度があります。被害者に国選弁護士をつける制度で、捜査開始時に、裁判所が登録リストから弁護士を任命します。登録している弁護士の約9割が女性で、被害者の弁護を専門に行っている人もいます。この制度はもともと性犯罪の被害者のために作られたのですが、その後「法定刑に拘禁刑のある刑法上の犯罪」から、「法定刑に拘禁刑のある犯罪」へと広げられ(2001年)、現在では訪問禁止違反の被害者にも適用されるようになりました。たとえ被告が無罪になっても、被害者は弁護士費用を支払わなくても済むので、被害者には大変有益な制度です。
 1994年には、犯罪被害者庁という被害者だけを扱う機関が設置されました。スウェーデンでは加害者による損害賠償や保険の適用が期待できない場合、「犯罪被害法」に基づき、国が被害者に対して犯罪被害補償金を支払う制度があるのですが、この審査を担当しています。この制度は、DV被害者にも積極的に適用されます。また犯罪被害基金というものがあるのですが、これは法定刑に拘禁刑が含まれる犯罪について有罪を受けた者が、一判決につき500クローナ(約7500円)を支払うことによって集められます(個人団体による寄付も可能)。これは、被害者の利益となる活動に経済的補助を行うために使われ、DV関係の団体や研究に、最も多く支払われています。
 さらに、同じ1994年には、国立女性センターが設置されました。「女性に対する暴力」委員会が、その報告書で、「強姦や暴行を受けた女性のためのセンター」の開設を提案したことにより実現した国立の医療センターです。女性被害者のための女性のみによる組織というのが特徴で、ウプサラのアカデミスカ病院内の婦人科(女性クリニック)の一角に設置されています。24時間体制で、電話相談、急患受け付け、他の科への紹介、カウンセリングなどを行っており、匿名で受診することができます。ただ残念ながら現時点ではこうしたセンターは、ここ1か所しかありません。
 次に加害者更生プログラムについてですが、スウェーデンでは、1990年ごろから実施されてきました。保護観察官が、加害者更生プログラムヘの参加がふさわしいかどうか、直接加害者に面接して判断します。当初は、やっている地域とやっていない地域があり、民間委託をしていたところもあったのですが、2004年10月からは、国のプログラムとして、研修を受けた保護観察官が、プログラムを担当しています。
 
男女共同参画社会の推進とDV問題
 スウェーデンにおける「女性に対する暴力」、DV問題への対策は、日本よりはるかに進んでいることが理解していただけたと思います。「女性に対する暴力」に社会が注目し始めた時期は、日本とほとんど同じであったにもかかわらず、男女共同参画が発達した土壌、徹底した周知、卓越したプロパガンダ(主義主張の宣伝活動)により、スウェーデンの「女性に対する暴力」への対策は、ここ10年の間に飛躍的に発展しました。バックラッシュもありますが、日本とはレベルが違います。日本とスウェーデンの相違は、男女共同参画の考えの浸透の違いと言えるかも知れません。
 スウェーデン政府のやり方で特筆すべきものに、徹底したプロパガンダがあります。何か問題が浮上した時に、それまで無関心だった国民も興味をもたざるを得ないように、スウェーデン政府が大々的にプロパガンダをするのです。街中にポスターを貼り出したり、テレビ番組を通じて、女性の権利を擁護する者とそれに反対する者で討論をさせたり、人身売買に関するDVDやビデオを学校関係者に配ったり、趣向を凝らした取り組みを展開しています。
 ここ10年強、スウェーデンでは、ジェンダーの問題として「女性に対する暴力」の問題が取り上げられており、DVや性犯罪はその流れの中で考えられています。スウェーデンを見ていると、決して一足飛びに解決する問題ではないけれど、男女共同参画が進めばDV問題も少なくとも解決の方向に進むのだと思えます。
 
DVの特質と子どもへの影響
〜暴力の連鎖を断ち切る〜
 母親がDVに遭っている場合、子どもも暴力を振るわれる、また、暴力に耐え切れなくなった母親から暴力を振るわれるといったことがあります。現在ではDVを目撃することによる被害の大きさから、DVを見聞きするだけでも、一種の暴力を受けている状況と変わらないと考えられています。
 
DVと児童虐待
 DVを目撃することの悪影響は、以前から指摘されていましたが、最近、その影響がさらに注目されるようになってきています。しばしば、「子どもは気付いていないのではないか」とか、「子どものために離婚はできない」と考える人もいますが、子どもは、どんなに幼くともDVに気付いており、DVを目撃することは確実に子どもの成長に影響を及ぼしています。しかしながら、家庭裁判所の調停といった現場ですら、DVを目撃することを過小評価する傾向はまだまだ存在しています。
 スウェーデンでは日本と同様、母親への見せしめとして、子どもに暴力を振るうケース、夫の暴力により母親本人が不安定となり、わが子へ暴力を振るうケース、そしてDVの目撃の問題もあります。また、日本などに比べ、成人するまで同じ両親と暮らす率が少なく、父親(義父)からの暴力も問題となっています。
 
スウェデンのDVと子どもへの取り組み
 スウェーデンでは、「児童のための特別代理人法(児童弁護人制度)」が1999年に創設されました。18歳未満の者が犯罪の被害者で、保護権者が犯罪の加害者だと疑われる場合、または被疑者との関係で保護権者が子どもの権利を十分に守れないのではないかと考えられる場合、裁判所はこの子どものための弁護人を任命することができる、という制度です。
 DVに関してみると、母親には「被害者弁護人」が、直接の暴力や脅しなどがあれば、子どもには「児童弁護人」が任命されます。児童弁護人は、子どもの利益を最優先に考え、保護権を行使することができます。
 また、2005年秋から、スウェーデンでは、「子どもの家プロジェクト」が始まりました。これは、子どものケアに関する総合施設で、全国で6か所指定されています。子どもが犯罪の被害にあった場合に、子どもがいろいろな機関を回るのではなく、関係する機関−検察庁・警察庁・社会庁・法医学庁の担当者が子どものいる場所に集まり、総合的に子どものケアをしようとするもので、2008年3月までに報告書が出されることになっています。
 このように、現在スウェーデンでは、性犯罪、親のDV、虐待被害から子どもを保護することに力が注がれています。これは、女性に対する暴力から女性を保護することが、さらに子どもの保護に範囲を広げてきたという印象があります。
 人は誰でもDVを目撃することによって、また実際に自分がDVを受けることによって、暴力に慣れてしまうと、自分の被害にも気がつかなくなりますし、暴力を「正当なもの」として学んでしまうと、加害者になっても、それを犯罪だと認識できません。スウェーデンには、子どもを対象に、「DVは犯罪である」と教育をしたり、子ども専用のヘルプラインの番号を学校に掲示したりする活動があります。日本においても、DVの早期教育は非常に重要であり、さし迫った課題なのです。
 
日本の状況−女子少年院から見えてくるもの
 最後に、日本の女子少年院にいる子どもたちとDVとのかかわりについて、私の知っている範囲でお話ししたいと思います(ここでは、恋人同士の関係でもDVと考えてお話していきます)。女子少年院に入る、ということは、その子どもたちが加害者として入っているわけですが、彼女たちの場合、自身の被害性も高いと言われています。
 一般に、女子少年院入院者には薬物使用者が多いのですが、使用のきっかけは、男性によって勧められて、という子どもが多いと言われています。なかには、男性に強制されて始めたケースもあるようです。また、同じグループ内での争いが傷害事件となって入院するケースも見られますが、その場合、グループ内の誰もが被害者にも加害者にもなりえた、という構図があります。近年では、粗暴な犯罪行為により、被害者が存在するケースも多くなってきていると言われています。しかし、全体に共通して言えるのは、彼女たち自身の被害者性が大きいという点です。
 日本の少年院においては、犯罪の被害者について考える被害者視点教育が97年頃から始まっています。私は、いくつかの女子少年院で被害者視点教育をお手伝いするようになって4年ほどが経ちます。そこで、これまでの彼女たちの経験について話し合うことがあるのですが、そこで、感じるのは、「暴力」が日常化している子どもがとても多いということです。特に、彼氏に殴られた、蹴られた、携帯を折られたなどの話が当たり前のようにでてきます(保護者から暴力を受けている場合もあります)。
 問題は、そこで「なぜ殴られたと思うか」と尋ねると、「自分が悪いから」「私のためを思って」「私を好きだから」と答えるということです。つまり、彼女たちの意識の中には、被害意識が欠如しているのです。彼女たちの周りでは暴力は日常化しており、またそれを正当化しなければ、幼い彼女たちは生きていかれないのです。
 彼女たちにはまず、「あなたたちの受けたことは被害であり、誰もあなたたちを傷つける権利なんかない」と知ってもらう必要があります。「同じことを自分は我慢してきたのに、これを人にしたら、なぜ自分だけ少年院に入れられるの」という素朴な疑問を、まず、解消してからでなければ、自分がしてしまったことの反省にはつながらないのです。
 ここで気をつけていただきたいのは、彼女たちはかわいそうな目に遭ったから悪くないと言っているわけではない、ということです。彼女たちが誰かを傷つけたなら、それは当然悪いことなのですが、それを自覚させ、反省させるためには、まず、自身の受けたDVについても、それは間違ったことであるということを知ってもらわなければならないのです。生活の中で日常的に暴力が発生し、暴力を振るわれることに慣れてしまうと、そのような環境で生き延びていくために、子どもたちは「暴力を振るうのは、自分のことが好きだから」「自分のために暴力を振るっているのだ」と納得せざるを得ない状況に陥ります。
 
求められる「DVの早期教育」
 一例として、女子少年院の子どもたちのお話をしましたが、これは決して彼女たちに特有の問題ではありません。人は誰でもDVを目撃することによって、また実際に自分がDVを受けることによって、暴力に慣れてしまうと、自分の被害にも気がつかなくなりますし、暴力を「正当なもの」として学んでしまうと、加害者になっても、それを犯罪だと認識できません。スウェーデンには、子どもを対象に、「DVは犯罪である」と教育をしたり、子ども専用のヘルプラインの番号を学校に掲示したりする活動があります。日本においても、DVの早期教育は非常に重要であり、さし迫った課題なのです。


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