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8月3日(水)
本日のスケジュール・内容
国立療養所多磨全生園研修・見学
高松宮記念ハンセン病資料館見学
 
 午前の部は、国立療養所『多磨全生園』園長の青崎登先生の座長の下、ハンセン病について歴史的な背景から、基礎の研究まで幅広いお話を聞かせていただいた。
 
9:00〜10:00 「ハンセン病の現状と国際協力」
国立感染症研究所 ハンセン病研究センター長 宮村 達男 先生
 
 ハンセン病は、プロミンという薬が発見されたのを契機に、現在では多剤併用療法(Multi-drug therapy = MDT)により治療可能な病気であり、早期発見早期治療によりその重大な障害も予防することができる。しかし、かつて偏見に基づいた差別が患者やその回復者たちを苦しめ、1996年以降、「らい予防法」が廃止された現在でもその病気に対する理解はまだ十分ではない。
 この歴史は、特に日本の行政や医療に従事する者が学ぶべきところが多く、病気に対する正しい知識とその啓発が患者の人権や生活にどれだけ深く関わってくるかを教えてくれている。
 ハンセン病の国際協力については、WHOの「2005年末までにハンセン病罹患率を各国レベルで1/10,000以下に」という制圧目標の下で、治療薬を始めとする物資、技術支援、また啓発活動や教育プログラム等を、WHOを始め、関係NGO団体やその他の組織などが協力しながら実施してきた。しかしながら、現段階でも未達成の国がアジア、アフリカを中心に9カ国存在し、関係組織が全力を挙げて制圧推進に取り組んでいる。ポリオ根絶計画が成功している裏で、ハンセン病の制圧が難しい理由には、有効なワクチンが存在しないことや、早期の発見・治療が難しいこと、根本的な発症原因が判明していないことなどがあげられる。
 登録患者数はインドが世界で一番多く、続いてブラジルとなる。日本での発症患者は、現在では年間10人以内で、ブラジル人などの外国人であるケースがほとんどである。
 そして、今後そのハンセン病対策の鍵の一つは、らい菌のin vitroでの培養であり、その可能性が期待されている。
 
10:00〜10:50 「ハンセン病の基礎と臨床」
国立感染症研究所ハンセン病研究センター生体防御部 部長 
石井 則久 先生
 
 ハンセン病は、慢性炎症性疾患でらい菌(Mycobacterium leprae)の感染によって発症する。この菌の特徴は、2μm×0.3μmの桿菌で抗酸菌に分類され、発育も遅く、人工培養はまだ成功していない。飛沫感染により広がり、感染して発症させる病原性菌と、生体内に侵入してもすぐに生体外へ排除されて病気を誘導しない非病原性菌があるが、発病はまれで治療可能な病気となっている。その方法はダプソン、リファンピシン、クロファミジンの3剤によるMDTというもので、らい菌に対して強力な薬理効果があり、耐性菌の出現も抑える。これは1982年にWHOが推奨し、開始したもので、ハンセン病患者数の減少に成功している。しかし、残念ながら新患の発症を無くすまでには至っていない。
 その病型は宿主の反応により多様で、らい菌の数や、皮疹の性状や数、神経障害や病理所見などから分けられる。その内容はらい菌に対する特異的免疫応答で分け、免疫能が高いTT型、まったく反応しないLL型、それらの中間のB群(BT型、BB型、BL型)であり、Madrid分類と呼ばれている。またもう一つ、菌の少ない少菌型(PB型 paucibacillary)、多くの菌の見つかる多菌型(MB型 multibacillary)の分類もあり、治療法の選択にも使われている。
 主な症状としては皮膚症状と神経症状の二つで、皮膚の表面に結節や斑紋などを生じ、知覚障害や発汗障害を認めたりする。また筋肉の麻痺や萎縮をきたすことで、外見の明らかな変形が障害として残ることもある。
 これらの症状と、知覚障害を伴った皮疹、末梢神経肥厚、らい菌の証明(皮膚塗抹、皮膚生検)をもってハンセン病を診断し、病型の分類後治療が行われる。 (文責:岡田)
 
13:00〜14:00 高松宮記念ハンセン病資料館見学
高松宮記念ハンセン病資料館運営委員 佐川 修 先生
 
 入所者の方々が実際に生活されている園内を通って、高松宮記念ハンセン病資料館へと向かった。園内には入居者が居住されている建物の他に、売店や公会堂、集会所、浴場などもあり、さながら小さな町の様である。
 私達は、資料館で多磨全生園の歴史を紹介する映画を見た後、資料館の運営委員である佐川さんに資料館を案内して頂いた。1993年6月に設立された高松宮記念ハンセン病資料館には年間約1万人の来館者が訪れるが、その60%以上が学生であるとの事である。日本でのハンセン病患者数は減少したものの、世界には約50万人の患者と約2,000万人の回復者がおられ、また患者・回復者の家族は約1億人にのぼる。
 佐川さんは御自身の体験も交えながら、ハンセン病に対するこれまでの差別の歴史、差別との闘いの歴史について説明して下さった。
 多磨全生園には2004年末時点で380名の入所者がおられたが、亡くなられる方もおり年々入所者数は減少している。入所者の高齢化が進んでおり平均年齢は78才に達しているとの事である。
 現在、全生園では「人権の森」構想が進められている。これは全生園の豊かな森と園内の建造物を残し、それと共にハンセン病の歴史を後世へ伝えていこうとするものであり、既に山吹舎(男子独身寮)の復元などが行われている。そして、ハンセン病資料館も再来年にかけて拡張工事が行われる予定である。
 「らい予防法」廃止、その後の国家賠償請求訴訟などにより、今でこそハンセン病に対する差別の問題は社会に一定の理解をされている。しかし、これが後世に正しく伝えられていくという確かな保証は無い。歴史から学び同じ過ちを繰り返さぬ様にする事が大切なのはもちろんであるが、歴史を忘れずその教訓を次世代にも正しく伝えていく不断の努力の重要性を痛感した。
(文責:船橋)
 
8月3日 今日の一言
岡田:国立療養所多磨全生園、ここで病気に対する差別と偏見の悲劇を目の当たりにした。特に、研究が進み治療薬ができてからも、この隔離と不当な扱いが続いていたのは学ぶところが大きい。地元黒川温泉でもいまだに問題になっていたし、まだまだ根は深い問題なのだろう。僕らの代で断ち切り、この教訓を活かしていかねばならない。
金子:佐川さんのお話は、まさに生の声で、考えさせられることが多くあった。午後の懇親会は国内組も含めてみんなに楽しんでもらえたかな?
貞方:自分の生きた時代にも日本各地にあったハンセン病に対する差別の目。それらの差別もむごたらしい数々の結果に、人間の弱く悲しい心の一面を目の当たりにし、今後医原的に差別を起こさないような細心の注意の不可欠さを感じた。
:日本では過去のものとなるのか、ハンセン病。一方、そこから我々が学ばなければならないことは大きいと感じた。人生の最期を家族と過ごせないのは寂しいし厳しいだろうと感じた。無常感。
飛永:ハンセン病を巡る悲しい歴史に触れる。自分が、その時代彼等の隣人であったならば、どのような行動を取ったであろう。
福永:まだ2日目?昨日初めて会ったとは思えないぐらい長い付き合いのように思えるのは気のせいかな。
今井:自分が思っていた以上にハンセン病の差別・偏見の問題の深刻さを知り、考えさせられた。もっと多くの人がこの資料館に足を運びハンセン病について考えて欲しいと思った。
関谷:ハンセン病の患者さんは患者である前に、一人の人間です。病気そのものしか診ず、患者さんの生活にまで目を向けてこなかった医師の責任は大きいと思います。同じ過ちが起こらないように、患者さんの置かれている環境や人権にまで配慮ができる医師になりたいです。
筒井:ハンセン病に対して、現場で何が行われ、何が問題で、自分に一体何ができるのか・・・。これから残りの10日間、この事を考えながら過ごしていきたいと思う。それにしても・・・2日目なのに、もう飲んでるょ・・・
船橋:歴史から学び、将来に生かす事の大切さを改めて感じた。
赤木:ハンセン病患者が受けてきた人を人でなくする差別、佐川さんの話し口調は淡々としていたが、胸が苦しくて苦しくて仕方なかった。
城下:差別は皆が持っている感情か。もっとも虐げられるのは救済されるべき弱者なのか。
平野:ハンセン病資料館で聞いた、名前が思い出せないが、当時多磨全生園で働いていたナースのことが印象的であった。患者さんのことを第一に考え、献身的に働きつづけ、みんなの希望であったという。
鈴木:ハンセン病の実態を知り身も心も引き締まる。明日はフィリピン、セブ島へ!いざ行けフェロー12期生!


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