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2.8 ギリシャ
(ギリシャ海事産業)
 ギリシャは島々への旅客・貨物輸送の長い歴史を持ち、海事セクターは伝統的に同国経済の重要な役割を担ってきた。ギリシャの商船隊の歴史は最も古く、また現在でも世界最大規模である。この主な理由は、ギリシャ企業と提携した外国企業の市場参入例も増えているものの、ギリシャの海運業が今でもギリシャ船主に独占されていることにある。ギリシャの商船隊は3,370隻を保有し、これは世界の商船の9%、及びEU船籍の商船の40%に相当する。ギリシャ船主の貨物輸送能力は1億8,000万トンで、世界全体の18%である14。また、近年の同国経済の成長と、市場経済への移行やEU加盟により経済成長過程にある黒海沿岸諸国との近さが、ギリシャの海運業への追い風となっている。
 
 ギリシャは、経済的重要性を増す黒海沿岸諸国への窓口として、港湾の整備と拡張を精力的に進めている。港湾拡張計画は、外国の海運業者がこれまでギリシャ船主に独占されていたギリシャ海運市場に進出する機会を与えるものと期待されている。
 
14 The Greek Shipping Industry-United States of America Department of Commerce
 
(ギリシャ造船業)
 ギリシャの造船・修繕セクターは国内船主向けのサービスとして、国内経済に貢献してきたが、国際的なビジネスは少ない。現在では、ギリシャ船主は、韓国、日本、中国、フランス、ドイツ、フィンランド、ウクライナ、ルーマニアの造船所の重要な顧客である。そのため、ギリシャの国内造船所のビジネスは、主に船舶修繕、改造及びギリシャ海軍向けの艦艇建造に制限されている。
 
 上記のように、過去6年間の新造船建造実績は2004年竣工の外国船主向けフェリー「Neorion」のみで、船価は4,900万ユーロであった15。(表2-8-1)ギリシャ造船業は、4つの大型民間造船所と多くの中小造修所から成るが、その数は1990年代後半以降、減少傾向にあり、雇用と生産体制に多大な影響を及ぼしている。1975年当時には10,159人を雇用していたギリシャの造船・造修セクターの現在の雇用者数は3,174人である。
 
表2-8-1 ギリシャの新造船建造実績(1999〜2004年)
竣工年 1999 2000 2001 2002 2003 2004
隻数 0 0 0 0 0 1
CGT 0 0 0 0 0 897
出典:CESA Annual Report 2003/04
 
 ギリシャ造船業の衰退の第一の原因は、人件費の安い近隣諸国、即ちトルコ、ルーマニア、ウクライナ等の黒海沿岸諸国との価格競争である。ギリシャの労働力は高いスキルを持ち、造船所や港湾インフラも整備されており、生産性は近隣諸国よりも高いが、人件費の高さは生産性の高さを上回るものである。ギリシャの造船所の建造する船舶は複雑な技術を必要としない造船市場の底辺で競争しているため、船主は技術力、生産性、インフラ設備よりもコストで選ぶことが多い。
 
15 CESA Annual Report 2004/2005
 
【Skaramanga】
 Skaramanga造船所は、Hellenic造船グループ所有の民間企業である。新造船建造需要の減少により、同造船所のビジネスは多様化を余儀なくされている。現在、同造船所は、主にギリシャ海軍向け艦艇の建造及び改造とギリシャ国鉄(OSE)及びアテネ−ピレウス電鉄(ISAP)向けの鉄道車両の建造を行っている。
 
【Elefsis】
 Elefsis造船所は、Neorion Group保有の民間企業で、Skarmangaと同様に、ギリシャ海軍向け艦艇の建造とギリシャ国鉄(OSE)向けの鉄道車両の建造を行っている。また、同造船所は年間平均約150隻の主に商船の修繕及びレトロフィットも行っている。さらに、テサロニキ港湾局向けのガントリー・クレーンや浮揚プラットフォーム、橋梁、タンク、欧州最大規模の船台、その他構造物の建造も主要ビジネスである。
 
 2000年以降、ギリシャの造船業は主要造船所の民営化を主体とした企業再編が進み、人員削減と技術の近代化を促進してきた。それ以前には、新造船建造需要の減少にもかかわらず、雇用者数を保持してきたため、生産性に悪影響を与えていた。しかし、民営化により企業経営の柔軟性が増したことに加え、アジア造船所の船台不足もあり、ギリシャの造船所の競争力は向上することも考えられる。ギリシャの造船所における今後競争可能な船種としては、クルーズ船とフェリーがある。
 
 民営化前の造船業の衰退は、修繕・改造業にも影響を与えている。(表2-8-2)中小修繕ヤードや舶用機器メーカーが集中するピレウス−ペラマ地区は、政府による中小企業振興策の対象となっている。例えば、ギリシャ政府は2002年に、職業訓練と雇用を促進すると同時に、社会保障基金の支払いの緩和等の方策を導入した。
 
表2-8-2 ギリシャの船舶修繕・改造実績(2000〜2003年)
2000 2001 2002 2003
金額(百万ユーロ) 76 99 59 57
 
 ギリシャのカボタージュ法は欧州で最も厳しく、これまでギリシャの内航海運は外国企業を排除してきたが、2004年の同法廃止により、ギリシャ海運業者は他のEU諸国と同様の条件で競争することとなった。これにより、外国企業はギリシャ水域での沿岸航路に参入することも可能になる。ギリシャ船主は近代的な外国船に対抗するため、新造船建造を加速すると考えられ、カボタージュ廃止は、ギリシャ国内の造船所・造修所にとっては朗報となると考えられる。
 
2.9 オーストリア
(オーストリア経済概況)
 オーストリアの購買力平価で見た1人当たりGDPは、1999年時点でEU平均よりも10%高く、EU第4位であった。サービス・セクターが最も重要な経済セクターで、雇用の3分の2、生産高の62%を占めている。また、建設業を含む製造業が、生産高の35%という大きなシェアを持っことが特徴である。大部分の企業が中小企業であるが、同じ経済規模の国々と比較して大企業も多い。今後の経済成長に不利な点は、ハイテク部門の製造業とサービス企業が少ないことである。
 
 天然資源のないオーストリア経済の強みは、質の高い労働力と良好な労使関係で、賃金闘争やストが少ないことである。また、同国は欧州の中心に位置し、スキー、アルプス山脈、文化遺産等の観光資源も重要な収入源である。内国市場が小さいため、元々輸出比率が高く、近年の経済国際化により、製品、サービスとも輸出は増加傾向にある。1995年のオーストリアのEU加盟と旧社会主義諸国の市場経済化により、1994年に対GDP比38%であった輸出比率は1999年には46%に上昇した。
 
 近年、オーストリアはEU主導の経済自由化や市場競争原理を受け入れてきた。1980年代に損失を計上していた国営大企業は、再編や労働力削減の試みにもかかわらず、競争力が低く、さらなる生産効率化をめざして民営化が進められた。しかし、他国の国営企業に比べ、オーストリアの国営企業の運営は問題が少なかったため、伝統的な官営と民営の比率が変化するにとどまった。民営化された国営企業は10年前には工業生産全体の5分の1を占めていた。分割された国営企業の多くは、外国企業、特にドイツ企業に買収された。
 
(オーストリア海事産業)
 オーストリアの海事セクターの規模は小さい16。2004年は、オーストリアの舶用機器セクターにとって明暗の分かれた年であった。極東市場で成功したメーカーもあれば、国内製造で価格競争力の低下したメーカーもあった。EU市場での需要減少とユーロ高もビジネスに悪影響を与えた。商船建造セクターは、軍事、自動車、航空宇宙産業に比較しても後退の度合いが大きかった。
 
 海事セクターの直面する問題は、投機的な金融市場、欧州から米国への頭脳流出、伝統的な製造業中心の経済から知識べースの経済への移行等である。
 
 オーストリア海事セクターの主要企業はエンジン・メーカーである。AVL、Boehler、Bosch、Geislinger、Hoebiger、GE Jenbacher、Kral、Miba、Voestalpine等のメーカーは、デュアル・フュエル、水素、燃料電池等で駆動される舶用推進装置と補助装置製造で定評がある。
 
 オーストリアの舶用メーカーは全て中小企業で、舶用専門企業は皆無である。多くのメーカーが、自動車産業や航空宇宙産業との兼業である。
 
 1999年以降、クルーズ船発注件数の減少や国防予算の縮小により、欧州の造船業は打撃を受けた。しかし、オーストリアの舶用企業はニッチ製品に特化している例が多く、新造船建造シェアの80%を独占する極東市場においても、貿易組織の助力も得ながら、ハイテク製品及びサービスの納入で成功を収めている。
 
 
2.10 ベルギー
(ベルギー海事産業)
 ベルギー海事セクターの主要産業は、商船運航、タグボート産業、油圧エンジニアリング機器製造である17。その特徴は、比較的少数の企業がニッチ企業として国際的に活躍していることで、油圧エンジニアリング企業は特に強い。
 
 ベルギー海事セクターの2006年の総売上は171億ベルギー・フランと予測され、その52%は油圧エンジニアリング企業の売上で、商船運航は37%、タグボート産業は11%である。また、海事セクターは4,500人の船員、及び2,250の地上労働者を雇用している。間接雇用を含めた場合、雇用者数はベルギー居住者8,800人、非居住者2,700人、総売上は278億ベルギー・フランとなる。
 
 ベルギー政府の海事政策は整合性に欠け、発展の可能性のある海事セクターへの税制、船員関連規制、船舶融資面で不十分であるといわれている。
 
【Antwerp Shiprepair】
 Antwerp Shiprepair社は、180,000DWTまでの船舶修繕一般、乾ドック、改造を行っている。同社は6本の乾ドックと3,000メートルのバース(最大喫水9m)と、鉄鋼、エンジン、溶接、塗装、配管、電子機器等の修理設備を持っている。
 
【Antwerp Underwater Services】
 同社は、船舶の荷役作業中でも、損傷の水中検査、溶接、プロペラ研磨、船体クリーニング等全ての修繕またはメンテナンス業務を行っている。
 
【Damen Shipyards Oostende】
 オステンド港にある同造船所は、漁船、作業船、巡視船建造を専門としており、大規模な屋内艤装エリアを持つ。また、組立済みブロックの販売も行っている。
 
17 Policy Research, A Durable Belgian Maritime Policy


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