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8月2日(火)
本日のスケジュール・内容
国立国際医療センターにて国内研修
 
9:30〜9:40 開会挨拶
東京女子医科大学客員教授/笹川記念保健協力財団理事長 
紀伊國 献三 先生
 
 国際保健協力フィールドワークフェローシップ企画委員長であり、国際医療福祉大学総長の大谷藤郎先生が遅れて参加されることを伝えられた上で、紀伊國先生が開会挨拶をされた。
 大谷先生はこの国際保健協力フェローシップの生みの親である。本プログラムが誕生する経緯について話したい。27、8年前に厚生省に医系技官が少ないことを憂慮し、学生に社会問題に対して興味をもってもらうことを目的として大谷先生と日野原重明先生が冬季大学を始められた。ここでは各界のリーダーの話を聞く機会が設けられ、武見太郎先生などにも話をいただいた。その後、ハンセン病の医師が足りないことから夏季大学が始まった。そして、最終的にはWHO名誉事務局長の中嶋宏博士に続く、国際保健医療協力をになう人材を育成する目的で本フィールドワークフェローシップが開始され、今年で12回目を迎えることとなった。
 最後に、国外・国内研修参加者に対して国際性や社会性を養うような研修をして欲しいと述べられた。
 
9:40〜9:45 来賓挨拶
国立国際医療センター総長 笹月 健彦 先生
 
 主に国際保健の問題点と医学生に求めることなどに触れられながら来賓の挨拶をされた。
 国際保健の問題点として2つ挙げられる。一つは、マラリアなどの感染症や新興感染症の問題、もう一つは貧困・人口問題を原因として起こりうる栄養問題についてである。一方で最近では、栄養過多による生活習慣病が問題になっている中国、インドでは糖尿病患者が1億人を超えている。生活習慣病は医療費を圧迫するので政府としてどう予防していくか対策が重要である。
 医学生のさまざまな将来の方向性について、臨床家になる人、基礎を目指す人、国際保健協力を行う人、国の政策に携わる人など多方面での活躍が期待される。最後に医学部学生に3つのことを理解しておいていただきたいと述べられ、生命の理解、人間の理解、宇宙の理解の3つが国際保健協力を行っていく上で重要であるとのことであった。
 
9:50〜10:30 「アジアと日本−我が国の国際協力」
前駐中国日本大使 谷野 作太郎 先生
 
 はじめに日本の国際化について、「(日本の優れた伝統、長所を維持、発展させる一方)排他的、独善的になることなく、我々の行動社会規範をより普遍的な価値をもつものに高め、国際社会と調和を図るとともに、我が国にふさわしい国際貢献を行う」と定義される。日本は国際ルール造りに向けてのイニシアチブをとる必要があり、環境技術分野で世界をリードしていく必要がある。
 次に我が国の国際的責務と国際貢献について、政府開発援助(ODA)を含めた経済貢献・協力や、文化、科学技術、アニメ文化などが国際的な影響力を持っている。また、国際化を考える際のいくつかの視点として、プロ野球での事例でみられるように異質なものを受け入れる寛容さが日本人にはなく、日本人の意識の問題、閉鎖性を考慮する必要がある。日本にとっての課題として、まずは日本の経済をしっかりとした回復基調にすることが必要である。
 最後に、落書きなど東京の街なみ、メディア、インターネットにはびこる低俗な表現などを挙げられ、日本の国徳、日本民族の品格について憂慮されていた。
 
10:35〜11:15 「日本の国際協力とJICAの役割」
独立行政法人国際協力機構人間開発部技術審議役 橋爪 章 先生
 
 はじめに我が国の経済協力について、日本が最大の援助供与国となっている国は、45カ国であり、ODA実績は、2003年の暫定値で89億ドルと世界2位である。日本のODA実績は減少傾向であるのに対して、3位以下のフランス、ドイツ、英国のODA実績が増加傾向である。これは、2001年テロ以降ODAを増加させて貧困をなくすことによってテロを防止しようという意図がある。また、1954年に開始した日本の援助の歩みと、第2次世界大戦後の米政府からの日本の被援助の歩みについても触れられた。
 二国間贈与の技術協力の現状として、研修員の受け入れ状況、専門家、青年海外協力隊員の派遣状況、保健医療関係技術協力について述べられた。また、技術協力は途上国からの要請に基づくものであり、途上国のニーズと専門家などの日本の人材を結びつけるのがJICAの仕事の一つであるとのことであった。
 そして、最後に人間の安全保障を考慮して国際協力をすることの重要さを強調された。臓器移植を例に挙げて、最も援助を必要としている人を遠ざけていないか、「貧困」「恐怖」を増大させていないかなどのことを意識する必要があるとのことだった。また、エイズ案件が、エイズの高度専門治療病院の整備、「疾病」対策から、検査、カウンセリング、感染者支援等の「感染者」対策へと移ってきている現状を述べられた。
 
11:15〜11:55 「国際医療協力の課題」
東京女子医科大学客員教授/笹川記念保健協力財団理事長 
紀伊國 献三 先生
 
 財団法人笹川記念保健協力財団が、1974年に日本財団の創始者であった笹川良一氏を会長に、日本におけるハンセン病化学療法の父である石館守三博士を理事長として設立されたことを述べられたあと、財団の事業について述べられた。ハンセン病対策、寄生虫症対策、チェルノブイリ医療協力、ブルーリ潰瘍対策、HIV/AIDS対策、日中医学奨学金制度などが財団の事業内容である。最後に聖書からサマリア人を例に挙げ、我々の隣人に対して何かできることはないかというボランティア精神が国際保健に携わっていく上で必要であることを強調された。
 
12:00〜12:40 「開発途上国における寄生虫症の現状」
広島大学名誉教授/杏林大学名誉教授 辻 守康 先生
 
アフリカの村にて
 
 はじめに、「今回のフィールドワークフェローシップ研修を機会に視野を広げ、この経験を生かして相手の立場に立って物を考え、周囲の人に配慮する医療従事者になられることを希望します。」という激励の言葉をいただき、また、学生間の絆を深めてほしいとの言葉もいただいた。
 開発途上国における寄生虫症の現状に関する講義資料の中から、寄生虫疾患のチェックポイント、SARS、黄熱病の予防接種について詳しく話していただいた。また、実例に基づいて、ドリアンとビールの食べ合わせによって起こりうる症状とその機序について説明していただいた。また、蠕虫を中心に開発途上国での現状について、ご自分の体験を交えて説明していただいた。
 最後に研修参加者に対して、知らないことは知らないと言えるなど謙虚であることが大切であること、また、開発途上国の人に対して「してあげた」「させていただいた」という気持ちは持たずに自然体で取り組むことが重要であるということを述べられた。
 
14:00〜14:40 「結核と国際協力」
財団法人結核予防会顧問/財団法人エイズ予防財団会長 島尾 忠男 先生
 
 国際保健医療学と結核との関係、結核対策の歴史、エイズと結核、最近の結核研究の動向などについて講義をしていただいた。
 国際保健医療学は、国や地域間にみられる健康水準、保健医療サービスに見られる格差を、(1)何を指標として測定し、(2)それがどの程度まで開けば受け入れがたい格差と考え、(3)格差の生じた要因を解明し、格差を少なくする手段を開発することについて研究する学問と定義されている。よって、結核は国際保健医療学にとって絶好の研究対象である。結核問題の大きさを測る指標として、結核死亡率、罹患率、入院患者、外来患者の統計などが使用されているが、信頼度が低いため年間結核感染危険率(ARTI)が使われている。ARTIが1%以上の国が高度蔓延国とされ、High Burden Countries(HBC)は22カ国とされている。
 結核対策については、患者の発見と発見した患者の治療が感染伝播の鎖を断ち切る手段として最も有効である。強力なadvocacyにより国際協力を獲得し、DOTS戦略を強力に実施することが重要である。結核問題は1970-80年代には無視されてきたが、HIV/AIDS流行の影響や移民・難民の増加の影響から結核問題見直しの機運が生まれた。HIV/AIDSと結核は相互に干渉しあいながら双方の経過を悪化させるため、現在大きな問題となっている。また、最近の結核研究の進展として、結核菌の迅速診断、人型結核菌特異抗原の分離などが挙げられる。対策としては、DOTS戦略が高い治癒率を得ている。
 最後に、日本ができる貢献として人材養成への協力の継続、国際機関への要員の派遣、JICAと通じての技術協力の強化が必要であると述べられた。
 
14:40〜15:20 「日本のNGOの役割と活動」
国際保健協力市民の会(SHARE)代表 本田 徹 先生
 
 Primary Health Care(PHC)とその歴史と手法などについて多くの経験に基づいて講義をしていただいた。
 PHCは、(1)開発論からの学び、(2)途上国での実際の経験、(3)人権思想の確立・普及、(4)障害者運動や地域リハビリテーション(CBR)との交流、(5)参加型教育理論の進歩などが集大成されたものとも言える。参加型学習と行動(PRA、PLA)として、コミュニティマップを作るなどして地域のことを調査したり、ロールプレイを通じて寄生虫疾患などさまざまな問題に関心をもってもらったりしながら理解を深めることなどがSHAREの活動において行われている。
 SHAREの活動としてタイでのHIV/AIDSの活動、カンボジアでの農村の保健ワーカーの教育などについて説明された。最後に「NGO(NPO)とは何だ?」と問いかけられ、「NGO(NPO)のつくりだすものは、変革された人」であると述べられた。また、活動の姿勢として「よいことは自分でやってみるのが一番」という言葉で講義を終えられた。 (文責:城下)


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