日本財団 図書館


7. 欧州設計コンサルタントの動向
 高速船建造では現在オーストラリアが最大手であるが、欧州では独立系コンサルタント、または造船所や舶用メーカー付属の研究所やコンサルタントが、船社、船級協会、メーカー等と協働し、設計思想、船体、搭載機器の装備デザイン等に新たなアイデアを提案し、高速船の進化に寄与している。
 以下に欧州の代表的な設計コンサルタントの開発動向を概説し、今後の動向を予測する。
 
7.1 ロールスロイス(英国):技術の転用
 海軍による緊急物資輸送に対する需要の高まりに応え、ロールスロイスは商用高速貨物船P2500船型を軍事利用に改造した。同船は4,000DWT、全長177mの単胴船で、航続距離は3,000海里である。2,500トンの貨物を搭載した状態で40ノットという、同規模の通常船の倍近くのスピードが可能である。
 同船の要となるのは、ロールスロイスの推進システムである。即ち、ガス・タービンMT30 36MW×3、Kamawa250ウォータージェット、Allen Gearsギアボックスの組合せで、バウ・スラスター2基が低速操船時用に装備されている。
 長距離輸送には、3基のエンジンのうち2基のみを稼動した状態で、同じく2,500トンの貨物を、速力36ノット、途中燃料補給なしで3,600海里輸送することが可能である。また、短距離輸送には、搭載燃料を大幅に減らし、3,700トンの貨物を40ノットで500海里以上輸送するオプションが考えられる。基本デザインを用いて、コストや速度等の顧客要望に見合うサイズとデザインに変更することも可能である。
 現在海軍で使用されているカタマランは全長120m、約1,000DWTが限度であるため、貨物・物資輸送というよりも兵士の輸送に利用されることが多い。ロールスロイスの新モノハル船型は、物資輸送に焦点を当てたものである。
 同船型は波浪貫通型のバルバスバウと単胴船型を組み合わせたもので、水力抵抗とスラミングを抑え、操船性が向上した。
 P2500船型は、フランス船級協会Bureau VeritasがHSCコードに従ってデザイン検査を行い、カテゴリーBの旅客船として入級している。
 船体本体の素材は高張力鋼で、第4デッキとブリッジ・デッキのみがアルミ合金製である。この組合せにより、強度向上、軽量化、建造コストの削減が可能である。14
 
 
7.2 BMT Nigel Gee and Associates(英国):ペンタマランの開発
 BMT Nigel Gee and Associates Ltdは、Nigel Gee、John Bonafoux両氏によって1986年に設立された英国の軍用及び民間向け高速船の設計・開発専門コンサルタントで、革新的な新船型を提案している。同社は2003年4月に英国BMT(Britisb Maritime Technology)Groupの100%子会社となっている。
 同社のデザインしたペンタマラン(5胴船)船型は、全長280m以上、通常船の約倍の40ノット以上での航行が可能で、消費燃料は25%削減できるという。同デザインは貨客船としての実用化が計画されている。同社は1996年には既にペンタマランの特許を取得している。
 デザインされたペンタマラン船型は、排水量5,000〜30,000トン、速力35〜45ノット、航続距離は1,000〜4,000海里、推進力は冗長性を考慮した中速ディーゼル・エンジン4〜5基とウォータージェットの組合せが計画されている。
 同船型の開発に2年間を費やしたNigel Geeによると、ペンタマランの船体は高張力鋼製で、アルミ製に比べると重くなるが、価格は大幅に削減することができ、同速力のアルミ製高速船よりも安く建造することが可能である。フルサイズの実船は未だ建造されていないが、コンピューター・シミュレーションとモデル実験の成功により、船社数社がプロジェクトに興味を示している。
 現在の高速船船型の主流は、カタマランとモノハルである。高速化には船体をより細長くすることが必要であるが、安定性に問題が生じる。カタマランはモノハルよりも高速であるが、船体の軽量化には限度がある。水力抵抗を軽減するため、カタマラン船型のスポンソン(短翼、サイド・ハル)の最適位置と喫水を研究した結果、解決策として非常に細長い船体と船体中央と船尾側にそれぞれ1組、計4基のスポンソンを持つペンタマラン船型が考案された。同船型は、乗客・貨物用の広い船体と、安定性、安全性の実現を可能にする。
 ペンタマラン船型の耐航性、航行快適性は高く、Nigel Geeは将来的に同船型の基本デザインがフェリー、クルーズ船、コンテナ船、貨物船、艦艇等多様な船種に採用されることを期待している。同デザインはスポンソンの水力抵抗の関係で、全長50m以下の船体には使用できない。
 Nigel Geeの試算では、ペンタマラン型コンテナ船を使用した場合、通常船では17〜25日かかる米国東海岸から欧州大陸への貨物輸送の所要日数は4日間、ドア・ツー・ドアで7日間が可能であるとしている。航空貨物便の平均所要日数は5〜6日で、ペンタマラン輸送の約4倍のコストがかかることを考えると、競争力は高いと結論付けている。
 欧州ではスペインのIZAR造船所が、2001年にペンタマラン船型のRO-RO及びRO-PAX船のライセンスを取得している。15
 
15
ブレーメン大学(ドイツ)の調査による。
 
ペンタマラン型RO-RO船
出典:The Naval Architect
 
7.3 LMG Marin(ノルウェー):環境に優しい新デザイン
 60年以上の歴史を持つベルゲン(ノルウェー)の船舶設計・エンジニアリング企業LMG Marinは、高速船設計分野での経験を活かし、効率的で環境に優しいフェリーの新デザイン「DCAT」を提案している。
 DCATは高張力鋼製の両頭型カタマランで、50〜200台の車両を輸送できる。速力は14〜24ノットであるが、航海速力を抑えた場合、従来のフェリーよりも貨物ユニット当たりの燃料消費量が低くなることが特徴である。また、短距離航路の場合、速力の限界は、両頭型という船型を活用して、荷役作業や離着桟の時間短縮で補うことが可能である。
 2004年10月には、ノルウェーのフェリー運航会社Fjord 1が、同船型のフェリー5隻を発注した。全長128m、速力は21ノットで、車両198台、乗客535人を運ぶ。同船型が就航する2航路は、2004年には330万人の乗客と150万台の車両が利用したノルウェー西岸BergenとStavangerを結ぶ幹線で、Fjord1社は新両頭型フェリーの投入により輸送の高速化と効率化を図っている。
 同フェリーは、世界初の天然ガス駆動のRoPaxフェリーで、環境負荷が低く、通常のディーゼル燃料フェリーに比較した場合、CO2は30%、NOxは90%、SOxは100%それぞれ削減される。
 同船は、ロールスロイスのガス・エンジン、Schottelのスラスターを搭載し、2007年1月の就航をめどに、ルーマニアのAker Tulcea造船所で建造され、ノルウェーAker Brattvaag造船所で艤装が行われる。受注したAker Yardsの契約金額は12億ノルウェー・クローネ(1億9,700万ドル)と報道されている。
 
7.4 FBM Babcock Marine(英国):SWATH型高速船の開発
 英国サザンプトンのFBM Babcock Marineは、1899年の創業以来、世界60カ国に16,000隻以上の船舶を送り出してきた。現在は、高速船、艦艇、特殊船のデザインを専門としている。
 同社が2003年に発表したFSPV型高速船は、ウォータージェット推進と同社のSWATH技術を組合せ、SWATH船型としては初めて40ノットまで高速化させたSWATH型旅客フェリーである。
 SWATH船型は基本的にはカタマラン船型と似ているが、水中に没した潜水艦型の船体下部が比較的細型の支柱により高い位置で船体を支えており、波浪中の快適性の高さが特徴である。同社は悪天候でキャンセルされることの多いカタマラン型高速船の代替としての需要を狙っている。
 FSPVの船体はアルミ製で、主機はディーゼル・エンジン、またはガス・タービン、またはその組合せが可能である。同船型の旅客定員は最大400人である。


前ページ 目次へ 次ページ





日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION