日本財団 図書館


(4)クレジットカードによる納付
 
 地方団体におけるもっとも新しい納税環境整備の取り組みが、クレジットカードによる地方税め納付であろう。日常生活では、クレジットカードによる商品の購入や代金の支払いを行うことは一般的である。また、近年では非常に気軽にクレジットカードの申し込み・利用が可能であり、インターネット取引などでは極めて頻繁に活用されている決済手段となっている。近年では、電気料金や携帯電話の料金、病院の診察・入院費用の支払いなどにも活用の場が広がっている。
 こうした状況を踏まえ、地方税など公金についてもクレジットカードでの支払いを求める声が構造改革特区要望などで出されるようになっていた。通常、クレジットカードを利用する場合、債権譲渡方式と立替払い方式の2つの形式がある。民間で広く利用されているのは前者の方であるが、地方税についてはその性格上、民間への債権譲渡を行うことはできない。一方、地方税法20条の6にはいわゆる「第三者納付」の規定が存在している。立替払い形式を活用したクレジットカードによる地方税の納付は、第三者であるクレジットカード会社が納税者に代わって地方税を納付することにほかならず、現行の法制度上も可能である。
 ただ、クレジットカードを地方団体に提示した時点では地方税は収納されておらず、あくまでもクレジットカード会社から地方団体に当該納税者にかかる地方税が納付された時点で収納されたこととなる。この期間のズレの問題については、既に所要の地方自治法の改正が平成18年通常国会で成立済みであり、指定代理納付者たるクレジットカード会社が地方団体の指定する日(例えば、クレジットカードの提示が行われてから10日後など)までに納付したときは、クレジットカードの提示及び地方団体の承認がされた時に当該納付があったものとみなすこととされている。(未施行の改年後地方自治法231条6項及び7項)との規定の施行後は、納期限当日までクレジットカードによる地方税の収納を認めることが可能となろう。
 残る最大の課題は、手数料水準である。クレジットカードを利用して代金を支払う場合、通常、その代金を受け取る小売店舗等がいわゆる「加盟店手数料」という形で、利用代金の一定率の手数料を負担することが一般的である。小売店舗等は、クレジットカードの利用を認めることによって、手持ちの現金がなくとも、高額の商品を消費者が購入しやすくなる等の利点がある。消費者側も、クレジットカードを利用すれば、その代金の支払いは一月以上先に延ばすメリットが得られるほか、多くのカード会社が手数料収入を財源に提供している「ポイントサービス」を享受できる。クレジットカード会社もより多くの利用者により多くの金額をカード決済して貰うことで、より多くの手数料収入を得ることが可能となる。いわば三方一両得のような関係が成立しているといえる。
 地方団体の公金の中にも、民間の店舗の売上げ料金類似の性格を有するものも存在する。公共施設の利用料金や公立病院の診察代金などはその代表例であろう。しかし、地方税についてはどうであろうか。地方税の納税義務は、一定の要件に合致すれば法令の定めにより一律に発生するものであり、店舗における商品購入のような選択の余地は納税者側に存在しない。地方税は納期限までに現金でその支払いを自ら完了ことが原則であって、第三者に納付を行わせ、期限の利益を得た上で、さらにポイントサービスを受けることとなるクレジットカード納付において、こうした利益の原資ともいえる手数料を無制限に行政側が負担することは問題なしとはいえない。
 アメリカやシンガポールにおける例を見ても、他の公金と税の取扱いは峻別し、税の支払いに係る手数料は納税者本人がクレジットカード会社等にコンビニエンスフィーとして負担しており、行政側の負担はゼロである。
 この問題については、平成18年3月13日付け総務省自治税務局企画課長通知「クレジットカードを利用した地方税の納付について」(総税企第53号)において、次のように指摘されている。
 
 納税者がクレジットカードを利用した地方税等の納付を行うことを選択することにより必要となる手数料については、仮に、地方団体が負担するとしても、他の収納手段における手数料との均衡を保つことが必要であり、それを超える部分は、当該選択を行った納税者本人が負担すべき性格のものであると考えられる。このため、利用額に応じた定率方式による手数料こういては、クレジットカードを利用しない他の納税者との公平性の観点から、1件当たりの地方団体の負担に係る上限額を定めるなどの措置を講ずることが適当と考えられるので、留意されたい。
 
 なお、今回の調査の結果、クレジットカード納付を実施している団体は、都道府県はゼロ、市区町村では、藤沢市1団体のみであった。今後、具体的に予定している団体は、都道府県は同じくゼロ、市区町村では5団体である。
 地方税のクレジットカード納付は、新たな納税環境整備の手法としてその有効性が注目されるところであり、今後、徐々に拡大していくものと思われるが、その際には手数料のあり方や納税者がクレジットカードの提示を行ってから、クレジットカード会社から地方団体へ地方税が納付されるまでのサイクルなどについても慎重に検討、考慮しつつ、クレジットカード納付の導入について、判断されることが望ましいのではないだろうか。少なくとも、相当高額の税額となりうる固定資産税などについて対象とする際には、1件当たりの地方団体負担の上限を定めることは不可欠であろう。
 
(2)民間委託の活用
 
 徴収対策の強化に際しては、地方団体の税務職員自らがこれまで以上に徴収対策に精励するとともに、徴収業務にノウハウを有する民間事業者を活用することを通じて、徴収能力の向上や徴収事務の効率化を図ることも重要な課題である。
 徴税現場においては、文書や電話、臨戸訪問等を通じ、様々な形で滞納者に対する納税の慫慂が行われているところであり、これらに係る事務量は徴収対策において相当なウェイトを占めているのが現状といえる。このうち、徴税吏員に実施主体が限定されていない業務について、できる限り徴税吏員以外の者に委ねるは、徴税吏員がより効果的かつ集中的に公権力の行使に係る業務に従事させることが可能となることから、有用であると考えられる。
 以下の調査事例は、先述の「留意事項通知」において民間委託が可能な業務の例として示されたものを中心に、最近の地方団体の取り組み・検討事例などを加えたものである。
 
(1)電算処理システムの開発・維持管理業務
 
 これらは、もっとも一般的な民間委託であり、都道府県では42県が、市区町村では1537団体が委託していると回答している。
 
(2)納税通知書・督促状の作成・発送
 
 通常の印刷業務だけではなく、納税通知書に税額等を印字する業務も民間委託していると回答したのは、都道府県で40県、市区町村で975団体である。また、納税通知書の封入・発送業務について委託しているのは、都道府県で40県、市区町村で372団体となっている。
 一方、滞納者に対して発送する督促状や催告に関する書面については、滞納税額等を印字する業務も含めて民間委託している団体が、都道府県で36県、市区町村で473団体ある。これらの督促状等の封入・発送業務を委託している団体は、都道府県で39県、市区町村で102団体となっている。
 これら納税通知書や督促状の作成・発送といった業務も非常に広く民間委託が活用されているといえよう。
 
(3)自主的納付の呼びかけ業務
 
 滞納者に対しては、書面による督促・催告などのほかに、電話により滞納者に直接その事実を知らせ、自主的納付を呼びかけることは広く行われている。(ここでいう自主的納付の呼びかけとは、滞納者に対して滞納の事実を伝え、納付の予定などの事実確認を行うなどの行為をいう。)こうした業務のうち、滞納者の財産の状況を把握するための質問は、法令上徴税吏員に限定された質問検査権(国税徴収法141条)の行使であるほか、事実上の徴収猶予といえる分納や納税誓約のための納税交渉を行うことは、その性格上、民間委託になじまない。
 一方、滞納者に地方税を滞納している事実、滞納税額等を伝え、自主的納付を呼びかけることや納付意思や納付予定時期を確認すると等について、法令上徴税吏員に限定する規定はなく、弁護士法等の規定に抵触しない範囲で民間委託することは可能である。また、あわせて滞納者の照会に応じ、課税の根拠や滞納処分の制度について客観的な事実を説明することも差し支えないと考えられる。
 先進事例においては、市役所内の一室を電話催告のための執務スペースとしたうえで、民間事業者から電話催告のノウハウを有する労働者の派遣を受け、滞納者宅への電話催告業務を行わせている地方団体がある。自主的納付の呼びかけ自体は、強制力を伴わない事実行為であり、民間委託することについて問題はないが、業務の性格上、滞納者の住所、氏名、税額などの一覧表を民間事業者に提供することが不可欠であることから、個人情報保護には厳重な配慮が求められる。
 書面、さらには電話による催告によってもなお、滞納が継続する場合、臨戸訪問によって直接滞納者と面接し、納付を求めることが多い。滞納者の自宅等を訪問し、滞納の事実を通告することや、滞納者の地方税を収納することについては、滞納者の氏名や税額、滞納状況などに関する情報を外部に持ち出すことから、それらの情報の取扱いが適正に行われるかどうか等の懸念は大きいものの、現行法上禁じられていない。
 現時点で地方税について、臨戸訪問の民間委託を実施している地方団体はないが、徴収嘱託員などの非常勤職員を活用している事例は多い。
 
(4)差押・公売関連業務
 
 差押や公売という行為そのものは、滞納処分の根幹であり、公権力の行使そのものである。しかし、これらに付随する補助業務については、民間のノウハウを活用できる分野が少なくない。
 まず、差押した財産の移送・保管業務については、都道府県では14県が、市区町村では15団体が委託している、と回答している。また公売対象となる動産・不動産の鑑定業務については、公売を行う上で必要となることが多いが、都道府県では33県が、市区町村では214団体が委託を実施している。
 通常の公売を行うよりも高額の入札が期待できることなどから、最近導入例が増えているインターネットオークションによる入札関係業務については、都道府県で33県が、市区町村では71団体が委託している。また、公売情報の配布・広報宣伝業務については、都道府県で10県が、市区町村では47団体が委託しているとの回答があった。
 処分可能な財産を持ちながら滞納を続ける納税者に対しては、法令の規定に則り、断固として差押を行った上で、公売の手続きに進むべきである。小規模な団体では、差押も公売も実施していない、という団体が残念ながら少なくないが、こうした民間のノウハウも活用することによって、適正な滞納処分が行われることを期待したい。
 
(5)固定資産税の評価に関する補助業務
 
 市町村については、固定資産税の課税に不可欠な固定資産の評価事務に相当な人員を割いており、評価事務の効率化は、地方税の徴収対策の効率化を図る上で最大の課題といってもよい。この固定資産税の評価に関する補助業務については、民間委託している市町村は、893団体にのぼっている。
 補助業務の内容はこの調査の対象ではないが、航空写真の撮影や実地調査後の機械的な計算事務、標準宅地の鑑定評価、評価図面の作成、家屋の資材を判別するための参考資料の作成などの業務が実施されているものと考えられる。
 評価事務そのものについての民間委託についても議論はあるが、固定資産税の評価は課税標準額を確定するために地方団体が実施する行為であり、通常、家屋などへの立ち入りや質問検査を伴うものであることなどから、民間委託することはできず、慎重な対応が求められる。


前ページ 目次へ 次ページ





日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION