日本財団 図書館


はじめに
 
 ここに日本財団助成「被虐待児の保護者支援教材普及版の開発および評価」事業の報告ができることをうれしく思います。本事業は、日本財団から、日本の文化に合う被虐待児の保護者支援教材(神戸少年の町版コモンセンス・ペアレンティング)の開発を目的として、これまで3年に渡って助成をいただいた最終年度の事業となりました。1年目はニーズ調査、2年目は教材の開発(ビデオとマニュアル)、そして今年度は開発した教材の評価とそして普及に向けた誂えを行いました。本報告書は、これまでの3年に渡る事業のまとめを行ったものです。これまでの事業の評価ということに重点をおいておりますが、神戸少年の町版コモンセンス・ペアレンティング教材普及版についての詳しい解説を入れました。皆様の実践の参考になればと思います。
 虐待事例の増加と深刻化から、被虐待児だけでなく、親への援助が課題となっています。そういったニーズに私たちのプログラムが少しでも役立てばとの思いで事業を進めてきました。2007年3月で、神戸少年の町でトレーニングを受けた専門職の数が300名を超えました。そして、本報告書で報告しておりますように、児童相談所を中心として、全国でその実践が行われています。そして、その効果も実証されつつあります。去年度の厚生労働省の科学研究(才村純主任研究者)においても、コモンセンス・ペアレンティングが児童相談所での虐待の親援助・治療プログラムとして、積極的に使われているプログラムであることが報告されました。児童養護施設発のプログラムが広がっていっていることにうれしさを感じるとともに、プログラムを開発し、それを発信している施設としての社会的な期待と役割の大きさを感じます。日本財団からの助成は本年度で終了しますが、コモンセンス・ペアレンティングの事業は継続していきたいと思っております。
 最後になりましたが、助成をいただきました日本財団および神戸市をはじめ関係機関の皆様のご協力とご理解に深く感謝の意を表します。この冊子が児童虐待に関わる皆様に少しでも役立つことができれば幸いです。
 
2007年3月
 
社会福祉法人 神戸少年の町
施設長 谷口 剛義
 
1. 神戸少年の町
 神戸少年の町は、昭和22年アメリカのネブラスカ・ボーイズタウン創設者フラナガン神父(故人、日本の次に訪れたドイツにて死去)が来阪された際、当時の大阪カトリックアクション会佐々木鉄治神父(故人)に、戦争で家庭を失った子どもたちに養護施設を建てることを奨励されたことをきっかけとして、その歴史が始まった。
 フラナガン神父はアメリカのストリートチルドレン達が町で悪いことをしながら生きていくことを憂い、彼らが安心して暮らせる家であるボーイズタウンを創設した神父である。"There is no such a thing as a bad boy"(悪い子どもなんていないんだ)という信念のもと、子ども達のケア施設をつくった(現在はアメリカに19のブランチを持つ全米最大の複合的児童福祉施設に発展している)。その同じ信念で、昭和23年2月に進駐軍より建物の引渡しを受け、3名の子ども達がはじめての少年の町の子ども達となった。当初より、アメリカと同じように、子どもの手による自治を重視した町長制を採用したのがその特徴で、この精神は今も、子どもたちを中心としたケアをしようという私たちの理念に残っている。昭和25年には、財団法人を組織し、財政的基礎を確立、昭和29年には、施設出身者のアフターケア施設「青雲寮」を、昭和42年に乳児院を開設しそのサービスを広げてきた。これも子どもたちへのニーズに応えようとする少年の町の精神である。
 平成に入り、現在の子ども達のニーズの変化に対応できるよう、また、建物の老朽化に伴い、改築の準備を進めた。平成13年度には、国や、神戸市からの助成金、そして、後援会をバックにした国内外の個人団体、特にカトリック関係者の多大な援助を受け、子どもにも、環境にもやさしいというコンセプトをもった建物が完成。自然の風や光がふんだんに取り入れられるように設計し、素材も天然木をふんだんに使っている。児童養護施設の建物は、一戸が独立したグループホーム6件を要する建物(地域に分園を一戸)を採用した。乳児院のほうは、開放的かつ流動的な一室空間型を採用し、それぞれの家に個性がでるようにしてある。また、地域の子育てニーズに対応できるよう子ども家庭支援センターや、地域との交流を深める場としての地域交流スペース等の充実を図ってきた。ニーズのあるところにサービスを拡げよう。現在も続く少年の町の精神である。
 
 
 
2. 事業の概要と目的
 本事業は日本財団の支援を受けた事業であり、名称は「被虐待児の保護者支援教材普及版の開発および評価」である。事業の目的として「被虐待児の保護者支援教材普及版の開発およびその評価を行うことにより、日本における虐待をする保護者を支援するモデルを確立し、児童虐待予防、そして再発防止に努める」を掲げ、「神戸少年の町版コモンセンス・ペアレンティング教材普及版の作成」「神戸少年の町版コモンセンス・ペアレンティング・トレーナー養成講座の開催」「神戸少年の町版コモンセンス・ペアレンティング教材の評価」「実践報告会の開催」の4つの事業を実施した。
 本事業は、日本財団から、被虐待児の保護者支援教材(神戸少年の町版コモンセンス・ペアレンティング)の開発を目的としてこれまで3年に渡り助成をいただいた最終年度の事業である。1年目は「虐待をする親への親支援専門職講座の開催および調査事業」と題して、米国版CSPを用いた専門職講座の開催と日本版作成に向けた調査を行い、課題を整理した。2年目は「被虐待児の保護者支援ビデオ教材日本版の作成及び専門職講座の開催事業」を行い、1年目に行った調査を基に日本版(神戸少年の町版コモンセンス・ペアレンティング教材)を作成した。そして本年度はプログラムを広めることを目的とした普及版の教材開発を行うとともに、これまでの事業の評価を行った。以下に報告する4つの事業はこれまでの3年間に行ってきた事業全体を評価しようとした試みである。
 以下に簡単に各事業の概要を紹介する。
 
「神戸少年の町版コモンセンス・ペアレンティング教材普及版の作成」
 これまで、神戸少年の町では、米国のGirls and Boys Townで開発されたコモンセンス・ペアレンティング教材の日本語翻訳版を使って実践を行ってきたが、米国版ではない日本独自の教材を求める声は高かった。そこで、これらのニーズに応えるため、2005年度に神戸少年の町版ビデオ教材の開発を行った。今年度は2005年度に作成した教材を発展させる形で普及版の教材を開発した。本報告書では、主に米国の虐待の親支援の状況を簡単に整理した上で、新しい神戸少年の町版コモンセンス・ペアレンティングのコンセプトを簡単に紹介する。
 
「神戸少年の町版コモンセンス・ペアレンティング・トレーナー養成講座の開催」
 虐待をする親への親支援プログラムであるCSPを学んでもらうためのトレーナー養成講座を4回実施した。各回、15名を定員として、60名の被虐待児に直接関わる専門職をトレーニングした。今回は、プログラム評価として、数量的データを使った評価を行った。具体的には、トレーナー養成講座を受講した参加者の児童虐待ケース対応へのセルフエフィカシーの変化を見ることにより、養成講座の効果測定を行うプレ・ポストテストを行った。セルフエフィカシーを変数に取り上げたのは、セルフエフィカシーが、行動遂行への自己効力感であり、セルフエフィカシーが向上すると、CSPを遂行する可能性が高まり、専門性の向上といった養成講座の効果を評価しうると考えたからである。プレ・ポストテストの結果、セルフエフィカシーの向上が見られ、トレーナー養成講座の有効性が示された。
 
「神戸少年の町版コモンセンス・ペアレンティング教材の評価」
 2006年10月、神戸少年の町版コモンセンス・ペアレンティング教材の評価を目的に、神戸少年の町で実施してきたトレーナー養成講座を受講した専門職(276名)に対して、郵送法によるアンケート調査を実施した。アンケートの内容は(1)属性、(2)実施状況、(3)ケース概要、(4)実施できた、もしくは実施できなかった理由、(5)虐待対応に対する自信度を尋ねる項目であった。アンケート調査の結果、トレーナー養成講座修了者の36%が実施していた。実施機関としては児童相談所が多かった。実施したケースは身体的虐待が多く、母親の受講が多かった。また、プログラムが終了した81.5%に良い効果が見られた。これらの結果から、開発したプログラムの普及が進んでいることが確認されるとともに、有用性が示唆された。
 
「実践報告会の開催」
 2007年1月に、神戸少年の町でトレーナー養成講座を修了した専門職を対象にフォローアップセミナーとして実践報告会を開催した。CSPを用いた親支援を行った専門職(児童相談所の職員2名と児童養護施設の職員1名)から実践報告が行われ、実践への活発な議論が行われた。


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