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地方分権時代にふさわしい地方税制のあり方に関する調査研究報告書?諸外国の地方税制との比較を中心に?

 事業名 地方自治情報啓発研究
 団体名 自治総合センター 注目度注目度5


5 指定都市の滞納額に占める固定資産税等の割合
 滞納額全体に占める固定資産税等の割合は、平成15年度決算時においては、滞納総額2,010億円に対して1,107億円にのぼり、約55.1%を占めている。現年課税分を含めた市税未収額における固定資産税等に比べ割合が上昇しており、指定都市にとって、市税滞納を圧縮するためには、固定資産税等の滞納整理を進めることが極めて重要となっていることが窺える。また、固定資産税等の滞納額のうち、1滞納者あたりの固定資産税等の滞納額が100万円以上であるものは678億円であり、滞納額全体の約33.7%、固定資産税等の滞納額の半分以上を占めていることも特筆すべき傾向である。
 
6 一般的な固定資産税等の滞納整理手法
 市税の滞納整理は、滞納の初期段階では、滞納者の自主的な納税を促す文書や電話等による催告行為を行うが、それでもなお、納税に至らない場合は、法の規定に則り、徴税吏員の権限に基づき滞納者の財産を調査し、差押、換価(公売・取立)といった滞納処分を行うことにより進めることになる。指定都市のみならず、滞納整理の促進は全ての市町村にとって極めて重要であり、法により与えられた滞納処分権限を十分に活用し、適正な徴収に努めなければならない。滞納処分の対象となる財産は、法による差押禁止財産を除き、滞納者の全財産であり、徴税吏員の調査に基づき、最も徴収上有利であると認められる財産に対して滞納処分を執行している。固定資産税等の滞納整理にあっても、滞納処分の対象はその他の税目と異なることなく、滞納者の全財産が対象である。しかし、前述したように、固定資産税等が納税者の所得や収益に対する課税ではないことから、課税対象である不動産は滞納処分を行う対象として極めて重要なものとなっている。また、固定資産税課税台帳等から滞納者所有の不動産を特定できることから、効率的に滞納処分を進めることができるため、固定資産税等の課税客体である不動産の差押えは効率的に徴収事務を進める観点からも有効である。
 こうした理由から課税対象不動産の差押を行うケースは多いといえる。しかし、このような事案のうち、一定の納税資力を有する者や、債権などの他に有効な財産を所有している者は、差押不動産を公売するまでもなく市町村の徴収努力で最終的に滞納は解消できる。滞納処分を行っても処理が進展せず滞納が累積していく事案は、不動産は所有しているが納税資金に乏しく、他に有効な資産もない者がほとんどである。つまり、当該不動産を公売するしか滞納を解消する手立てがない場合である。
 しかしながら、実際の滞納処分の局面では、その不動産に設定されている民事債権の担保権の状況によって、課税対象物件を公売しようにも、現行法制上進めることのできない場合が多く、固定資産税等の徴収に大きな支障となっている。
 
7 固定資産税課税上の評価と滞納処分上の評価の違い
 固定資産税等は、土地・家屋共、その課税客体の価格を評価し、その評価額に基づき課税するものであって、評価にあたって、その財産に設定されている担保権や賃借権等の価額を控除することはない。一方、滞納処分上の差押財産の評価は、差押に係る徴収金への配当見込みを算定することにより行う。具体的には、差押財産の市場価格を参考に評価したうえ、財産上に存する各種の権利を確認し、価格に影響を与える要因について控除・調整を行い、公売によっても存続する権利についてはその相当額を控除したうえで、売却見込み額を算出する。そこから、地方税法第14条の10等に規定されている、差押えに優先する担保権等の配当額を控除して、市税への配当見込みを算定する。このように計算した結果、市税への配当が無いことが一見してあきらかである場合には、公売を行うことができないのみならず、国税徴収法第79条第1項2号の規定により、差押えを解除しなければならない。したがって、このような場合には多額の固定資産税等が課税される不動産であっても、現行法上は、当該課税物件に対して差押えを行っても、徴収ができないこととなる。
 
8 固定資産税等の累積滞納事案における差押え対象不動産の状況
 平成15年度末における指定都市(名古屋市を除く)の高額滞納案件(滞納額100万円以上)のうち、不動産を差押え中の滞納額は約258億円である。このうち、差押え中の不動産に設定されている抵当権等に劣後している徴収金は約227億円にののぼり、仮に公売等の強制換価手続により換価したとしても、約55億円の徴収しか見込めない状況である。このような不動産であっても、毎年、固定資産税の評価額に基づいて周定資産税等は課税することになり、自主的な納税が無い限り、毎年度滞納を発生させることになる。当然、これらの固定資産税等についても、差押えの対象財産は滞納者に帰属する全ての財産であるから、他の資産があれば、そこからの徴収を図ることは可能である。しかし、通常、固定資産税等の滞納に至たる場合は前述したように、納税資金が欠乏し、課税対象の不動産以外にはふさわしい財産が無い場合が多い。対象不動産から賃料等が収受されている場合であっても、その不動産に租税に優先する低当権が設定されている場合は、、抵当権者が賃料債権に対して抵当権の物上代位による債権差押えを行うと徴収することができなくなる。
 このように、財産税であって、地方自治体の安定的な財源として期待されて整備された固定資産税等について、その課税対象財産からは徴収することができない場合が多いということ自体が、法制度上の課題であると考えられる。
 
9 課税対象財産から徴収することが困難な具体例
(1)居住用不動産に関する固定資産税等の場合
 サラリーマンAは、B銀行の与信調査を受けて、定年までの住宅ローンを組んでマンションを購入した。マンション購入と同時にB銀行は当該マンション上に抵当権を設定した。
 しかし、勤務先の経営状況が悪化し、Aの給与収入は大きく減少した。Aは競売をちらつかせるB銀行のローンの支払いを優先し、当該マンションに課税されたC市固定資産税・都市計画税を滞納するようになった。C市は速やかに当該マンションを差し押さえしたがマンションの実勢価格は被担保債権額を下回っており、法定納期限等でD銀行に劣るC市は公売に踏み切れなかった。
 Aは、やや遅延しながらも配偶者の収入や消費者金融から融資を受けるなどしてB銀行への返済を続けているため、B銀行はこのままの状態が続いても債権回収が可能であり、C市の差押に対してなんらの措置もとらずにいる。一方、固定資産税・都市計画税は以後毎年課税されているものの一向に納付されず、また、滞納処分を進めることができないため、C市はなすすべがないまま、滞納額は累積・高額化している。
(2)収益事業に係る不動産に関する固定資産税等の場合
 土地所有者Eは、所有土地の収益性が高まる見込みがあることに着目したF銀行から融資話を持ちかけられ、融資を受けると同時に所有土地上に抵当権を設定しテナントビルを建て、不動産経営を始めた。F銀行は、ビルが建つと同時に、このビルにも追加担保として抵当権を設定した。しかし両者の目論見は外れ、Eはビル経営に失敗した。
 ビルを建築した翌年度から、新たに建物分の固定資産税等が課税される中で、Eは競売をちらつかせるF銀行への返済を優先し、市税を滞納した。これに対してG市は遠やかに不動産差押を執行したが、F銀行の融資額は担保物件の実勢価格を大きく上回っており、法定納期限等でF銀行に劣るG市は公売に踏み切れなかった。
 ここでG市はビルの賃料を差し押さえたが、数ヶ月後にはF銀行の申立により、物上代位による賃料差押が執行され、市税への配当はなくなった。
 その後も、Eに対しては毎年、固定資産税等が課税されているが、F銀行は、当該物件の競売や任意売却を進めず、賃料差押によって長期的に債権回収を図っている。賃料収入を絶たれたEに納税資力はなく、G市の差押前にすでに滞納となっていた分はもとより、その後の課税分も納税される見込みはなく、また、Eは所有不動産以外に財産を所有していないため、G市はなすすべがないまま、滞納額は累積・高額化している。
 
第2 関係法令と固定資産税等の取扱
 租税債権については税法以外にも様々な特別法によって取扱いが定められている。また、租税債権と私債権との調整規定も様々な改正が加えられて現在に至っている。そこで、固定資産税等の徴収制度の改善にあたっては関係法令の中で固定資産税等がどのように取り扱われているのか、また、どのように改正が加えられてきたか振り返ることが必要である。具体的には国税徴収法、破産法、民事執行法、信託法における取扱いを確認した。
 
1 昭和34年国税徴収法改正の趣旨
 改正前の旧国税徴収法は明治30年に制定されたもので、以後60年を経て昭和34年に全文改正した。戦後において国及び公共団体の主要財源を租税とする政策により、租税の滞納が増加したことのほか、その後の復興、経済発展のなかで、租税が国又は地方公共団体の存立の財政的基盤を構成し、租税徴収の確保がその活動の基礎をなすものであって、そうした財政需要に対し、国民の納得を得ながら租税を徴収していくためには徴収制度の根本的再検討が必要と考えられた。その結果、昭和30年に大蔵省に東大名誉教授我妻栄氏を会長に据えた「租税徴収制度調査会」が設置された。
 この調査会が租税徴収制度の再検討にあたって、主要な論点としたのは、第1に租税徴収の確保の要請をどのように判断するか、第2に租税徴収の法律関係と一般私法秩序とをどのように調整するか、第3にこれらを含めた租税徴収の合理化をどのような方向に求めるべきかということにあった。
 特に、旧法下における、抵当権又は質権に対する租税の強度の優先性については、不動産登記上において公示なくして租税が抵当権者等の担保権者の権利に優先してしまうなど、公示の原則に反し、取引の安全や経済活動の安定を不当に害する結果を招来していたため、従来から批判が多かった。そこで、この昭和34年改正において、租税と担保権付債権との優劣を決定する基準を納税者の財産上に担保権を設定する時期と担保権を取得する第三者等がそれと競合するおそれのある租税の存在を具体的に知ることのできる時期(すなわち原則として法定納期限)のいずれが先であるか、によるものとし、両者の調整を図ることとして、現行の地方税法第14条の9および第14条の10が規定された。
 
2 破産法改正と固定資産税等
 破産法とは、支払不能又は債務超過にある債務者について、その財産関係を清算して総債権者に公平な弁済を行い、且つ債務者について経済生活の再生の機会を確保するため手続等を定めたものである。破産手続では、破産者に対する債権を破産手続にようて配当を受ける「破産債権」と、破産債権に先だって随時弁済を受ける「財団債権」に大別している。「財団債権」としては、破産債権者の共同の利益のためにする裁判上の費用の請求権や、破産財団の管理や換価に関する費用など、破産手続の共益費用的性格を有する債権が定められている。破産法は、平成16年に抜本的な改正がなされたが、改正前の破産法においては、破産手続開始前の原因に基づく租税等の請求権が一律に財団債権とされていたために、破産財団が租税等の請求権に優先的に充てられ、破産債権者の利益を害するとの立法論的批判がなされていた。
 そこで、改正法は、第148条1項の2号及び3号で財団債権となる租税等の請求権の範囲を限定し、破産手続開始後の原因にもとづく租税等の請求権を、破産財団の管理、換価及び配当に関する費用の請求権と見なしうる場合(2号)に財団債権とした。これが財団債権とされる理由は租税等の請求権という属性からではなく、費用という性質に基づくものといえる。破産財団所属財産に関する破産手続開始後の固定資産税等がこれにあたることは、ほぼ異論がない。
 一方、改正法3号では、破産手続開始前の租税等の請求権で、破産手続開始当時、まだ納期限の到来していないもの、及び納期限から1年を経過していないものを財団債権としている。租税が破産手続開始前の破産者の経済活動に伴って発生する費用の一種であって、破産財団所属財産が形成されたのもその経済活動の結果であるとすれば、それを破産債権者が共同で負担するなどその共益性は合理的で肯定できよう。旧法は、このような考え方から租税等の請求権全体を財団債権としていたが、改正法は、上記のとおり直近に発生した租税等に限定して財団債権とし、それ以前のものを優先的破産債権の地位に格下げした。その区分した趣旨は、直近に発生した租税等の請求権は破産財団に所属する財産の形成過程において牽連性が強く、上記の費用性も肯定できる一方で、それ以前のものについては牽連性が弱く費用性を認めるには希薄であるとの考え方による。
 租税の優先性を限定する方向での改正のなかで破産財団を構成する不動産に関して破産手続開始決定後に課税される固定資産税等については、第148条第1項第2号に定める「破産財団の管理、換価及び配当に関する費用の請求権」に該当する財団債権とされている。したがって、破産財団が財団債権の総額を弁済するのに足りないことが明らかになった場合は、財団債権となる租税が債権額の割合で弁済されるのに対して、破産手続開始決定後に課税される固定資産税等については破産財団の管理に関する費用として、按分前に全額弁済されることとなる。このことから、破産手続開始決定後に課税される固定資産税等については、他の租税と区別して、破産手続のなかでは費用性を認められていると言える。
 なお、抵当権は破産手続においては別除権を有していることから、破産財団を構成する不動産に設定された抵当権によって担保される債権については、破産手続によらずに債権を満足することができる。この別除権に基づく個別執行においては、租税債権については特段の優先権は付与されていない。したがって、固定資産税等の費用的優先性は、破産者の総財産について行われる包括執行である破産手続の中でのみ認められていると言える。


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