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4.4.2 着岸・着桟設備
4.4.2.1 高速アンカー・ウィンチと高速ムーアリング・ウィンチ
 2005年に就航したギリシャHellenic Seaways社のカタマラン型高速貨客フェリー「Highspeed 5」では、高船速に加え、離着桟作業と荷役作業の高速化・効率化を目的としたデザインを採用している。
 同船は810名の乗客、及び乗用車154台(または乗用車131台と大型バス4台)の収容能力がある。ギリシャでは通常船尾からの着岸方式が多いため、同船も船尾側に乗客、車両別々のランプを設置し、作業の効率化を図っている。折りたたみ式の車両用ランプの採用により、桟橋が低い位置にある場合でも対応可能である。
 また、同船は高速アンカー・ウィンチと高速ムーアリング・ウィンチの採用により、離着桟作業の時間短縮を実現している。
 
4.4.2.2 オートムーアリング・システム
 高速船への採用例は未だ少ないが、欧州で既に実用化されている離着桟作業合理化の顕著な例としては、自動係船装置(オートムーアリング・システム)が挙げられる。
 同システムは船舶のブリッジから遠隔無線操作され、船舶は岸壁に設置された船舶固定装置により、自動的に船体後方部が岸壁と接続される。これにより陸上側と本船双方の係船索の綱とりのための熟練作業員が不要となり、人件費削減と同時に、離接岸時間の短縮による運航効率化を実現、また港湾の安全性も向上する。
 以下にオートムーアリング・システムを採用しているデンマークScandlines社のRodby港、及びシャトル・フェリー「Prinsesse Benedikte」の例を示す。
 
(Scandlines社Rodby港のオートムーアリング・システム)
●Scandlines社は、現在Rodby(デンマーク)−Puttgarden(ドイツ)間、及びHelsingor(デンマーク)−Helsingborg(スウェーデン)間の短距離シャトル・フェリー航路各港でオートムーアリング・システムを採用している。
●同オートムーアリング・システムはスウェーデンMacGREGOR社製。元々スウェーデンの港湾・RORO設備メーカーNorent社の製品であるが、同社は2000年にMacGREGOR社に買収された。
●Rodby港では、電気推進フェリー導入と同時期の1997年以来オートムーアリング・システムを使用している。
●Rodby-Puttgarden間は、4隻の電気推進両頭型ROROフェリーが約30分間隔でシャトル運航している。(1997年建造。14,822総トン。デンマーク船籍とドイツ船籍が2隻ずつ)航海時間は45分。
●オートムーアリング・システムの採用は、旋回の必要のない両頭型船型と操作性に優れるアジマス・スラスターの採用とともに、離着岸時間のさらなる短縮により運航効率向上=高速化を実現している。
●入港時に航海士がブリッジのコントロール・パネルで次の港の停泊バースを選んでボタンを押すと、岸壁のオートムーアリング装置が応答し、能動態勢に入る。
 
「Prinsesse Benedikte」
ブリッジの係船、RORO装置コントロール・パネル
 
●着岸後、ブリッジのコントロール・パネルの「Hook On」ボタンを押すと、岸壁のオートムーアリング装置が自動的に下降し、船舶右舷後部を引っ掛ける形で固定する。
 
 
 
 
 着岸と同時に岸壁のオートムーアリング装置が下降し、船舶後部を引っ掛けて手繰り寄せながら固定。
 
●同様に、車両用ランプのオートムーアリング・システムも、航海士がブリッジ上の「Apron Up」と「Apron Down」のボタンで操作する。入港時に水面の位置に応じてエプロンを下降させながら着岸し、着岸後にオートムーアリング・システムがエプロンとリンクスパンを固定する。
 
エプロン(右)とリンクスパンの接続部
 
●オートムーアリング・システムの採用により、離着岸作業時間は実質1分もかからず、夏季のピーク時には10分間で400台の乗用車、トラック、及び国際列車の搬入搬出を行っている。
●オートムーアリング装置のフックは80トンの圧力に耐えられるが、年に2回程度は航海士が「Hook Release」の操作を忘れて離岸し、鋼鉄製のフックが切れることがある。しかし、修理は複雑ではないので、港の自社設備で行っている。
●Scandlines社は他の港にもオートムーアリング・システムを採用していく予定。
●デンマークでは、Scandlines社以外にも高速船及び通常船を運航するMols Linien社が同様のシステムを使用している。
 
4.4.2.3 リンクスパン:浮揚式半没型リンクスパン
 1996年に就航したStena社のカタマラン型大型高速貨客フェリーHSS 1500は、港湾設備として特別にデザインされたスウェーデンNorent社(現MacGREGORグループ)の浮揚式半没型リンクスパンを採用している。
 同リンクスパンの特徴は、半没型構造により、荷役作業中の潮流の変化に柔軟に対応できることである。また、油圧式フックを用いたオートムーアリング・システムとの組合せで使用され、離着桟作業をさらに効率化している。


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