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序章 調査の範囲
1. 高速船の定義
 一口に「高速船」といっても、全ての船舶について、速度やトン数などにより簡単に分類できる世界共通の統一された定義は存在せず、国際機関、各国関係者がそれぞれの定義を使用しているのが現状である。
 高速船全般に関する国際規制として、国際海事機関(IMO)の高速船コード(High-Speed Craft Code: HSCコード)がある。同コードによると、高速船とは、国際航海に従事する船舶であって、以下の定義に当てはまる船舶である。
 「a craft capable of a maximum speed in metres per second (m/s) equal to or exceeding: 3.7▽0.1667 where ▽=volume of displacement corresponding to the design waterline (m3), excluding craft the hull of which is supported clear above the water surface in non displacement mode by aerodynamic forces generated by ground effect.」
 即ち、「秒速(m/sec)が3.7×計画満載排水量(m3)×0.1667以上」の船舶がHSCコード適用に該当する高速船であり、計画満載排水量に応じた速力により決定される。例えば、計画満載排水量2,000トンでは速力25.54ノット以上、5,000トンでは29ノット以上、10,000トンでは33.39ノット以上となる。
 この定義は、あくまで国際航海に従事する船舶に対して適用されるもので、国内で使用される船舶については各国がそれぞれ定義している。
 日本では、例えば、日本海難防止協会が、22ノット以上の航海速力を有する船舶を「高速船」、35ノット以上の航海速力を有する船舶を「超高速船」としている。
 欧州では、ドイツ船級協会が、HSCコードが適用される船舶以外に、船速24ノット以上の船舶を「高速船=high-speed vessel」、30ノット以上の船舶を「高速艇=high speed craft」と分類している(欧州ではこれが一般的に通用しているようだ)ほか、21〜22ノット程度のフェリーを「高速フェリー」とする例や、25ノット以上の船舶を「高速船」としている例もある。
 また、米国では、コーストガード(USCG)が、HSCコードが適用されない国内高速船に関しては、HSCコードと国内規制のギャップを埋めるものとして、一律船速30ノット以上の船舶を「高速船」と定義することを提案している。その理由として、船速が30ノットを超えた場合、船舶の運航が通常の操船とは異なり、安全運航への特別な注意が必要となるからだとしている。
 国連においては、欧州の内陸水路交通に関する提案の中で、船速が時速40km以上の船舶を「高速船」と定義しているが、これを海上交通に当てはめた場合、船速22ノット以上の船舶が該当し、欧州水域で運航されている旅客船の大部分は高速船となってしまう。
 本調査では、欧州で一般に通用している定義を採用し、一部資料の例外を除き、速力24ノット以上の船舶を高速船とした。
 
2. 世界の高速旅客船運航実績概観
 現在、全世界で連航されている、速力25ノット以上、旅客数50人以上の船舶は1,500隻以上に上る。下表を見ると、その半数以上を双胴船(カタマラン)の貨客船が占め、平均船齢も比較的若い。
 下表が作成された2004年以降の進展としては、2005年5月に世界初のトリマランが就航した。
 
全世界:高速船運航実績
 
船型 隻数 平均建造年 総トン数 総旅客数(人) 総車両数(台)
双胴船 777 1992 584,800 237,822 13,018
ハイドロフォイル 371 1979 55,967 51,080 0
ホーバークラフト 32 1985 2,132 3,586 0
単胴船 286 1978 254,285 85,981 7,032
SES 80 1985 13,133 14,606 18
SWATH 2 1995 1,577 777 0
出典:HiSpeed 04、ShipPax資料より作成。2004年8月現在。
注:高速船とは25ノット以上、旅客数50人以上の船舶
 
3. 調査の対象
 本調査では、欧州で一般的に使用されている船速24ノット以上の船舶を「高遠船」と定義し、その中でも特にHSCコードが適用される場合の多い30ノット以上の欧州域で運航される旅客フェリー及び貨客フェリーを主な調査対象とした。
 また、欧州域内でも、南欧等の国内航路では30年前に建造されたハイドロフォイル等の高速船や数多くの小型高速船が使用されているが、最近の機器搭載状況を把握する、規制との関連を調査するなど本調査に有益な情報収集の観点から、調査対象は過去10年間に建造された中・大型高速船のみとした。


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