日本財団 図書館


■室内実習(第1日目:夜)
1. コリオリの力の体験!地球は回っている(岸講師)
 
 
 我々は普段、地球の自転していることを意識することなく暮らしています。しかし大洋の海流であっても、潮汐であっても、自転に伴う転向力(コリオリの力)なくして理解することはできません。岸講師は、回転椅子というどこの学校にもある身近な道具を使って子どもたちにコリオリの力を実感させました。写真のように板をもった少年が回転椅子でくるくる回され、その板の上にピンポン玉を置くと、瞬く間に板をころげ落ちていきます。この時の軌跡は、少年からは大きなカーブのように見え、会場の子どもたちからは直球に見えます。これはコリオリの力のためです。講師は、自ら回転椅子で回転しながら撮影したビデオも紹介しました。人数に制限のあるパフォーマンスの場合、このような措置は有効です。
 
□Point
・グローバルな現象を身近な実験で理解してもらう
・直接体験できなかった子どものためにビデオなどの疑似体験で補う
 
2. デカルトの潜水夫とアルゴフロート(伊藤講師)
 
 
 魚が沈まずにいられるのは浮き袋があるからです。しかし深海魚には浮き袋がなく、油の詰まった肝臓がそれの代わりを果たしています。なぜなら、深海では浮き袋の空気がつぶれてしまうのです。空気がつぶれるのは水圧が大きいためですが、逆に水圧の小さい深さに引き上げれば空気は再び膨張します。この原理を利用して海洋観測装置ができないだろうか。こんな発想から作られたのが、アルゴフロートです。伊藤講師は、子どもたちに“デカルトの潜水夫”と呼ばれる実験装置を製作させ、そこから最先端海洋観測機器であるアルゴフロートの話に発展させました。子どもたちは、自らが製作したデカルトの潜水夫を、誇らしげに持ち帰りました。
 
□Point
・子どもにもできる実験から最先端技術をみる
・自分で実験装置をつくる喜び
・実験装置をお土産に・・・家に帰っても再び試す
 
3. リン酸塩の濃度測定(長谷川講師)
 
 
 一般的な小学生はリン酸塩といわれてもピンと来ないだろう。ところが、実験中の子どもに「リン酸って何?」と訊ねると、「水の中にあって、たくさんあると赤潮の原因になってしまうもの」の答えが返ってきました。きっと長谷川講師による導入部での解説が功を奏していたのでしょう。リン酸濃度の測定をしたのは、昼間の乗船体験の時に採取した海水です。海水中のリン酸は、モリブデン酸を加えると黄色、さらにアスコルビン酸を加えると青色に発色します。その濃さを測定して、リン酸濃度を測定するしくみです。ここで使用した測定器は講師の手作り品で、1000円程度で製作可能とのこと。何らかの原因で試料が発色しなかった班もありましたが、講師には成功例のビデオも用意していただけ、不測の事態を補うことができたと思います。
 
□Point
・分かりやすい導入解説
・安価で製作できるオリジナル測定器
・実験失敗に備えてのビデオ映像の用意
 
4. プランクトンの観察(岩崎講師 & 菊池講師)
 
 
 昼間に採集したプランクトンを顕微鏡下で観察しました。なんと言っても生き物の関心は高いようで、多くの子どもが顕微鏡下の生き物を見て目を輝かせました。顕微鏡を覗くだけではなく、テレビモニターに写る装置が用意されており、子ども同士の情報共有ができたのも活き活きと観察できた要因のひとつでしょう。また、自分のお気に入りの生き物の写真を撮影してあげたことも好評でした。子どもにインセンティブを与える良い例でした。
 
□Point
・顕微鏡を覗くだけの場合は個人の理解だが、モニターを一緒に見ることで情報共有が可能になる
・自分の観察した生物の写真提供は子どもにインセンティブを与える
 
■シュノーケリング(第2日目)(風呂田講師)
 
 
 海を科学する。これが風呂田講師の子どもたちに与えた課題です。磯場での観察となると、ついつい“生き物の名前の当てっこ”になりがちですが、ここでは生態学的視点が強調されていました。生き物は、餌を食うため、捕食者に食われないため、より良い環境を探すため、異性と出会うため、出会った異性を横取りされないため、いろいろな工夫をしています。その工夫は、体の形態に表れることもあれば、行動として示されることもあります。講師は、そんな生き物の営みを、子どもたち自身で感じ取って欲しかったのでしょう。
 
□Point
・名前の当てっこではなく、生物の生態を学ぶ
・自分で疑問を探してくる(生きた観察方法)
 
■感想
 海の自然科学教室に参加し、様々な視点の教育手法を学ぶことができました。どの実演もそれぞれの講師が工夫を凝らしたものだったので、興味深い内容ばかりでした。特に、身近な事例から海洋学の最前線を説明する手法は、研究者集団である海洋学会ならではの試みでしょう。“Point”として記した点は、それぞれの活動において特に感心した点であり、いずれも当財団の海洋教育グループにとって参考になると思われます。
 一方で、受講する対象が小学校3年生から6年生までと幅広かったため、すべての参加者に満足いくプログラムの作成は難しいものだと感じました。また、著名な研究者であろうとも、子どもたちの注意をひきつけるテクニックにおいては、小学校の教諭には太刀打ちできないのも確かでしょう。この点は、学校側との協働作業を念頭に置いている我々のスタイルを是非参照していただきたいと感じました。
 
 現時点では未決定であるようですが、2006年は金沢を舞台にした自然科学教室が開催される模様です。さらに楽しめる教室になることを期待したいと思います。
 
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