日本財団 図書館


2.11 イタリア
(イタリア海事産業)
 イタリアの海事セクターは、EU全体の売上げの半分近くを占め、世界でも米国に次いで世界第2位の規模である。イタリアはプレジャーボートのみでも87万隻を有し(2002年)、600ヵ所の造船所が6,000人を雇用している。海事セクター全体の雇用者数は365,000人で、イタリアの全雇用者の1.5%に相当する。18
 
(イタリア造船業)
 イタリアの造船所は、クルーズ船、フェリー、RORO船、ケミカル・タンカー、調査船等の建造能力を持ち、2004年の商船建造量は634,000CGT、金額ベースで22億ユーロであった19。全世界の中・大型クルーズ船、高速フェリー、クルーズ・フェリーの3分の1がイタリアで建造されている。(表2-11-1)イタリア海事組織Assonaveには、舶用企業100社、舶用エンジン・メーカー2社、造修所27社、海事研究所1組織が加盟している。建造・製造設備及び工程の改良と活発な研究開発活動により、イタリアは欧州でも最先端の造船セクターを築き上げている。
 
表2-11-1 イタリアの新造船建造実績(2004年)
新造船建造 隻数 CGT 百万Euro
竣工
(内、輸出向け)
27
(7)
633,603
(382,870)
2,212
(1,423)
新規受注
(内、輸出向け)
32
(10)
1,284,886
(863,670)
3,974
(2,724)
受注残
(内、輸出向け)
41
(16)
1,901,981
(1,390,390)
6,122
(4,601)
出典:CESA Annual Report 2004-2005
 
 2004年の船舶修繕・改造受注は変動が激しかったが、全体的な受注量は2003年と同レベルの2億8,000万ユーロであった。地中海東部や黒海沿岸諸国の修繕ヤードとの価格競争や対ドルでのユーロ高がイタリアのヤードに不利となっているが、2005年の受注レベルは回復が見込まれている。
 
 一方、2005年半ば時点での主だった新造船受注は、Fincantieri以外の造船所では僅か2件に留まっている。国営造船所Nuovi Cantieri Apuaniaは、2005年3月、Grandi Navi Veloci社(Grimaldiグループ)から貨物フェリー4隻(オプション4隻)、総額2億ユーロを受注し、今後3年間に順次竣工する。また、Cantiere Navale di Pesaro造船所は、モンテカルロのAntonio Careri社から石油ケミカル船6隻を受注した。20
 
20 Fairplay International Shipping Weekly 30 June 2005
 
 イタリアの商船建造の主要造船所は以下の6社である。(2-11-2)
●Fincantieri
●Nuovi Cantieri Apuania
●Isotta Fraschini Motori
●Cetena Spa
●Wärtsilä Italia
●Cantiere Navale di Pesaro
 
【Fincantieri】
 Fincantieriは、造船、修繕、舶用機器部門を持つ。造船部門では、クルーズ船及びフェリー、商船、艦艇建造部門が主要3部門である。2004年12月31日時点の収支状況は以下の通りである。
●2004年の純利益は9,950万ユーロ。2003年の9,070万ユーロから増加。(2004年の税引き前利益は1億4,910万ユーロ。前年の8,280万ユーロから大幅増加)
●生産高は21億4,800万ユーロ。前年の22億9,670万ユーロから低下。
●2004年の黒字は2億9,530万ユーロ。前年比1億6,880万ユーロ増加。
●2004年の新造船受注額は30億6,900万ユーロ。前年の5億7,200万ユーロから大幅増加。
●受注残は76億ユーロ。
●設備投資額は前年と同レベルの4,800万ユーロ。
●雇用者数は9,490人(2003年末時点は9,226人)。
 
 2004年1月1日から2005年3月末までの新造船受注は18隻、40億ユーロで、前年同期の13.5億ユーロから大幅に増加した。受注総額は約85億ユーロで、そのうち、受注残は約60億ユーロである。
 Fincantieriはクルーズ船建造では世界最大手で、45%のシェアを誇る。2004年に受注した新造クルーズ船は、プリンセス・クルーズ、P & Oクルーズ向けの「カリビアン・プリンセス」クラス2隻、コスタ向け2隻、カーニバル、キュナード向けの2隻の計6隻である。Fincantieriはイタリア国内に8ヶ所の造船所を持つ。
 
 FincantieriのCEO Giuseppe Bono氏は同社の民営化を支持しており、2005年9月、良好な財政状況が同社の価値を上昇させているため、2006年中にも民営化される可能性を示唆した。同社の株式上場に関しては、政府と株主の合意が必要である。現在、Fincantieriの95.3%はイタリア財務省が100%所有するFintecnaが、また残りの4.7%は複数の銀行が所有している。21
 
21 Fairplay International Shipping Weekly 5 September 2005
 
【Isotta Franschini Motori S.p.A.】
 同社はFincantieriの子会社で、2製品ラインの舶用・工業用高速ディーゼル・エンジン(200〜2,500kW)の製造を行っている。主な用途は、漁船、プレジャーボート、発電機である。
 
表2-11-2 イタリア主要造船所の概況
造船所 業務内容 規模 雇用者数 受注状況 投資状況
Monfalcone クルーズ船、クルーズ・フェリー。 750,000m2(内、205,000m2が屋内)。350×56mの建造ドック、400トン・クレーン2基、全長1260mの儀装岸壁を持つFincantieri最大のヤード。 1930
Marghera クルーズ船、クルーズ・フェリー。 170,000m2。
334×54mの建造ドック、400トン・クレーン2基、儀装岸壁600m。
最大25万GTまで建造可能。
1328 2005年10月Holland American Line (Carnival Group) Cunard Line向け85,000トン級クルーズ船(Carnival Group)。 今後4年間で700億リラを投資して拡張、効率化。
Sestri Ponente ガス・タンカー、RORO船、オフショア・プラットフォーム、クルーズ・フェリー、クルーズ船。 248,000m2、内、屋内81,000m2。
285m×255m、42m×36mの建造ドック、200トン級クレーン3基(3基増設予定)、儀装岸壁900m。
最大140,000GTまで建造可能。
794
Acona フェリー、艦艇、クルーズ船。 340,000平方メートル、内、65,000m2が屋内。
建造ドック240×55m、500トン・クレーン1基。
最大10万GTまで建造可能。
659 セクション切断ラインと自動接合設備。
Palemro 240,000m2、内、屋内53,000m2。建造ドック5本(370×68m、310×54m、286×46m、193×30m、163×22.8m)、儀装岸壁1000m。 560 「Costa Magica」の船首部分、及びGrimaldi向け自動車船2隻。その他改造、修繕。
Castellammare 236,000m2、内、屋内78,000m2、234×32m。
200トン・クレーン4基。
654 大型屋内格納庫、リフト設備、パネル・ライン、ブロック・ライン。
Muggiano 1998年に潜水艦建造業務がMonfalconeから移管。 120,000m2。
船台188×32m、儀装岸壁755m。
852 イタリア海軍向けU212Aクラス潜水艦。(2005年、2006年竣工)
Riva Trigoso 173,000m2、内、屋内71,000m2。船台174×60m、240トン・クレーン1基。 1097 新造空母「Cavour」船体の一部。(2007年末竣工予定)「Orizzonte」フリゲート艦2隻。(2007年中、2009年初竣工予定)
 
(イタリアのプレジャーボート建造)
 イタリアのプレジャーボート建造も、米国に次いで世界第二位である。レクリエーション用のボート産業は、ボート船体、アクセサリー、舶用モーターの3部門からなり、主要造船所は以下の通りである。22
 
●Azimut-Benetti
●Ferretti
●Cantiere Nautico Cranchi
●C.N.San Lorenzo Fipa Italiana Yachts
●Cantieri Di Pisa
●Sessa Marine
 
 2002年のイタリアのプレジャーボート建造総額は、前年比12.5%増の15億ユーロに上る。雇用者数は11,000人で、引き続き増加が見込まれている。一方、関連産業を含めた2002年売上げは20億ユーロで、成長率は10%である。23
 
 イタリアのプレジャーボート建造の最大手は、Ferretti Groupである。2003/2004年には373隻を販売、売上げは5億5,700万ユーロで、ライバル企業のAzimut-Benetti社を凌駕した。2002/2003年の売上げは、前年比45%増の323隻、8,500万ユーロであった。
 
 
【Azimut-Benetti】
 2004年8月末時点の年末決算では、Azimut-Benetti社の純利益は、前年比8.6%増の4億5,400万ユーロであった。売上げも増加傾向にあり、2004年初めの受注残高は5億ユーロである24。2002〜2005年の建造隻数(建造中を含む)は39隻で、1997〜2001年の18隻から倍増した。25
 
 同社は、蒸気タービン、フィン・スタビライザー、トンネル・スラスター、減速ギア、ステアリング・ギア、プロペラを製造する舶用機器部門26も持っており、Fincantieriが蒸気タービンの設置とサービスを行っている。現在の舶用機器部門の雇用者総数は1,930人である。また、同社は、クルーズ船の修繕・改造、メガヨット建造、統合舶用システム構築等の新分野でのシェア拡大を狙っており、これらの分野への進出に際しては、他社との戦略的提携の可能性もある。
 
 Fincantieri商船部門担当副社長のGiovanni Romano氏は、今後も新造船需要への好材料の多いAzimut-Benetti社の成長を見込んでいる。地中海海域を航行する船舶の老朽化や安全性基準の強化以外に、EU拡大による交通量増加、ギリシャ国内航路の開放、EU主導のショートシー・シッピングの振興等も新造船需要への追い風となると思われる。
 
 
(イタリア舶用産業)
 イタリア海事組織Assonaveに加盟している舶用企業は107社である。(表2-11-3)
 
表2-11-3 イタリア舶用企業の業務分類別企業数
業務分野 企業数
鉄、鉄鋼素材 6
機械 9
船内システム 15
電子機器、オートメーション 18
塗装、絶縁 16
家具 25
航海機器 4
サービス 2
その他 12
 
【Wärtsilä社】
 Wärtsilä社は、船主、オペレーター、造船所向けに全船種及びオフショア設備用の舶用機械、推進装置、シールを提供している。2005年の同社動力部門の売上げは前年比15%増が見込まれている。また、2006年の売上げも、堅調な受注と市場の好況により10%程度増加すると予測される。
 
 2004年1月、Wärtsilä社は、46型エンジンと50DF型エンジンの製造拠点を、フィンランドのトゥルクからイタリアのトリエステに移動した。製品サポート機能はトゥルクに残る。46型エンジンはクルーズ船のディーゼル電気推進に多用されるエンジンである。また、同型エンジンは、陸上ディーゼル発電にも使用される。
 
 同社の新トリエステ工場は、2006年初頭から、英国BP ShippingのLNGタンカー4隻向けに50DF型デュアル・フュエル・エンジン16基を製造する。同タンカーは2007年後半に竣工が予定されている。また、将来的に追加LNGタンカー4隻分のエンジン供給のオプションも持っている。
 
(イタリアの海事セクター)
 2002年のデータ27によると、イタリアの海事セクターの生産高は約263億ユーロで、同国GDPの2.3%に相当する。この数値はEU平均(1.6%)よりも高く、これより高い国はオランダ(3.7%)や英国(3.5%)である。同セクターの総雇用者数は約356,000人(全産業雇用者数の1.5%)で、その内訳は直接雇用185,830人、関連上流部門88,985人、下流部門81,260人となっている。
 
 海事セクターの主要5部門は、海運、海運支援サービス、商船建造、レジャーボート、漁業、及び海軍、海上保安局、港湾局を含む非工業部門である。非工業部門関連の売上げは26億ユーロに達し、雇用者数は50,270人で、売上げ、雇用とも海軍が85%を占めている。
 
 海事セクターの主な役割は以下の通りである。
●高度に国際化されたセクターで、イタリアの国際貿易の存在感を高める。
●地域的影響、特に海事都市への影響が大きい。
●環境問題への認識が高く、環境にやさしい運輸手段を提供。
●沿岸地域、内陸水路の安全な国内及び国際交通を提供。
●人的資源の開発とトレーニングヘの貢献。
 
 イタリアの海運部門の売上げは126億ユーロで、海事セクター全体の総売上げの約50%に相当する。同部門は規模の大きさだけではなく、1996〜2002年の8年間に69%増という最も高い成長率を示した。
 
 イタリア商船建造部門(新造受注、受注残、竣工数)の世界シェアは、1998年以降減少傾向にある。しかし、イタリア造船業はアジア諸国との競合で優位に立つことのできる高い技術力、専門性が要求されるニッチ市場に特化しており、実質値は増加している。
 
 レクリエーション用のボート建造は、国家経済における重要性は低いが、その質、デザイン、及び「メイド・イン・イタリー」の評価は高く、輸出市場での可能性が高い分野である。
 
 他方で、EU欧州委員会は、イタリア造船業が競争力を阻害する国家補助規制であるEU条約87条に違反しているとし、イタリア国内造船所における新造船建造及び改造のリスクをカバーする造船保証制度を禁止しており、イタリア造船業の活性化には減速要因もある。28
 
27 The Economic and Employment Impact of the Italian Maritime Cluster: Federation of the Sea, 2002
28 Fairplay International Shipping Weekly 30 Jun 2005


前ページ 目次へ 次ページ





日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION