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第4 本研究会における検討結果
 平成17年度「固定資産税等の徴収改善に向けた提案」の各提案項目について、具体的な法改正を実現することを目的に、研究会として個別に検討を進めた結果、提案時には想定していなかった様々な課題もあることが明らかになった。制度改正にあたっては、提案の主旨に沿い、固定資産税等についての徴収上の法的な課題を解決し、かつ私法秩序との均衡も図れるものとする必要がある。したがって、17年度提案の各項目について次のとおり修正を行うべきであると考える。
 
1 提案項目1「強制換価の場合の固定資産税等の優先」について
(1)固定資産税等の公益的側面から見た妥当性
 この提案を実現することにより、土地家屋に設定された抵当権の設定時期にかかわらず、強制換価手続が開始された場合は、その手続の対象となった土地家屋の固定資産税等については、その換価代金の中から確保できるため、最も抜本的な改善であり、改善効果も最も大きくなる。
 固定資産税等については、課税対象の普遍的存在性、地域固定性、安定性、応益性、帰属明確性を持つことから、市町村の基幹税目として位置づけられたものである。また、固定資産税等の納税義務者は都市基盤整備や消防等の各種行政サービスを享受することで、課税客体である土地家屋の価値を維持・増加しているという側面もある。これら固定資産税等の公益的・共益的側面を考慮すれば、提案にあるように他の債権に比べ優先性を付与することは妥当であると考えられる。
(2)手続的合理性
 提案は、具体的には、強制換価手続が行われた場合の換価代金からの徴収を確保することを想定している。このことは、裁判所又は税等の執行機関による配当手続により具体化されることから、手続的にも簡素で、明白かつ合理的なものであると言える。また、民事執行法における強制管理や担保不動産収益執行における開始決定を受けた不動産に関する固定資産税等の費用的取扱にも準拠したものとなる。
(3)修正を加えるべき点1: 優先権を付与する範囲
 しかしながら、当初提案の内容では、優先的に徴収できる固定資産税等の範囲を限定していないため、滞納繰越分となっている固定資産税等についても無制限に優先権を付与することになり、担保権者の権利を不当に害するという批判がある。また、民事執行手続における固定資産税等の費用的取扱についても、執行手続が開始されてから終了するまでの期間に限って、債権者全体の共益費用的に取り扱っていると考えられることからも均衡を失していると言える。
 したがって、固定資産税等に優先権を付与する範囲については、滞納処分による差押えや民事執行法による担保権の実行手続など、強制換価手続が開始された以降の固定資産税等に限るものとすることが妥当である。
(4)修正を加えるべき点2: 規定の形式
 17年度提案の段階では、具体的な規定の方式として、地力税法第14条の10(法定納期限等以前に設定された抵当権の優先)の除外規定とすることを想定していた。この規定方法は、担保権者との調整においては十分機能するが、他の租税庁との調整において十分でないことが明らかになった。租税債権相互の優先劣後については、先着手主義が採られており、法第14条の10の例外規定では、固定資産税等の滞納処分前に他の租税庁が滞納処分による差押えを行っている場合には、固定資産税等に優先権を付与しても、結果としてその相当額が他の租税に配当される結果となる。このような結果は、固定資産税等の公益的・応益的性格に着目して優先権を付与する主旨に反するものである。したがって、固定資産税等に優先権を付与する規定の形式を、法定納期限等による優先劣後調整の例外とするのではなく、法第14条の4(強制換価の場合の道府県たばこ税等の優先)に類似した、固定資産税等自体に優先権を創設的に付与することが望ましいと考えられる。
(5)その他整備すべき事項
 このように規定の形式を整えて地方税法上に固定資産税等の優先規定を定めた場合にも、整理すべき点が散見された。それは、優先権を付与した固定資産税等について、具体的にどのように計算し、収納するかという手続上の課題である。固定資産税等については法第364条にあるように、同一区域内にある土地家屋等の個々の課税標準額を合計したうえ、端数処理を行って税額を確定する。現行制度上、合算課税された税額のうち、特定の課税客体に相当する部分を計算のうえ、収納することは想定されておらず、税額の端数処理、期別の充当順序及び延滞金の計算方法等の取扱について新たに整備する必要がある。また、優先する固定資産税等の範囲であるが始期については、具体的には差押えの日を始期とすることになるが、計算期間について日割りにより計算すべきか、期間中に到来する納期限分とするかについても整理が必要である。一般の不動産取引においては、固定資産税等を日割りにより計算し、売却日をもって按分する清算方法が採られることが多いが、地方税法上はこのような計算方法については想定されていないため、明確な定義が必要である。なお、合算課税された税額のうち、一部の課税客体の相当分について、一定期間分を清算する方法は、強制管理や担保不動産収益執行においては各執行裁判所の解釈に基づき、事実上行われているが、必ずしも統一的な取扱とはなっていない。また、破産事件においては、破産財団を構成する土地家屋の周定資産税等については財団債権とされているが、一般的には納期限をもって弁済がされており、日割りによる清算は行われていない。この提案を契機に、課税対象のうち一部に相当する金額を期間を限っで徴収する手続を整理することにより、副次的にこれらの強制換価手続に対する対応の整理が図られることになる。
(6)具体的な提案項目の改正
 以上を踏まえると、17年度提案事項1については、次のとおり修正するべきである。
 
固定資産税等の優先徴収制度の創設
 固定資産税・都市計画税の安定確保及び税負担の公平の観点から、課税対象不動産について滞納処分による差押えや競売等の手続が開始された場合に、手続開始後の固定資産税・都市計画税をその換価代金から優先的に徴収する制度を創設されたい。
 
2 提案項目2「無剰余公売制度の創設」について
(1)提案の背景
 固定資産税等の抜本的な徴収改善を図るためには、提案項目1を実現することが最も望ましいことは言うまでもない。しかし提案項目1は、強制換価手続に伴う配当が現状と異なることになり、不動産担保評価にも影響を与える要素であることから、実現が容易ではないと考えられた。そこで、次善の策として、不動産価格を上回る担保権が設定され、固定資産税等の徴収が見込めない不動産について、一定の手続を経たうえで公売に付し、担税力のある者に所有権を移転させることによって、固定資産税等の徴収確保を図るという制度を創設しようというものである。
 なお、この提案は、平成16年の民事執行法改正により、民事執行手続においては、剰余を生ずる見込みがない場合についても、優先債権者の同意等を条件として売却が実施できるものとされたことを踏まえたものである。
(2)提案に対する批判
 この提案については、当研究会の議論においても、様々な批判が挙げられた。
ア 強制的執行原則からの逸脱
 まず、優先抵当権者への換価催告等を経ることとしているとはいえ、配当の望めない債権者が換価を行うこと自体が、強制的執行の原則である「配当による債権の満足」の趣旨を逸脱しているという指摘がある。配当見込みの無い固定資産税を賦課し続ける無用な行政コストを排し、税の安定的な確保を図るためとはいえ、具体的な配当も期待できないのに私人の所有権を侵害することは行き過ぎであるというものである。
イ 抵当権者等の有する強制執行時期の選択権との関係
 抵当権者等は、債務者から提供を受けた担保財産に抵当権を設定し、債務不履行となった場合には、財産に設定した担保権をいつでも実行できる権利を有している。
 そして、担保権をいつ実行するかについては、被担保債権の残高や、担保財産の価格動向、市場のニーズなどを勘案して判断するものであって、執行時期の選択も担保権者の権利に属すると考えられる。租税庁から強制執行を実施するよう申し入れがされるとともに、法の規定による配当が得られるとはいえ、配当が見込まれない租税庁により担保財産が弦制的に売却されてしまうことは、担保権の実行時期も含めた担保権者の期待権を侵害するとも言える。
ウ 提案項目の取扱
 不動産の価格を上回る抵当権等が設定され、他には徴収可能な財産歩無いなかで、抵当権者には一定の返済がされているため不動産競売にも至らない案件は市税滞納整理の現場では相当数見受けられる。また、金融機関によっては、債務返済が滞った場合であっても、担保権の実行については必ずしも積極的でない場合もあるようである。このような場合、毎年課税される固定資産税等は確実に滞納となり、かつ徴収の見込みが無債権となる。また、不動産が賃貸等事業用資産である場合では、多くはすでに不動産の所有者には実質的な権限が無く、抵当権者等の主導でほとんどの事業収益が債務返済に回され、所有者には固定資産税等の納税資金が枯渇していることが多い。
 提案項目2は、このような状況を打開するため、直接的には、一定の手続を定めて抵当権者による担保財産の換価を促進して、課税対象不動産を、新たに納税資力を有する者に移転させることを企図している。また、間接的には、抵当権者等の協力のもと、固定資産税等については担保権等の返済と平行して、所有者から別途納税がされるという状態が実現されることが期待される。
 しかしながら、無用な行政コストを回避するために、不動産の所有権自体を第三者に移転させるということは、私法秩序に対して与える影響が非常に大きいことも事実である。また、提案項目1を制度的に実現すれば、こと固定資産税等の徴収を確保する効果については、十分に得られることになり、ことさら提案項目2を制度化する必要は無い。
 そこで、研究会としては、提案項目1の実現を第一に考えるべきであるとの考えから、提案項目2については、当面、凍結すべきとの結論に達した。
 
3 提案項目3「賃料等強制執行中物件の管理費用請求権の創設」について
(1)提案の背景
 先にも述べたように、平成15年度の民法及び民事執行法の改正により、担保権実行の1つの手段として、「担保不動産収益執行制度」が創設された。
 担保不動産収益執行においては、同じく民事執行法に規定される「強制管理」の手続が基本的に準用され、不動産に対して課される租税その他の公課(執行手続期間中の相当額に限られる)は、執行手続による収益から予め控除され、配当に先立ち、別途支払われる。
 しかしながら、不動産に担保権を設定した債権者は、担保不動産が収益物件である場合には、従来から行われていた担保不動産から生ずる賃料債権への「物上代位による強制執行」を行うことも可能であり、事実上、2つの債権回収手段が取り得ることになった物上代位による債権差押えでは、不動産に対して課される租税その他の公課に関しては全く考慮がなされない。
 賃料債権への「物上代位による強制執行」と、「担保不動産収益執行」とは、基本的な性格は異なるものの、共に担保不動産から生ずる収益からの債権回収を行う点では類似していながら、対象不動産に対して課税される固定資産税等の取扱が大きく異なることは合理性を欠くものと考え、物上代位による執行手続においても、固定資産税等の租税について確保が図れるよう法改正を求めたものである。
(2)提案に対する課題
 提案項目3に関する研究会における検討では、制度創設の意義については、大きな問題点は見いだせなかったが、制度の具体化を検討する段階で、次の問題点等が指摘された。
ア 強制執行の取立実務上の課題
 賃料を含む債権に対する民事執行手続では、複数の債権者による強制執行手続が競合するような場合を除き、債権者が直接、第三債務者から取立を行うことが原則となっている。したがって、この提案を実現した場合、具体的にどのように固定資産税等相当分の確保を行うのかが技術的な課題となる。
 担保不動産収益執行おいては、執行裁判所は開始決定と同時に管理人を選任する。管理人は一般的に弁護士や執行官が選任されることが通例であるが、管理人は執行補助機関として、執行裁判所の授権により、対象不動産の使用収益権を行使する。そして、対象不動産に対して課される租税その他の公課について、収益から控除して租税庁等に支払うこととされている。したがって、収益執行期間に対応する固定資産税等の相当額については、管理人からの要請に基づき、便宜、請求書等を作成し管理人に送付することで支払を受けている。
 しかし、通常の債権執行においては、収益執行における管理人に相当する者は存在せず、債権者が直援第三債務者から取立を行っている。提案項目3が実現した場合は、単なる民事債権者に取立てた金銭から固定資産税等相当額を予め支払わせることが必要となり、適正な執行を確保できるか疑問が残るしまた、単なる民事債権者にこのような義務を課すことの妥当性も考慮する必要がある。
 なお、債権について民事執行による差押えと滞納処分による差押えが競合した場合には、「滞納処分と強制執行等との手続の調整に関する法律」による手続調整の対象となる。具体的には、強制執行等が先行する場合は、第三債務者がその債権を供託しなければならず、滞納処分が先行する場合には第三債務者はその債権を滞納処分庁に支払うか、又は供託するかを選択することになる。したがって、いずれの場合であっても強制執行手続期間に相当する固定資産税等を計算して支払を受ける方法は整理しうると考えられる。しかしながら、滞納処分と強制執行等とが競合した場合にのみ提案項目3の実現を図るとすることは、執行手続上の公平を確保する必要があることから、適当ではない。
 また、賃料等に対する強制執行事件では、手続開始にあたって不動産所在地を所管する官公署に何ら通知がなされないため、強制執行事件開始の事実を市町村等に知らしめる手続上の整備も必要となる。
イ 制度実現による効果に関する疑問
 不動産に抵当権等を設定した債権者が、強制的に債権回収を図るすべとしては、抵当権の実行による競売、抵当権の実行としての担保不動産収益執行及び賃料債権に対する抵当権の物上代位による債権差押えという3種類の方法が選択できる。
 賃料債権等に関する物上代位による債権差押えは、不動産競売等に比べてもさほど数多く行われている訳ではないため、この制度だけを実現しても、改善効果としては極めて限定的になる。
(3)提案項目の取扱
 すでに述べたように、担保不動産収益執行については執行手続中に相当する固定資産税等について優先的に支払われる制度となっているのに、債権者が他の執行手続を選択した場合には一切考慮がされないということは合理的でない。しかしながら、提案項目3のように、抵当権め物上代位による債権執行手続に限って、固定資産税等の確保手続を整備することは、効果も限定的であるほか、技巧的な対応に過ぎるとも考えられる。また、具体的な制度として確立するためには民事執行法上の手続整理も必要となる。元来、提案項目3については、提案項目2と同様に、提案項目1を補完するものであり、提案項目1の実現がなされれば、足りるとも考えられる。
 そこで、研究会としては、提案項目1の実現を第一に考えるべきであるとの考えから、提案項目3については、具体的な提案項目としてはあらためて掲げる必要は少ないとの結論に達した。


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