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2. 講師講評
第55次君津支部教育研究集会
共同研究者講評
分科会名 環境問題と教育
共同研究者名 福島朋彦
1. はじめに
 君津支部教育研究集会にお招き頂くようになって今年で3年目となります。過去2年間、様々な環境問題への取り組みをご紹介頂いたことで、私なりに教育現場の一端を理解することができました。これは環境問題や教育問題と関わる者にとって貴重な財産です。あらためて御礼申し上げたいと思います。
 いろいろな取り組みをご紹介頂く中で、ユニークかつ精力的になるほど担当される先生個人の孤軍奮闘に依存していることに気づき、そうした努力に対して敬意を払わずにはいられませんでした。しかしその一方で、個人の負担軽減や授業の効率化のためにも、NPOや企業による教育支援活動を活用できないものか、との思いも併せ持つようになったことも確かです。そこで今回は、発表に関する講評に先だち、教育現場と外部支援団体の連携についての主観的意見を述べさせて頂きたいと思います。
 
2. 教育現場と外部支援団体の連携
 外部団体との連携については、第53次集会でも述べました。その時は、環境教育は極めて広範な分野の活動とつながるため、単独の組織または個人が受け持つのではなく、地域または外部団体と連携をはかることが効果的であるとの提案をしました。今回は、それについて、もう少し掘り下げてみたいと思います。
 
(1)外部支援団体
 教育支援を担う外部団体の数は把握していませんが、大小あわせて、相当数が存在すると思います。大きな企業・団体では、教育支援は企業・団体イメージの向上に役立つだけでなく、業界の人材育成にも貢献すると考えているようで、積極的に推進しようとしています。一方、草の根タイプの小さな団体では、子どもに何かを教えたい、子どもと接したい、または先生の気分を味わいたい、といった個人的な思いが教育支援に駆り立てている場合も少なくないようです。このような教育支援の素地はずっと以前からありましたが、それに拍車がかかったのは総合的学習が導入された平成14年度からのことです。
 
(2)学校側
 現在は多様な価値観の渦巻く時代ですが、子どもたちの価値観が健全かつ多様であることに異論はありませんが、多様な価値観を醸成するための教育すべてが学校に求められるとすれば、学校は許容量を超える責任を背負うことになります。以前であれば、街の美化運動は自治会や子ども会の担当だったので学校の授業とは無関係でした。地球環境問題など認識もされていなかったのですから教える必要もありませんでした。また、エイズなど存在しなかった時代は、性教育とは友達とニヤニヤしながら学んだものでした(もちろん学校でもそれらしき授業はありましたが、その比重は小さなものだったと記憶しています)。それら以外にも、食育、環境教育、エネルギー教育、さらにはパソコンやインターネットの手ほどきまでが学校教育に求められるようになってきました。教えるべき事柄が増えたにもかかわらず、今まで教えていた事柄はそのままなのですから、学校側の負担が増えることは自明です。
 
(3)現状について
 学校側の負担が増える一方で、外部団体には教育への参画の意欲があるのですから、需要と供給のバランスが保たれていると考えるのが自然です。ところが現場の先生方に話を聞くと、意外にも、外部団体の支援はうまくいっていません。例えば、大きな企業・団体から一方的に教育資料が送りつけられることや、単なる資料にとどまらずにCD-ROMや教材などが届けられることなど、受け取り側の困惑を省みない押し付け型の支援が横行しているそうです。また、自己満足的な講義を繰り広げる○○専門家、継続を考えずに1回だけの豪華な講義を行なう講師など、学校側の方針を考慮しない自己満足的な講師の存在が指摘されることもあります。その一方で、学校側の姿勢が問われることも多々あります。学校側に指摘される問題の多くは、外部支援機関の過剰な期待を込めるあまり、方針や意図を示すことなく授業を丸投げしてしまうことです。いずれにしても、学校側と支援側の相互理解の乏しさに端を発すると考えられます。
 
(4)今後について
 外部支援による学校教育には克服しなければならない課題が山積していますが、“ヒト”、“モノ”そして“場所”についての相互理解を深めることで大部分の課題は克服できると考えます。もちろんその場合は、学校側が主体性を発揮しなければなりません。例えば次のとおりです。
 
ヒト:学校側の方針に添った授業を行なう(行なえる)講師の選定
*講師の達成感が目的ではない。
モノ:学校側の主体性が発揮できるような(自由度のある)資料の選定
*完全マニュアル式の資料では応用性がない。
場所:学校側の諸事情に合致した場所の選定
*生徒を連れてどこにでも出向けるわけではない。
 
 繰り返しますが、教えなければならないことが増えている一方で、支援を申し出る組織も増えているのですから、適切な連帯を構築することさえ心がければ、有意義な授業が期待できると思う次第です。
 
3. 各提案に対する感想
(1)出会い ふれあい ふるさと金田(木更津市立金田小学校)
 金田小学校による干潟の教育はこの地域外でも知られる歴史ある活動です。自然を相手にする場合、活動の継続性は重要ですが、新しい方向性を探らなければマンネリに陥ります。その点、今年の取り組みには、適度な新しさを取り入れようとする姿勢が見受けられます。
 今回の発表および配布資料を拝見して、継続活動にもかかわらず、テーマ設定の理由や仮説の設置など、根本的な事項が丁寧に検討されていることに驚きました。こうした検討をとおして、“前から指導、横から支援、後ろから見守り”の方針が設定されたことと思います。ハママツナの分布状況をはじめ、自然科学系に関しては継続性および外部連携の効果が顕著ですので、今年から着手した社会教育についても是非継続的に取り組んでいただきたいと思います。
 発表の中で「教師がやればやるほど、子どもたちはやる」との言葉が印象的でした。ある意味で“教育のやりがい”を物語る一方で、際限のない負担を暗示するものでもあります。現在でも東邦大学の学生、地域ボランティアなど、外部との連携がありますが、今以上に活用していただきたいと思います。外部団体との連携は自由に、つまり、専門の出前授業や施設の見学協力ばかりに限定しなくとも良いはずです。
 
(2)身近な環境問題を考え、実践する生徒の育成(木更津市立鎌足小学校)
 この3年間で生徒数が半減して今では44名となった中学校の活動です。あまりの減少のため、体育祭では組み体操もできなくなってしまったとか。思わず、“頑張れ鎌足中学校”と声をかけたくなりました。
 配布資料によれば、この中学の生徒は、豊かな自然に恵まれているにもかかわらず、それに気づいていないとのことでした。その理由を刺激が乏しく守るべき自然という意識に欠けるため、そしてこれまでに地域の方々から受身で教育されてきたとの仮説が設定されています。そこで、自ら地域に働きかける行動を起こすこととし、不法投棄されたゴミの回収が始まったとのことでした。
 評価したいのは、地元のボランティアを巻き込んだ活動であること、資源ゴミのリサイクルを金額やエネルギー節約量に換算するなど具体性をもたせたこと、そしてなによりすばらしいのは生徒たちの溌刺とした活動を収めたビデオ映像を作成したことです。地元の人たちとの共同作業を通じて身近さが感じられることでしょうし、お金やエネルギー量に換算することで具体性が増すと思われるからです。また、実施したことはどこかでアピールする、これは活動にインセンチブを与えるうえで重要なことだと考えます。
 生徒数が少ない学校であれば、比較対象も少なく、自分たちの行動を客観的に評価しにくいと考えられます。せっかくのビデオですから、内輪だけでなく、いろいろな機会を見つけて公表されることを勧めます。そのことで生徒たちが自らの活動のすばらしさを実感して欲しいと思います。
 
4. 最後に
 今回ご紹介いただいたのは2校の環境教育活動でした。いずれも、行動するが、行動だけでは終わらせない意欲的な試みで好感がもてました。また、地元住民との連帯、協力しながら、身近な環境問題をとりあげている点も共通です。
 すばらしい活動の影には、両校の先生方の並々ならぬご苦労があったものと推察します。研究会の当日にも申し上げましたが、今回ほどのレベルの取り組みは、なかなか真似のできるものではありません。しかし冒頭にも記しましたが、外部支援団体の活用は効率的な授業や学校側の負担軽減に有効な手段です。君津支部の環境教育活動が一層発展してゆくことを心よりお祈りいたします。
以上


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