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欧州における高速船搭載機器に関する動向調査

 事業名 造船関連海外情報収集及び海外業務協力
 団体名 日本舶用工業会  


8. まとめ:今後の方向性
 これまで見てきたように、現在欧州で運航されている比較的新しい高速旅客船・貨客船は、オーストラリアまたはノルウェーで建造されたディーゼル・エンジン駆動ウォータージェット推進のカタマラン船型が圧倒的に多い。
 短・中期的にはこのタイプの高速船の優位は続くと考えられるが、今後新たな船型、推進装置の開発、または高速化への新たな概念やニーズ等から、高速船市場は多様化すると予想される。
 以下に高速船の船型、搭載機器、陸上支援システム等に関して、今後の方向性を考察する。
 
8.1 船型の改良、大型化
 旅客及び貨物の需要レベルにもよるが、船主にとっては、一般的に船体を大型化することで輸送効率、運航効率を上げることができる。
 これまでHSC貨客フェリーの大型化には限度があったが、技術の進歩により、最近では全長100m以上のカタマラン、また前述した全長127mのトリマラン船型のHSCフェリー等、HSCの大型化が進んでいる。
 2005年に就航したトリマラン型貨客フェリーは、モノハル船型と高速ディーゼル・エンジンとウォータージェットというHSCの推進方式を組み合わせた新たな船型であるが、今後はモノハルを基本としたトリマラン船型の改良またはペンタマラン等の新船型により、さらに船体が大型化し、貨物積載重量3,000トン以上の高速貨物船も実現すると思われる。ちなみに、英国の設計コンサルタントNigel Geeがデザインしたペンタマランは全長280mである。
 また、HSCではないモノハル船型の大型通常船でも、新たな推進方式、または既存推進装置の出力増加(中速ディーゼル・エンジン4基)により、速力30ノット以上が可能であり、既に実用化されている。
 
8.2 高速化
 乗客への高速船の人気は高く、さらに高速、大型で快適な高速船への要望は高い。現在運航されている中・大型HSC貨客フェリーの船速は、平均35ノット程度である。
 前述のトリマランは最大船速40.5ノットが可能であるが、実際には重量の関係もあり、36〜38ノットで航行している。しかし、2006年にはエンジン出力のアップグレードにより、船速を2ノット程度上げる予定であるとされている。
 前述のロールスロイスの高速貨物船、Nigel Geeのペンタマランでは、速力40ノット以上が可能であるとされている。海上貨物輸送の高速化は、インターモーダル輸送やショートシー・シッピングを振興するEUにとっての大きな課題でもあり、今後の動向が注目される。
 
8.3 航続距離の延長
 欧州内の高速旅客フェリー航路は短・中距離が多いため、高速船の航続距離の延長は、特に大陸間を結ぶ国際高速貨物船にとっての課題である。
 開発中のNigel Geeのペンタマラン貨物船は、航続距離1,000〜4,000海里で、欧州域内のショートシー・シッピングだけではなく、大西洋を横断する長距離航路への利用が想定されている。ロールスロイスの高速貨物船の航続距離は3,000海里である。両船型とも、速力を低下させることで航続距離を延長するというオプションがある。
 実用化された場合、これらの高速貨物船は、速さとコストの面で航空貨物便に対抗できると予想されている。
 
8.4 搭載機器の小型・軽量化
 高速船が効率的に高速で航行するには、船体の軽量化とともに、搭載機器・設備の軽量化が不可欠である。
 MTUのディーゼル・エンジンが高速船市場でずば抜けて強いのは、他社製品と比較して軽量であることも理由であるといわれている。
 軽量化は推進関連機器だけではなく、船内で利用される乗客用椅子、テーブル、カーペット等の居住区設備にも必要な要素であると、欧州の高速船設計コンサルタントは指摘している。
 また、高速船のブリッジは、通常船以上の機能を持ちながら、スペースが限られているため、今後さらに機能統合されたコンパクトで人間工学を考慮した航海機器製品やシステムが開発されることが予想される。
 
8.5 高速船の特殊機器・製品
 これまで見てきたように、高速船の搭載機器は基本的には通常船舶と同じであり、航海機器システム等で特別に高速船用として開発・販売しているメーカーは少ない。
 
8.5.1 ナイト・ビジョン
 高速船に搭載される特殊装置としては、暗視装置(ナイト・ビジョン)が挙げられるが、現在のところ国際的な搭載義務はなく、ニッチ製品として数社が市場参入しているのみである。しかし、IMOが高速船HSCへの搭載義務化を検討しており、今後市場が急速に拡大する可能性がある。
 HSCに搭載例の多い米国の大手航海機器メーカーSperry Marineは、このような動きを予測し、既に英国のナイト・ビジョン・メーカーVistar社と技術・販売提携を行っている。
 
8.5.2 ECDIS
 同じく、将来的にIMOによる搭載義務化が予想される機器としては、高速船専用の航海機器ではないものの、ECDISが考えられる。
 しかし、現在欧州で運航されている中・大型高速船ではほとんどが既に搭載済みであり、今後新製品への切換えは予想されるが、急速な市場規模の拡大はないと考えられる。
 
8.5.3 船体コーティング・フィルム
 最近高速船で採用された新たな製品としては、船体塗装に代わるビニール製接着フィルムがある。ノルウェーOrca Maritime社の「9800 HT Offshore Film」は、その名の示すとおり、元来オフショア設備の塗装に代わるコーティング・フィルムとして開発されたニッチ製品である。
 これまでの高速船への採用例としては、1999年の「Stena Carisma」があったが、2005年就航のトリマラン「Benchijigua Express」に採用されたことで、製品への認識が高まった。
 コーティング・フィルムは、塗装の劣化が激しいアルミ製の船体への利用に適しており、メンテナンスの必要がないため経済的で、人体と環境に優しい製品として今後高速船への採用が増えると予想される。
 
8.6 低価格化
 船体価格と運航コストの低減は、商船船主、造船所にとって常に最優先課題のひとつである。通常船舶でも同様ではあるが、商業用高速船においては特に重要な要素である。
 
8.6.1 船体素材
 軽量で腐食に強く、HSC船体に最も適した素材として広く利用されているアルミ合金は、船体の大型化に伴い、強度と価格の面で鋼に劣る。
 Nigel Geeの大型ペンタマランは高張力鋼を使用することで、同速力のアルミ合金製に比較して、船体価格の大幅な価格削減が可能であるとしている。また、ロールスロイスの高速貨物船も、主船体素材を高張力鋼とし、一部のみアルミ合金を使用している。
 
8.6.2 推進装置
 現在、HSC推進装置としての高速ディーゼル・エンジンとウォータージェットの組合せの優位性は高く、中・大型HSC市場では、大手欧米メーカー数社が市場をほぼ完全に独占している状態である。
 また、造船所や船主は、高速船搭載機器をこれまでの実績で選ぶことが多いため、欧米メーカー数社の立場は非常に強い。
 そのため、各メーカーは製品の低価格化というよりも、製品の性能向上や効率化に重点を置き、運航コスト削減に力を入れている。今後、画期的な新製品または新システムが登場しない限り、このような欧米メーカーの優位は続くと予想される。
 将来的な高速船推進システムとしては、現在開発中のリム・ドライブ・ポッドが考えられる。リム・ドライブ・ポッドは、サイズ、重量、効率・性能全ての面において従来型ポッド推進装置よりも優れているとされており、同ポッド搭載船では最高速力40ノット以上が可能であるとされ、次世代ポッド搭載船の高速化へのソリューションとして期待されている。
 
8.6.3 燃料コスト
 一方、製品の低価格化には結びつかないが、推進装置の改良は新たな推進システムで運航コスト、特に運航コスト中に占める割合の高い燃料コストを削減することは可能である。
 既に実用化されている例としては、ディーゼル・エンジンのコモンレール電子制御式燃料噴射システムがある。例えば、Fred. Olsen社のトリマラン型貨客フェリー「Benchijigua Express」に搭載されているディーゼル・エンジンMTU「20V8000M70」の燃料消費量は190g/kWhで、同クラスのエンジンとしては最も効率的である。
 また、実用化されている新たな推進システムとしては、軸プロペラとポッド推進装置を組み合わせた初のハイブリッド推進システムを採用した新日本海フェリーの「はまなす」、「あかしあ」が、大型通常船型フェリーとして30.5ノットを実現すると同時に、燃料コストを2軸プロペラ船に比べて20%削減することに成功しており、欧州でも注目されている。
 さらに、現在開発中のリム・ドライブ・ポッドは、従来のポッド推進器よりも高効率であるとされ、将来的には高速船への利用も検討されている。
 
8.7 高速船運航の信頼性、快適性の確保
 現在高速船として広く利用されているカタマラン船型は、特に天候の影響を受けやすく、快適性や運航そのものに支障をきたすこともある。各造船所は、それぞれ減揺装置を開発し、航海の快適性を高める努力をしているが、その効果には限界があることも事実である。
 新たな船型として注目されているトリマラン、ペンタマラン船型は、モノハル船型を基本としているため、カタマラン船型に比較して、荒天に強く、快適性が高いことが特徴である。
 また、英国Babcock Marine社が開発したSWATH型高速船は、基本的にはカタマラン船型と似ているが、水中に没した潜水艦型の船体下部が比較的細型の支柱により高い位置で船体を支えており、波浪中の決適性が高いとされている。同社は悪天候でキャンセルされることの多いカタマラン型高速船の代替としての需要を狙っている。
 一方、ソフト面では、前述したEUプロジェクトで衛星情報を用いたより正確な気象予測により、高速船運航の信頼性、定時性を高めようとする試みが進められている。
 
8.8 メンテナンスの簡素化
 多くの高速船では、乗員数やスペース、航海時間等の機能的な制限から、乗員による航行中のメンテナンスや修理作業が困難である。
 一方、船体の軽いアルミ製高速船では振動や衝撃の影響を受けやすく、エンジンが故障することが多いと指摘されている。よってエンジンの信頼性向上とともに、停泊中の迅速なメンテナンス作業が必要となる。
 メンテナンス作業を簡素化し、信頼性を高めるために、エンジンやウォータージェット等の推進機関では、故障しやすい動く部品数を極力減らす努力がなされている。ウォータージェットでは、乾ドックの必要がないように、多くの機能を船内に配置したもの、そのまま水中から引き上げられるものもある。
 さらに、故障した場合に迅速なサービスを受けられるよう、船主は地元メーカーまたは地元にサービス拠点のあるメーカーの製品を選ぶことが多く、この点でも大手欧州メーカーの製品が優位に立っている。
 
8.9 環境への配慮
 一方、高速船の大型化と高速化に伴う問題としては、消費燃料の増大と環境への悪影響が懸念されている。また、大きさに関わらず、高速船は時間当たりの航海距離が長いため、どうしても燃料消費量が多くなり、環境保護意識の高い北欧等では、高速船運航の環境への悪影響を批判する声も出始めている。
 上記のようにエンジン性能の改良により、燃料消費量を削減することも有効な方法であるが、全く別の観点から、船速を多少落としても、船型や離着桟作業、荷役作業を効率化することで、総合的な運航時間の短縮=高速化を図ろうという新たな動きがある。
 例えば、ノルウェーLMG Marin社がデザインしたDCATは高張力鋼製の両頭型カタマランで、50〜200台の車両を輸送できる。速力は最高24ノットであるが、航海速力を抑えた場合、従来のいかなるフェリーよりも貨物ユニット当たりの燃料消費量が低いことが特徴である。また、さらに環境負荷の低い天然ガスを燃料として使用することもできる。
 特に短距離航路の場合、速力の限界は、両頭型という船型を活用して、荷役作業や離着桟の時間短縮で十分に補うことが可能である。
 今後、船速の高速化とは逆に、このように環境に配慮しながら総合的な運航時間の短縮を検討する船社も増えることが予想される。
 
8.10 人間工学、ヒューマン・エレメントの考慮
 高速船が通常船に比較して安全性が低いという事実はないが、高速であるがゆえ、航海士の的確で迅速な判断が必要とされ、一瞬の小さなヒューマン・エラーが大きな事故に結びつく可能性がある。
 そのため、高速船運航の安全性向上のためには、ユーザーがアクセスしやすく、使いやすい人間工学、ヒューマン・エレメントを考慮した機器、システム及びレイアウトが不可欠である。
 高速船HSCのブリッジは通常船に比較して狭く、システムのレイアウトは重要な検討項目である。例えば、Fred. Olsenのトリマラン「Benchijigua Express」では、ブリッジ・レイアウトをユーザー(=航海士)と造船所が共同で検討・決定したが、それでも未だ改善の余地はある。
 個々の航海機器の性能と使いやすさは向上しているが、今後、機器同士のインターフェイスや、スペースの限られたブリッジ内での全体的なレイアウトの中での人間工学、ヒューマン・エレメントをさらに考慮したシステムが求められる。


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更新日: 2019年3月9日

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