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(ブリッジ等レイアウト、搭載機器)
●コックピット型のブリッジは、中央がキャプテン席、両側はチーフ・オフィサー(右舷側)とチーフ・エンジニア(左舷側)の席。HSCでは一般的なレイアウトである。
 
メイン・ブリッジ・コンソール
 
●細長いブリッジは湾曲しているため、離着桟時のブリッジ・ウィングでの操船の場合は、反対側が見えない。
●独立したエンジン・コントロール・ルームはなく、チーフ・エンジニアはブリッジからエンジンの駆動、モニタリングを行う。離着桟時は、エンジニア2人がエンジン付近で待機している。
●Sperry系(Litton、Decca)の航海システムに特に問題はなく、オリジナルのシステムを使っている。高速船用レーダーとジャイロ以外のシステムは通常船と同様である。
●本船購入時にはキャプテン席の前にはレーダーが設置されていなかったため、レイアウトを変更し、ECDISとレーダーの位置を交換した。
●高速船ではレーダー情報よりも目視が重要であるが、他船と接近し、衝突の危険がある場合、高速船に優先権があっても、回避するのは高速船側であるという暗黙の了解があり、そのような場合にはレーダー上のプロット機能が役に立つ。
●レトロフィットしたAISは、Sperry製のミニマム・ディスプレイ。あまり使うことはないが、入港時に障害となる他船に警告するのに役立っている。来年度はECDIS上にAIS情報を表示可能な機種にアップグレードする予定。
●定期航路を運航しているため、ECDISはあまり必要ないが、イギリス海峡では他船のレスキューのために10海里以上通常航路を離れることもあるため、緊急時に役立っている。
●ECDIS用電子海図の更新は、Admiralty社から毎週送られてくるCD-ROMを使っている。
●夜間はECDISの画面が非常に見にくいため、スクリーンに赤いフィルムをかぶせて使っている。
●昼間の航海では、スクリーン上の太陽光反射を防ぐため、ブリッジの窓に取り付けられたフィルム状ローラー・スクリーン(英国Solar Solve社製)を頻繁に使用している。
●IMO規定によりレトロフィットしたVDRに記録された情報は、エンジン・トラブル等の故障、事故時の原因・状況分析に利用している。
●Sperry以外のメーカーの船首方位伝達装置(THD)サテライトコンパスをレトロフィット中であるが、インターフェイスに問題があるようだ。
●暗視装置は装備していない。香港のように点灯していない小型船舶の多い海域では必要であると考えるが、本船の航行海域ではヨット等の小型船も点灯しており、夜間の識別に問題はないため必要はない。
 
(推進システム関連)
●高速船のエンジンはどのメーカーの製品でも故障が多いようだ。ストップ、スタートの急激な負荷変動や、アルミ製船体による振動の多さが主な原因であると考えられる。
●ブリッジではエンジンの振動が多少感じられるが、弾性のある床材を使用している乗客エリアでは振動、騒音は全くない。
●エンジンは4機で冗長性が確保されており、1機が故障したときでも運航は可能。しかし船速は28ノット程度に落ちる。
●ウォータージェット推進の即応性、操船性は良い。ブリッジ中央ではキャプテンチェアのアームに設置された小型の舵で操作し、離着桟時はブリッジ・ウィングで2基ずつタンデム操作する。緊急停止距離は約490m。
●本船はRuston(現MAN B&W)のエンジンとLipsのウォータージェットを搭載しているが、MTUエンジンとKamawaウォータージェットの組合せより安価なのではないか。
 
ブリッジ・コンソール下のウォータージェット電気系統
 
●通常のエンジンのメンテナンスや修理は本船のエンジニアが行う。既にメーカーの保障期間は切れているので、大規模な修理が必要な場合は地元のエンジン専門企業に修理を依頼している。
●減揺装置は、Maritime Dynamics/INCAT製のライド・コントロール・システム。トランサムに取り付けられたトリムタブと船首下部のTフォイルを自動制御する。
●フラップ式とも呼ばれるトリムタブは、フラップをトランサムのウォータージェット下部に取り付けて、船尾の水の流れによりリフト力を発生させるものである。この方式はキャビテーションの制約もなく、作動システムの配置上の制約も少ない。
●Condor Ferries社は1990年就航の「Condor 9」にTフォイル式のライド・コントロール・システムを搭載して以来、Marintime Dynamics/INCATと協力して減揺装置の性能を向上させてきた。
 
(その他運航、メンテナンス等)
●アルミ船体の塗装は劣化しやすく、頻繁にメンテナンスを行う必要がある。
●定期乾ドックは年1回。2週間程度。
●高速船用の港湾設備や特別なムーアリング・システムは使用していない。ただ、形状の異なるいくつかの港に寄港するため、離着桟を効率化し、港での停泊時間を短縮するために、リンクスパンを常時船体につけたまま移動している。乗客車両入れ換えのための停泊時間は1時間程度。
●高速船としての特別な装備は少ないが、アルミ船体の安全性規定により、火力・高熱を利用する調理器具が使用できないこと、耐火性床材、カーペット、椅子の使用、乗客・乗員向け宿泊設備がないこと等が特徴。
●チャネル諸島への定期航路は当社が独占しており、ビジネスは好調であるが、最近の原油高が問題となっている。当船の1日のディーゼル・オイル使用量は60,000リットルに上り、現在でも運航コストの半分以上を占めている。来シーズンには採算悪化が懸念される。
●チャネル諸島航路の利点は、同諸島がEU特別区であるため、EU域内では廃止された免税品販売が可能なことである。免税品売上げは当船の収入の重要な位置を占めている。ドーバー=カレー間に高速船を運航していたHoverspeed社が最近事業撤退を余儀なくされたのは、他社との競合のほかに、免税品販売廃止の影響も大きいだろう。本船では、現在免税品販売コーナーとカフェテリアの拡張工事を行っている。
●高速船の運航コストは高いが、乗客への人気は高く、冬季でも常時満席に近い。乗客はとにかく短時間で目的地に到着することを希望する。所要時間が倍の当社通常船を利用する乗客はほとんど居ない。高速カタマラン連航は波高が3.5m以上になるとキャンセルされるが(年間10日間程)、乗客に同日の通常船の代替利用を勧めても、ほぼ100%の乗客が翌日の高速船利用の方を選ぶ。
●波の高さが3.5m近くになると、約70%の乗客が船酔いする。
●以前は冬季には、当社高速船をニュージーランド等に他社、他地域にチャーターしていたこともあるが、移動コストがかかり採算が見合わないため、近年は行っていない。
●乗客はより大型、より高速の船を望んでいる。


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