日本財団 図書館


(3)地方団体における徴収体制の整備
 
 民間事業者の活用が可能な分野は民間委託を積極的に活用する一方、徴税吏員その他の税務関係職員については、多様な勤務形態の活用、組織間の連携強化、組織体制の見直しなどを通じ、より効率的な業務運営が可能となるような徴収体制を整備することが重要である。
 
(1)税務職員の人材交流
 
 地方税の徴収にあたる税務職員の資質向上や広域連携による徴収対策の強化を進める上で、地方団体間の税務職員の人材交流は有意義である。
 都道府県では35県が、市区町村では439団体が、他団体との人材交流を実施していると回答している。このうち都道府県では、県内の市区町村へ職員を派遣しているのが26県、逆に県内の市区町村から職員を受け入れているのが26県、滞納整理組合等へ職員を派遣しているのが10県である。
 市区町村では、都道府県から職員を受けているのが267団体、都道府県へ職員を派遣しているのが169団体、滞納整理組合等へ職員を派遣しているのが64団体、都道府県内の他市町村から職員を受け入れているのが24団体となっている。
 
(2)非常勤職員、任期付職員等の活用に関する調査
 
 地方税の徴収現場においても、行政改革や定員管理上、一般職の常勤職員を増加させることは非常に困難である。こうした状況から、非常勤職員等の活用は幅広くおこなわれている。
 都道府県では、23県が一般職の非常勤・臨時職員を雇用しており、16県が特別職の非常勤嘱託職員を雇用している。こうした非常勤職員の活用事例としては、徴税吏員が実施する差押等に際しての補助的業務が16県、滞納者宅の臨戸訪問などによる自主的納付の呼びかけ業務が13県、税の収納業務が13県、納税通知書等の印刷・封入・発送等の業務が13県などとなっている。
 市区町村では、447団体が一般職の非常勤・臨時職員を雇用しており、特別職の非常勤嘱託職員を雇用しているのが331団体である。活用事例としては、税の収納業務が最も多く552団体、自主的納付の呼びかけ業務が439団体、納税通知書等の印刷・封入・発送等の業務が195団体、徴税吏員が実施する差押等に際しての補助的業務が135団体となっている。
 これらの非常勤職員については、一般職・特別職を問わず、滞納処分など強力な公権力の行使が認められた徴税吏員には任命することができない。特別職の非常勤嘱託職員は、罰則で担保された守秘義務や厳格な服務規律が適用されないためであり、一般職の非常勤職員も本格的業務を行うことができない職員であると解されているためである。
 このため、再任用職員(地方公務員法28条の4)、再任用短時間勤務職員、(同28条の5)、任期付職員及び任期付短時間勤務職員(地方公共団体の一般職の任期付職員の採用に関する法律3〜5条)を採用し、ー定の任期付あるいは短時間勤務の職員を徴税吏員として活用している地方団体も見られる。
 こうした任用形態を活用することにより、当該地方団体の退職者だけでなく、国税や他の地方団体の税務経験を有する者など幅広い候補者の中から、適任者を多様な勤務形態の職員として採用し、併せて徴税吏員に任命することが可能となる。これにより、例えば夜間や休日などを含めた勤務シフトを整備することや、徴収にノウハウを有する者を徴税吏員として活用できる範囲が広がるなどの効果が期待できるものと考えられる。
 税務業務を担当する一般職の任期付職員の任用状況については、都道府県では、18県が再任用職員を、12県が再任用短時間勤務職員を、7県が任期付職員を任用していたが、新たに認められるようになった再任用ではない任期付短時間勤務職員の任用はゼロであった。市区町村では、64団体が任期付職員を、48団体が再任用職員を、28団体が再任用短時間勤務職員をそれぞれ任用していた。また、任期付短時間勤務職員を任用している団体も、23団体あった。
 民間委託の検討等ともに、公務員の一形態であるこうした非常勤職員や短時間勤務職員の活用についても、徴税体制の強化・効率化の方策としてさらに進められるべきであろう。
 
(3)地方団体内における各種公金の徴収の連携強化
 
 地方団体が住民等から徴収する必要がある債権としては、地方税だけでなく、国民健康保険料、介護保険料、保育料など国税徴収法の例による自力執行権が付与されでいる債権のほか、公営住宅使用料、給食費、貸付金など多様な債権が存在している。こうした多様な債権については、これまで、それぞれの制度等を所管する部局において、徴収されてきたところであるが、それぞれの地方団体内部の職員をより効率的効果的に活用する観点から、こうした地方団体の債権の徴収のうち、一定の滞納事案について、税務担当部局に一元化する事例が増えてきている。この調査結果では、都道府県では取り組み例がなかったものの、市区町村では344団体が地方税と他の債権との一体徴収を実施している。債権の中には、保育料や国民健康保険料などのように、地方税の滞納処分の例によって強制徴収が可能なものとそうでないものがあること、地方税を含む複数の債権について滞納している者については、一体徴収を行ってもそれほどの効果が期待できないなどの問題のほか、弁済があった場合の充当関係など整理すべき課題もあるものの、地方団体の歳入確保という観点から、地方税以外の債権についての徴収努力の一環として、有意義な取り組みである。
 
(4)広域連携等の強化
 
 複数の市区町村、あるいは県下全ての市区町村が滞納整理等の徴収事務を行う一部事務組合等を設立し、主に徴収困難事案についての強制徴収等にあたる事例が増えており、各地でその効果が報告されている。今回の調査によると、このような滞納整理のための一部事務組合は全国で20ある。
 最近の報告では、昨年4月に設立された「和歌山地方税回収機構」において、その設立後、各市町村から滞納者に対する機構への移管予告の通知等を行った結果、市町村の窓口に約2億円の納付が行われたほか、約9億円の納付誓約が行われるなど、効果があがっている。また、これと同じ時期に設立された「徳島滞納整理機構」においても、同様の効果があがっている(本報告書II 4参照。)。こうした取り組みの先進事例である「茨城租税債権管理機構」でも同様の効果が報告されており、平成16年度には事前予告の効果額(納付額)だけで23億円にもなったといわれている(平成17年9月7日付け全国税協通信第59号による)。
 「移管通知」を出しただけでこれだけの効果が上がるということは、逆に見れば、それぞれの市町村ごとに行っていたこれまでの徴収がある意味、滞納者から「軽視」されていた裏返しとも言えなくないが、納期限内に完納している多くの納税者との公平を担保し、地方税制への信頼を確保する観点から、こうした取組みは高く評価されるよう。
 特に町村部では、顔見知りの徴税職員が滞納整理にあたることの困難さが指摘される。また、滞納処分のノウハウが十分でないなどの理由で、督促や差押が十分に行われていないケースがある。今回の調査でも、平成17年度中に差押を全く行っていない市区町村が実に387団体にものぼっている。(同様に、平成17年度中に公売を行っていない団体は、都道府県で1団体、市区町村で1,534団体である。)
 滞納処分の前提となる地方税法上の督促については、少なくとも各市町村において確実に実施されなければならないが、小規模な団体では財産調査を伴う差押やさらにその公売は自力で実施することが難しいケースもあろう。個々の地方団体が住民と向き合って徴収努力を尽くすことがあくまでも原則であるが、こうした広域化を行うことにより、効率的にかつ毅然とした税の徴収が可能となるといった効果は大きい。
 ただし、こうした広域的な組合で滞納整理にあたる体制が整備されたとしても、地方税を課税し、賦課し、徴収しているのはあくまでも課税権を有する個々の地方団体であり、市町村が安易に滞納整理組合に地方税の徴収を依存することは好ましくない。一時的には市町村で徴収努力が尽くされることが大前提であり、徴収困難な事案、滞納処分を実施する事案の共同処理を行う機構として活用が図られることが望ましい。
 
(5)個人県民税の徴収引継
 
 個人の道府県民税については、徴税コストや納税者の負担等に配慮して、個人の市町村民税とあわせて市町村が賦課徴収することとなっている。ただし、一定の要件を満たす場合には、道府県知事が市町村長の同意を得て、直接、市町村民税とあわせて徴収又は滞納処分できることとされている(地方税法48条)。
 個人住民税の徴収等の引継については、より活用しやすいよう要件を緩和するための見直しが、平成17年度税制改正で行われたところであり、実施期間の上限が3ヶ月から1年に引き上げられるとともに、地域単位要件(地域内の全ての滞納者を対象とすること)を撤廃、滞納繰越分だけでなく現年滞納分もあわせて徴収できるようになったところである。
 こうした改正の結果、平成15年度には11県でしか行われていなかった徴収引継が、この調査によると31県にまで急増している。今後とも、都道府県と市区町村が効率的な連携によって、3兆円の税源移譲によりその重要度が高まるとともに、固定資産税に次いで滞納税額が多い個人住民税の徴収対策の強化が図られることを期待したい。


前ページ 目次へ 次ページ





日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION