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面内ガセット継手の疲労き裂発生・成長シミュレーション
学生員 永田幸伸*      末田明**
正員  後藤浩二***  正員 豊貞雅宏***
 
* 九州大学大学院工学府建設システム工学専攻
** JFEエンジニアリング
*** 九州大学大学院工学研究院海洋システム工学部門
原稿受理 平成17年10月7日
 
Numerical Simulation of Fatigue Crack Initiation and Propagation for In-plane Gusset Welded Joints
 
by Yukinobu Nagata, Student
Akira Sueda,
Koji Gotoh, Member
Masahiro Toyosada, Member
 
Summary
 Welded built-up steel structures in service encounter many accidents caused by fatigue, and it is important for maintenance of social foundations and safeness to estimate their fatigue lives quantitatively.
 By considering that fatigue cracks cannot grow without the accumulation of alternating tensile / compressional plastic strain, one of authors identified that the effective stress intensity factor range ΔKRPG based on the Re-tensile Plastic zone Generating (RPG) load which represents the fatigue crack driving forces, and suggests that ΔKRPG should be applied as the parameter in order to describe the fatigue crack growth behavior. For predicting fatigue crack initiation and propagation, numerical simulation code "FLARP" based on ΔKRPG was developed.
 In this paper, it is confirmed that fatigue life estimation by FLARP gives accurate results by comparing the estimated fatigue crack growth curves with the experimental results for in-plane gusset welded joints which are used in many welded steel structures. Moreover, the effect of induced bending moment due to misalignment for the fatigue strength is investigated by the numerical simulations.
 
1. 緒論
 船舶や海洋構造物などの大型溶接鋼構造物の疲労設計は通常S-N曲線と累積損傷被害則を基に評価されるため,疲労き裂成長挙動は考慮されない。加えて,基礎試験片および構造要素モデル試験体を用いた疲労試験で得られるS-N曲線から推定される寿命が,実鋼構造物においてどの程度の大きさのき裂に対応するか未だ明確にされていない。また,Paris則に代表される一般的な破壊力学により推定される疲労き裂伝播曲線は,初期き裂の仮定次第でいかようにもなり得るだけでなく,変動荷重下の非線形効果,すなわち荷重レベルが変化した直後に生じる過渡現象を考慮できないため,現状では定量的な疲労き裂成長挙動の評価は困難であると考えられる。
 鋼構造物の疲労損傷は,構造的応力集中部を起点として生じる場合が大半であり,この領域は初期欠陥が存在しない健全部であっても疲労き裂の発生点となり得るので,疲労寿命の定量的評価のためには,初期欠陥が存在しない状態(即ち,大きさ0のき裂)から最終破断状態までの連続した疲労き裂成長の推定が必要である。
 著者の一人は,疲労き裂は引張/圧縮塑性ひずみの繰返しが生じなければ発生・伝播しないと考え,引張塑性域が進行する区間に対応する応力拡大係数範囲(ΔKRPG)が,繰返し塑性ひずみ生成領域寸法と一義的に対応することを明らかにし,ΔKRPGを疲労き裂伝播速度を律するパラメータに採用すべきであると提案した1)2)。さらに,辷りからき裂開口にいたる疲労き裂発生過程を転位論的に考察し,この過程中のき裂前方の繰返し塑性ひずみ生成領域寸法と等価なΔKRPGを定義し,これを用いることで,初期き裂を仮定することなく,健全部(0の大きさのき裂)からの連続的なき裂成長挙動を推定する手法を構築し,これらの成果を取り込んだ疲労き裂成長シミュレーションコードFLARPを開発した。そして,角回し溶接継手の溶接止端から発生・伝播する疲労き裂の寿命予測に適用し,提案した手法の理論の妥当性を示した3)
 本研究では,大型溶接鋼構造物で多用されているにも関わらず,疲労き裂発生・成長挙動に対する検討があまり行われていない面内ガセットを対象に,FLARPを用いて疲労き裂の発生・成長挙動の評価を行い,著者らが提案している疲労損傷解析手法の妥当性を検証する。
 
2. FLARPによる疲労き裂発生・成長予測の特徴
 著者らが提案している疲労損傷解祈手法では,疲労き裂伝播速度のパラメータとして先に述べたΔKRPGを採用していることに加え,次の3項目に特徴がある。詳細は文献2)3)4)に紹介しているので,ここでは要点を説明する。
2.1 無き裂状態からの連続した疲労き裂の成長2)3)
 繰返し載荷を受けた金属の表面には,せん断応力により辷り帯が発生し,それが載荷に応じて発達し,入り込みや突き出しの表面凹凸になると共にせん断き裂として成長して深さを増し,徐々に開口し始め,ついには開口型き裂となる5)。したがって,金属表面部に最初に発生するせん断き裂は,負荷サイクル中閉口したまま成長することから,多結晶体では転位論的考察により,最初の結晶粒界にき裂が進展した時点から徐々に開口型き裂に遷移すると考えられ,これ以前の段階ではき裂自身による応力再配分は行われないことが予想される。したがって,一定振幅荷重が作用する場合には,最大荷重時の引張塑性域先端立置と最小荷重時の圧縮塑性域先端位置は,それぞれ過去の負荷サイクル中におけるそれらの位置に留まると考えられる。さらに,最小荷重時,最大荷重時に塑性域が形成されなければ疲労過程が進行しないことから,RPG荷重(再引張塑性域形成荷重)は最小荷重から降伏点の2倍の応力増分に対応する荷重増分を加えたものになり,最初の結晶粒界にき裂が達するまでは一定に保たれる。このことを利用して,長いき裂における疲労被害蓄積領域寸法(最大荷重時の引張塑性域と最小荷重時の圧縮塑鐵が重なるき裂先端の領域)とΔKRPGの関係から,せん断き裂の成長に対して等価なΔKRPGを求めることにより,無き裂状態(き裂長さ0)からの連続したき裂成長を予測することができる。
2.2 多点から発生・成長する複数表面き裂の評価方法3)4)
 構造的不連続部などの応力集中箇所から発生・成長するき裂は,最初は表面き裂状で多点から発生し,き裂成長に伴い合体を繰返して最終的に1つの大きな表面き裂となる。しかし,これらの複雑な現象をまともに取り扱うことは現時点では不可能である。著者らは,疲労表面き裂の成長観察結果により,応力集中部で成長する多数の表面き裂のうち,一番深いき裂に着目し,隣接する表面き裂の干渉効果を考慮した最深部の応力拡大係数を有する単独の表面き裂(等価表面き裂と称している)に置き換え,このき裂のアスペクト比変化推定式6)を与えている。この操作により,多数の表面き裂の成長・合体問題を単独の疲労表面き裂の成長問題に変換して取り扱うことができる。
2.3 等価分布応力の導入3)4)
 疲労き裂は,初期には板厚貫通き裂ではなく,表面き裂のように3次元問題として取り扱う必要があるが,表面き裂に対して疲労き裂の伝播挙動を支配するき裂開閉口現象を定量的に扱って,き裂成長シミュレーションすることは現時点では不可能である。そのため,表面き裂と貫通き裂において応力拡大係数が等しければ,き裂先端近傍の応力/ひずみ場が近似的に合同とみなせることを考慮して,表面き裂の貫通き裂への置き換えを行っている。すなわち,解析対象のき裂長さ(表面き裂の場合はき裂深さ)と応力拡大係数の関係を,無限板中に存在する貫通き裂に再現する応力分布を求め,その下でき裂開閉口挙動およびき裂成長を推定すればよい。この応力分布のことを等価分布応力(Equivalent distributed stress)と呼んでいる。
 
3. 疲労試験の概要
 Fig. 1に示す面内ガセット継手試験片の上下端に,一定荷重振幅を作用させた疲労試験(繰返し速度:10Hz)を実施した。疲労試験はcase1(最大公称応力139MPa,最小公称応力6MPa),case2(最大公称応力186MPa,最小公称応力6MPa)の2通りについてそれぞれ2体ずつ実施した。供試材はSM490Y鋼であり,降伏応力は398MPaである。また,き裂長さの計測にはビーチマーク法を用いており,ビーチマーク挿入荷重履歴の一例としてcase1の場合をFig. 2に示す。
 FLARPによる疲労き裂成長シミュレーションでは,繰返し載荷時の降伏点も与える必要があるが,供試材に対するこれらの値は不明であることから,著者らが過去にSM490YB鋼について実測した繰返し載荷時と静的載荷時の降伏点の比(0.545)4)を乗じることで,供試材の繰返し載荷時の降伏点を与えた。
 
Fig. 1 Specimen configuration used
 
Fig. 2 An example of applied loading history


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