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IR(06)3-4-1
LRITの導入にかかる国際的動向について
(LRIT Engineering Ad Hoc Working Groupの状況)
平成18年11月24日
海上保安庁情通企画課
粟井次雄
1. LRITの概要
 LRITはSOLAS条約の改正によって平成20年度末までに導入されることとなっており、対象船舶は6時間毎に船名、航行位置及び時刻に関する情報を陸上のデータセンター(DC)に対して送信することとなっている。DCにはNational, Regional及びInternationalの3つの形態が想定されており、LRIT全体の概念図は次図の通り。
 
(拡大画面:143KB)
 
2. 技術要件の確定
 こうしたシステムを構築するための技術要件を検討するための作業部会(LRIT Engineering Ad Hoc Working Group: 以後Ad Hoc WG)を設置することがMSC81で合意され、Ad Hoc WGは主としてメールにより検討を実施するとともに、2回の会合を実施した。(本年6月バンクーバー、9月パリ)
 こうした検討作業により、Ad Hoc WGは以下の技術文書の作成を行ない、これらはMSC82に提出される運びとなっている。
 
(1)Draft Guidance on Setting up and Maintaining the Data Distribution Plan
(2)Draft Protocols for the development testing of the LRIT System and for testing the integration into the system of new LRIT Data Centres
(3)Functional Specification for the International LRIT Data Centre
(4)International LRIT Data Exchange DRAFT Specifications
(5)Technical Specification for Communication in the LRIT System
 
3. 経費負担問題
 LRITにおいては「船舶に通報料金の負担を課さない」と条約が規定しているため、どのようにシステムを維持するのかという財政問題が現時点で未解決となっている。すなわち、船舶は条約に従い6時間毎に位置を通報するが、その位置情報をどこの国も必要としなかった場合、料金請求は請求先がなく宙に浮く。(反対に、多くの国が必要とした場合、一通当たりのコストは逆に下がる。)
 この点、Ad Hoc WGは技術事項の検討を目的にMSCが設置したものであるため、Ad Hoc WGは「経費負担問題はMSCが別途解決すべきものであって、Ad Hoc WGの検討対象外である」として技術要件に関する事項のみを検討した。しかしながら、経費負担問題が未解決のままではLRITの実現に支障があることは当然認識しており、本職がパリのAd Hoc WG会合の場外において出席者から得た情報を参考に記述する。(これらには会合参加者個人の私見が含まれている部分があり、必ずしも締約国政府の公式の立場を表すものではない。)
 
 米国(USCG):AMVERシステムに改修を加えてDCとする選択肢が有力と考えている。新たなDCを別個に設置するには議会の予算承認が必要であるが、AMVERの改修であればそうしたハードルは低い。(ただし、LRITがAMVERの代替物になるわけではない。LRIT導入後も両システムは並存することになるであろう。)しかしながら、COMSAR9で米国はAMVERを国際DCとする提案を行ったが、大半の国からは賛同が得られなかった。政府の方針としては完全に確定していない。
 
 カナダ(CCG):技術的には問題はなく、どのような形態でもDCを実現できる。たとえば単独DCでも米国と共同でも可能であるが、政治的には色々な考え方があり、政府の方針は部内議論中で結論がでていない。しかしながら、MSC82までには方針を定める必要があると考えている。財政問題が解決しない限りLRITは容易に実現できないが、これがMSC82でどのように取り上げられるのか、大きな関心をもっている。SOLAS船10,000隻を有し、LRIT通報費用の大きな部分を占めるパナマなどの態度は大きな影響をもつと考えている。
 
 豪州(MSA):オーストラリアがMSC-82で何らかの方針を示せるかどうかは懐疑的。(個人的意見であるが)LRITは得られる利益に比して必要と想定される経費が高額である。
 
 ロシア(MOLFLOT):ASPである現在のVictoriaを改修してDCを実現する計画を持っている。
 
 ノルウェー:欧州では国際航海船といっても外洋ではなく域内航行にとどまるものが大半を占める。LRITから得られる情報価値を考えれば単独でDCを設置することは考えにくい。EU全体として取り組む(Regional DC)ことを検討することになるであろう。具体的提案は現在なされていないが、既存のSSN(Safe Sea Net)にLRIT機能を持たせてDCとするのが現実的と考えられている。
 
 EMSA(European Maritime Safety Agency: EU25カ国はそれぞれ利害が異なり、外洋船舶の動静を把握することに利益を見出すのはフランス、英国、ノルウェーなどで、地中海沿岸諸国は関心が低い。欧州議会には強制権限がないため、EUとしてLRIT機能を実現するためには、EU Directiveを全会一致で修正する必要があるが、そのためにはSecurityに加えてSafety, Environment, Economyなどにも役立つという意義を与えなければ、SecurityだけではLRIT導入に共通利益を見出しがたい。IMOはMSC82でDC設立に関する立場を表明するよう求めているが、短期間に方針を取りまとめることは困難と思う。
 
IR(06)4-3-2
2007.2.26
LRIT審議の現状
(平成20年1月1日発効、同12月31日までに実施)
 
これまでの合意確認事項
・船舶は6時間毎に通報を行う(基本通報)
・通報は国内、地域または国際DCのいずれかに対して行う
・船舶には通報の経費負担を課さない
・情報のSAR利用はSAR機関に対し無料*
・IMSO(国際移動衛星通信機構)が各種の監督、調整の業務を行う
・共通経費には以下のものがあり、それらは各国が按分して負担する
IMSOによるシステム監督経費
IDC, IDEの運営経費
情報のSAR利用経費
必要とされなかった情報の経費
 
*最終的には共通経費として各国が負担する
 
今後審議を要する未確定事項
・国内DCを設置する国の数
・基本通報の買取についての旗国の義務
・IMSOによる監督に必要な経費
・共通経費の分担割合と課金決済方法
・IDC, IDEの設置場所と設置のための指針
 
運用するまで不確定と考えられる事項
・システムのコスト(通報データ及び共通経費)
・情報のSAR利用量の割合
・必要とされるデータと買い取られず共通経費となるデータの割合
 
(今後の審議日程)
LRIT ISWG-H19/7 MSC83-H19/10 COMSAR12-H20/4 MSC84-H20/5


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