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固定資産税等の優先徴収制度創設の改正要望
検討報告書
〜地方分権時代の安定的財源の確保にむけて〜
 
平成18年11月
指定都市徴収改善研究会
 
指定都市徴収改善研究会委員名簿
座長:藤井 健太郎(大阪市財政局主税部主税課収納対策担当課長)
幹事:長谷川 保(横浜市行政運営調整局主税部収納対策推進室長)
指定都市委員 横浜市
(再掲)
行政運営調整局主税部収納対策推進室長
長谷川 保
静岡市 財政局税務部参与兼収納対策課長
山本 潔
名古屋市 財政局主税部収納対策課長
古木 茂
京都市 理財局税務部収納対策課長
布野 明彦
大阪市
(再掲)
財政局主税部主税課収納対策担当課長
藤井 健太郎
堺市 理財局税務部収税課長
西野 均
神戸市 行財政局主税部納税機動課長
谷口 郁夫
北九州市 財政局税務部特別滞納調査室長
日野 俊彦
有識者委員 弁護士 高中・中村・伊藤法律事務所
高中 正彦
弁護士 志賀・飯田法律事務所
志賀 剛一
オブザーバー 総務省自治税務局企画課・固定資産税課
 
はじめに
 三位一体改革で、国から地方への税源移譲がされるなかで、地方の財源の自立安定的確保を図るため、地方自治体における徴収能力の向上がより重要で喫緊の課題となっている。実情として、地方自治体の徴税職員は、専門職ではなく一般行政職員として採用されるため、広く行政事務一般に従事し多様な事務を担当するなかで、その担当事務の一つとして税務に携わることがほとんどであろう。地方自治体は、国税徴収機関のように専門官制度も専門教育機関もなく、税務に関する専門知識や経験に関して必ずしも比肩できる状況にはない。
 そこで、各指定都市においては、近年、研修カリキュラムの充実などによる人材育成の強化を図るとともに、より効果的な徴収方法の検討や実施をすすめ、滞納者の財産調査の徹底、財産差押処分の拡大、不動産公売の定期的及び随時実施、取立訴訟の提起、捜索の実施、動産の差押え、インターネットオークションを活用した動産の公売など、あらゆる手法を駆使して徴収率の向上に努めている。地方への税源移譲が進められるなか、さらに地方自治体における税徴収能力の向上と取組の強化を図ることが肝要であることは言うまでもない。
 しかしながら、地方市町村の基幹的な税目である固定資産税等については、これらの徴収努力では解決できない問題がある。それは、地方税法第14条の10に規定される、法定納期限等以前に設定された抵当権の優先に起因する問題である。
 指定都市徴収担当課長会では、平成16年以来、この問題に着目し倹討を重ねた結果、平成17年9月から18年1月にかけて指定都市税務主管者名により総務省、法務省、金融庁に「固定資産税等の徴収改善に向けた提案」と題した要望書を提出した。以降、18年度より税制改正の実現に向けて、より詳細な調査・研究を行うべく、指定都市の8都市徴税担当課長を主たる構成委員として「徴収改善研究会」を設置し、総務省及び有識者を交えた倹討を行ってきた。
 本報告書は、この問題に関する当研究会における検討内容を取りまとめたものである。この報告書が、固定資産税等の徴収に関する課題を解決し、地方財源の安定確保に向けた法制度の改正に資することができれば幸いである。
 
第1 固定資産税等の性質、現状及び課題
1 地方税制度における固定資産税の意義
 固定資産税は、国税であった地租及び府県税であった家屋税を前身とし、シャウプ勧告に基づく昭和25年の税制改正により発足した市町村税であるし固定資産税は、「(1)課税客体である固定資産が普遍的に存在している。(2)課税客体が地域的に固定されている。(3)税収が安定している。(4)応益原則になじみやすい。(5)課税客体の地方公共団体別帰属が明確である。(6)資源の地域間移動をさして招くことなく、税率等を各地方公共団体が自主的に決定できる」(1)ことから、地方公共団体の財源に適していると言われており、指定都市のみならず、すべての市町村において、個人住民税とならぶ地方税収の基幹的税目として地方自治を支えている。特に、課税客体である固定資産の価格は変動が少ないことから、市町村の安定的な財源として極めて重要であり、そのことは、指定都市にあってもまた同様である。
(1)「固定資産税の理論と実態」木下和夫監修 地方税財政制度研究会編(ぎょうせい)p25)
 
2 指定都市の市税調定額に占める固定資産税等の割合
 固定資産税・都市計画税(以下、「固定資産税等」と言います)が市税調定額全体に占める割合は、平成15年度決算時で見ると、指定都市全体の市税調定額4兆466億円に対し、固定資産税等は1兆8,013億円にのぼり、全体の約45.3%を占めている。このことからも、固定資産税等が指定都市の安定財源として重要であることが伺える。
 しかし、固定資産税等については、このように市町村の基幹的な税目であるにもかかわらず、以下にみるとおり、現行法制上滞納処分を進めることができない事案が数多く発生し、市町村がその税収を確保していくうえで大きな妨げとなっている。
 
3 現行法における固定資産税等と私債権との調整原理
 地方税法では、法第14条(地方税優先の原則)により、固定資産税等を含む地方団体の徴収金は納税者等の総財産について、原則としてすべての公課その他の債権に先だって徴収する旨を規定したうえ、滞納者の財産上に質権や抵当権が設定されている場合には、私法秩序の尊重の観点から法第14条の9乃至第14条の10等の調整規定を設け、税の優先徴収権を制限している。
 国税においても、国税徴収法において同様に定められており、租税債権と質権・抵当権によって担保される私債権との調整原理となっている。
 具体的には、抵当権等によって担保されている債権と租税の徴収順序は、当該担保権が設定されている財産の換価代金(強制換価手続が行われた場合のその手続によって配当すべき金銭をいう)においては、抵当権等の設定登記の日と法第14条の9で規定する各租税の法定納期限等との先後で調整することとされている。固定資産税等についても、原則として、法定納期限等(第1期の納期限)と抵当権等の設定登記の日の先後により、抵当権等によって担保される債権との優劣が判断されることになる。
 このような租税と私債権との調整原理は、私法秩序を尊重する観点から、一般的には妥当な調整方法であると言える。しかしながら、固定資産税等については次にみるような構造的な問題を含んでいると考えられる。
 第1に、不動産を取得するために融資を受けた債権について、固定資産税等が常に劣後することが挙げられる。一般的に不動産を購入する場合は、金融機関等から不動産購入資金の融資を受け、所有権移転登記と同時に第一順位で抵当権等を設定することが多い。
 これに対し、固定資産税は、固定資産税等の賦課期日(1月1日)現在の所有者に対して賦課するため、不動産の取得のために融資を受けた私債権に対しては、当初から劣後することになる。借入金で不動産を購入した場合、法定納期限等を判定基準とすると当該不動産に対しては固定資産税等の租税債権としての優先権は実質的に無意味となってしまうのである。
 これは、潜在的に不動産価値に担税力を見いだしている固定資産税等にとって、構造的な矛盾であると考えられる。
 第2に、固定資産税等が賦課されることの確実性から見て、担保権の設定登記の日と法定納期限等との調整原理自体が担保権者に対して過剰な保護となっているのではないかと考えられる点である。
 元来、担保権の設定登記の日と租税の法定納期限等との調整規定の背景には、担保権設定後に債務者側の事情で生じた税額があまりに多額の場合、担保権を設定した意義を大幅に減少させることとなるため、私債権者にとって租税債権の存在が予測できるかどうかという「予測可能性」を根拠にしているといわれている。
 固定資産親等の課税客体である土地家屋は、地域的に画定され、これ自体を確認することも容易であるとともに、不動産登記制度により公示性も高い。また、固定資産税課税の基礎となる評価額についても、地価公示制度等の情報を勘案すれば、概ね推定することが可能である。したがって、不動産に担保権を設定しで融資を行おうとする者にとって、一定の範囲で固定資産税等が賦課される事実とその概算額を予想することが十分可能である。所得や事業活動に着目して課される税と比べ、十分その発生が予測される固定資産税等について、他の税目と同様の調整原理のみで私債権との調整を図ることは不動産を取得するために融資を受けた担保権に、毎年課税される固定資産税等が常に劣後することを考えると著しく不合理である。すくなくとも、課税客体である土地家屋から徴収する場合には、他の調整原理が働くことが必要であると考えられる。
 
4 指定都市の市税未収額に占める固定資産税等の割合
 市税の未収額に占める固定資産税等の割合は、平成15年度決算時で見ると未収額総計2,,307億円に対し、1,265億となり、約54.8%を占めている。過去をさかのぼると、平成3年度決算時では未収額総計1,154億円に対し、固定資産税等は326億円であり、その割合は約28.2%であった。市税未収額は、調定額の減少と相まって、平成10年度の2,802億円をピークとして減少の傾向にあるが、固定資産税等が未収額全体に対する割合は年々上昇する傾向が見られる。
 固定資産税等は、実際にそれを負担する納税者の所得や、その固定資産から収益を挙げているか否かにかかわらず、賦課期日現在に課税客体である固定資産を所有している者に対して、その固定資産の評価額に基づいて課税するものである。
 一般的には、市税が滞納となる場合には、滞納者は十分な納税資金を確保できない状態にあるため、いったん固定資産税等の滞納が発生すると、次年度以降も継続して滞納が発生する傾向があり、結果として複数年にわたる累積滞納となることが多い。累積債務の整理が困難であることは、税以外の債務整理の例を見ても明らかであり、固定資産税等は滞納となった場合は累積・高額化し、整理が難しくなるといえる。


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