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2.12 ポルトガル
(ポルトガル海事産業)
 2001年のポルトガル海洋セクター(海事セクターに加え、海を利用した観光などの関連セクターを含む。)の同国経済におけるシェアは、GDPの11%、雇用の12%、直接税収の17%、輸出の15%であるとされている。29
 
 国際レベルで競争可能なポルトガルの造船所にとっては、2004年は好調な1年であった。また、漁船建造を専門とする小規模造船所も、フリート代替により受注は好調であった。これらの漁船専門造船所は2004年の受注船舶を建造中であるが、2004年末に水産資源保護のために漁船新造への補助を中止するという新EU共通漁業政策により、漁船建造の将来的見通しは非常に暗い。
 
 2004年の船舶修繕需要も約7%増加した。この分野では、前年比4%減のタンカー修繕以外、乾貨物船を中心に全ての船種で修繕件数が増加した。
 
 貨物運賃の回復により、今後、船舶修繕需要が増加することが予想される。特に今後数年間に引き渡される新造LNGタンカーの約70%は、LNG貿易の盛んな大西洋で活動するものと予想されることから、大西洋沿岸に大きなドックを擁する造修所、例えばポルトガルのLisnave等のビジネス増加が期待される。
 
 ポルトガルの主要造船所は北部及び中部に位置しており、その主な特徴は以下の通りである。
●鋼船造船所:Lisnave、ENVC等の大規模造船所が多い。造船及び商船、漁船、客船、その他舶用機器の修繕業務。
●木造船造船所:ほとんどの造船所が船舶修繕業も兼業。しかし、小規模造船所の中には、地元海事産業のサポート業務に専念するものもある。
●アルミ船造船所:アルミ製の内航客船、観光船のメンテナンスを主要ビジネスとする。
●ファイバーグラス船造船所:観光船、漁船のサポート専門。
 
29 Report of the Strategic Commission for the Oceans 2004,
 
【Lisnave】
 ポルトガル最大の造船所Lisnave(敷地面積1,500,000m2)は、不況に悩む欧州船舶修繕業の大手でもある。対ドルでのユーロ高や貨物運賃高謄により船主がドック入りを延期するというマイナス材料にもかかわらず、Lisnaveの欧州市場シェアは10%も上昇した。
 2004年秋、ドイツGIG社は保有する20%のLisnave株をポルトガルNavivessels社に売却し、Navivessels社は保有するLisnave株を40%に倍増した。2004年にLisnaveは27カ国71船主所有の125隻の船舶修繕を行ったが、特に同年上半期が好調で、船舶修繕件数は前年同期比37%増の49船主所有の67隻であった。30
 
 主な顧客は、英国、シンガポール、ノルウェー、ドイツ、ギリシャ、米国船主で、船種はばら積み船、コンテナ船、タンカー、クルーズ船が多い。Linsave社のビジネスの特徴はリピート顧客が多いことである。2004年のリピート顧客は、Eagle Ship Management、Teekay、OSG、Novoship、V.Ships、BP Shipping、Shell International、Horizon Linesで、全顧客の32%、ビジネス顧客の58%を占める。31
 
 Lisnaveは顧客需要に敏感に対応しており、最近ではLNG船修繕設備の増強、ISPSコード発効による環境保護と安全基準強化に関連する設備投資に力を入れている。32
 
 しかし、他方で2004年には、Lisnaveが伝統的に得意とする船種であるばら積み船の運賃高謄とユーロ高により、修繕契約が人件費の安いバルト諸国や黒海沿岸諸国に流れるという問題も発生している。33
 
 全体としては2005年第2四半期のビジネスも引き続き好調で、前年同期比42%増の24隻(英国、シンガポール、米国、EU諸国)の修繕を受注した。増加が目立った船種は、タンカー(54%増)、ばら積み船(30%増)、コンテナ船、OBO(ore-bulk-oil)船である。2005年第2四半期も、客船の定期乾ドック1隻、座礁による損傷修理1隻を含む25隻が、既に船舶修繕契約済みである。34
 
30 Fairplay 27 Jan 2005 www.fairplay.co.uk
31 Fairplay 27 Jan 2005 www.fairplay.co.uk
33 CESA Annual Report 2004-2005 www.cesa-shipbuilding.org
 
【Estaleiros Navais de Viana do Castello(ENVC)】
 ENVCは敷地面積400,000m2、従業員1,100人を有するポルトガルの大手造船所で、最大30,000トンまでの高度船舶のデザイン、建造、改造、修繕を行っている。タグボート、バージ、フェリー、漁船、一般貨物船、ばら積み船、コンテナ船、油送船、ケミカル・タンカー、LPGタンカー、セメント船、戦艦等200隻以上の建造実績を持つ。近年のビジネスは新造船建造が中心で、改造・修繕は20%程度である。
 
 ENVCは2005年2月にケミカル・油送船2隻、同4月にプロダクト船シリーズ3隻の3隻目を、5月にはポルトガル南部海域に就航する客船を、それぞれ竣工した。
 
 現在、ENVCは11隻を建造中で、その内訳は巡視船2隻(2006年4月、8月竣工)、汚染管理船2隻(2007年4月、10月竣工)、多目的コンテナ船6隻、通常コンテナ船1隻である。また、最近ポルトガル海軍向けの新造契約数件を受注した。さらに、ポルトガル政府との3億ユーロの契約を獲得、2014年までに遠洋巡視船6隻、沿岸巡視船5隻を追加建造する。この他にも、多目的コンテナ船7隻(ドイツ船主向け6隻、ポルトガル船主向け1隻)、米国Intermarine社向け8,000DWT貨物船を受注しており、2006年第4四半期以降、順次竣工の予定である。35
 
35 May 10,2005 marinelog
 
【Mondego造船所】
 Mondego造船所は、ポンツーン、バージ、作業船、浮揚式クレーン、浚渫船、タグボート、漁船、貨物船、タンカー、フェリー、艦艇の建造実績がある。船舶修繕部門では、浚渫船、漁船、フェリー、調査船の修理を手がけている。
 
 同造船所は、2004年11月、海洋国家ポルトガルの海事セクターの発展をめざした戦略36を発表し、国家アイデンティティー、造船から観光業における海事産業の貢献、研究開発、海洋環境の保護と管理等、幅広い提案を行っている37。その目的は以下の通りである。
●海事産業を国際的な優先課題とする。
●国家規制の下で海洋資源を持続的に管理し、その経済、政治、文化的ポテンシャルを最大限に活用する。
 
 同計画の目標は、EUの中の海洋国家としてのポルトガルの優位性を確立することである。海事産業の振興に関しては、産業の近代化と再編、専門性の高いハイテク分野の振興、国際的需要の促進、研究開発とその成果の国内軍事使用等の政策により、造船・船舶修繕業及び関連産業の発展をめざしている。
 
37 Report of the Strategic Commission for the Oceans 2004, http://europa.eu.int/comm/fisheries/maritime/portuguese_oceans_report_en.pdf
 
2.13 フィンランド
(フィンランド海事産業)
 フィンランド造船セクターは、豪華クルーズ船、旅客フェリー、砕氷船の建造と修繕に特化している。特殊船建造では、フィンランドは世界で25%のシェアを誇る(2003年)。同セクターの雇用者数はこの20年間で3分の1に減少したにもかかわらず、CGTベースでの生産高は同レベルを保っており、品質は向上している38。フィンランド造船業は、持続的成長のために、研究開発活動、高スキルの労働力、近代的設備に多額の投資を行っている39
 
 2004年末時点で、フィンランドの造船企業は、オフショア及び船舶修繕部門を含め、4,733人を雇用している。2005年3月現在の雇用者数は193人減の4,540人である。2004年の建造実績は4隻、計266,419CGT、新造受注は3隻、257,870CGTである。2005年第1四半期には竣工実績はなかったが、4隻、54,480CGTの新造受注契約を獲得した。2005年3月末時点の受注残は、10隻、526,150CGT、総額17億ユーロである。40
 
 フィンランド海事協会Finnboatによると41、2004年の同国海事産業の成長率は前年比11.01%で、セクターの価値は総額4億4,430万ユーロである。海事産業のほぼ全セクターで成長を記録したが、国内市場におけるモーターボートと帆船の売上が35%増と顕著であった。ボート輸出額は、1990年の4,200万ユーロから、2004年には前年比2.8%増の1億7,870万ユーロに成長した。2004年の船外機の売上げは、前年比13.9%増の23,887ユニットであった。エンジンが大型化しているため、金額べースでは更に伸び率は高い。
 
38 The Corporate Magazine Of Det Norske Veritas No.3/2004, www.dnv.com
40 Association of Finnish Marine Industries, Brief facts about Shipbuilding in Finland,April 2005 www.teknologiateollisuus.fi
41 Finnboat, the Finnish Marine Industries Federation, www.finnboat.fi 11.02.2005
 
 フィンランドの主要造船所は、Aker Finnyards、Technip Offshore、Turku Repair Yard、Työveneである。(表2-13-1)
 
表2-13-1 フィンランド主要造船所の建造船種
Aker Finnyards ●新鋭クルーズ船
●貨客フェリー
●他のハイテク船種
●艦艇、多目的砕氷船
Technip Offshore Finland Oy ●オフショア石油ガス採掘・調査ユニット、円材
●モジュール、船体、オフショア部品
●重工業製品、圧力機器
Turku Repair Yard
●修繕、定期検査、メンテナンス、改造、損傷修理、船体クリーニング、塗装
Undenkaupungin Työvene Oy ●業務用作業船
●パイロット船、フェリー、油濁処理船、巡視船


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